佐々木仁は本当に「全て」を忘れた。4
「おはよ」
多少引いた偏頭痛であったが俺の脳内では渦巻いていた。こんな苦痛を味わってはいたものの、生理現象である食欲には勝てなくもう昼であろうリビングに降りる。
今日は両親共に出かけていて家にいるのは俺、妹、兄の筈。
「………………」
ビンゴだったようだ。とはいえど兄は居ず、残っているのは妹のみ。
相変わらずの怪訝な眼差しであるが、少し口角は上がっていてにやついているようにも見える。
まぁ気のせいであろう。気にしても人生変わらない。変わったところでそれは妄言に過ぎない。
俺は妹の後ろに位置している引き出しからお気に入りのカップ麺であるスガキヤのカップラーメンを取り出そうと一歩前に踏み込んだ刹那、妹の口角がうわ上がりする。
そして息を吸ったかと思えば目を合わさず声を上げる。
「そういえば聞いたよー。お兄ちゃん生徒会長選挙で推薦人やるんだってね~」
その声は素直な尊敬なんかでは微塵もなく、高圧的で、どこか嘲笑するような声音だった。
「ああ、そうだ」
俺は眼鏡を思い出し不愛想にそう返す。こんなところで絡んでも無駄足だ。
「でー俊お兄ちゃんも出るってね~」
「…………」
俺は気にせずカップ麺の蓋をめくり開け、かやくを入れる。
「あ~つまらなそうだよなーーーー。お兄ちゃんがやる文化祭。ただでさえ、公立高校はごみ見たいっていうのに。でも俊お兄ちゃんだったら絶対楽しい!」
「…………」
無心になり、ポットに水を入れる。
「何なら友達と行っちゃうよ!あ……確か身内しか行けないんだっけ?まぁいいや。俊お兄ちゃんを一人いじめできるし。俊お兄ちゃんの生ギター聞ける。きゃー」
「…………」
ギターが弾けるのは俺だっていうのに。
「もう碧海高校入ろうかな~。もおー楽しそう!」
「…………」
沸いたはカップの中に注がれ、かやくが宙を舞う。
「というかかわいそうだよな~お兄ちゃんなんか推薦されるなんて。本気なのかな?絶対ふざけてるって」
「………チッ」
無心にしていた筈なのだが自然に出てしまった舌打ち。その波動は自然に出てしまったのにも関わらず威嚇的で、音は張っていた。
「はぁ何?敗北者。誰だか分らんけど最初から勝つつもりのない内申野郎どもに利用されてるだけじゃないの~?ほんとに性格悪い」
「伊良湖たちがか?」
「そうだy」
即座に俺は妹に対して詰め寄り、ガンを飛ばす。俺のやってきたことは否定していい。そんなくそ見たいなものどうでもいい。だが………伊良湖たちは……。
「⁈。…………。…………なに?」
「もう一回行ってみろ」
俺はできるだけ声を張り上げないように自制する。今にも煮立ってあふれ出てきそうな窯に力ずく蓋をする。だって…………。
「………………………。…………チッ。何本気になってるの気色悪い。あっそ、勝手にしてれば」
そう、言葉の残像が消え失せる前に妹はさっさと自室へ帰っていった。
普段、ここまで感情をあらわにはするがそれとはまた違い、どこかからか憤りが湧いてきた。
「……………はぁ」
感情的になってしまってもう兄としての威厳なんて何にもない。そして何故か許しがたいことであったのだがそれは分からずじまい。そしてまた偏頭痛が響き渡る。
気づけばポットのお湯を全てカップに入れてしまい、かやくはあふれ出してしまっていた。
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