日常とは同じ月日を繰り返すから日常である。

ワン

日常はおはようの一言で始まる。1


 タイムマシーンなんていらない。あったところで戻りたい場所なんてないから。

 

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1 日常は「おやよう」の一言で始まる


 「おはよ」

 「………………」


 俺の妹、佐々木藍は卵焼きを作りながらふわんと黒髪ショートをたなびかせる。そして俺を見すぐ俺を見た瞬間灰紺色の目を怪訝なものにし間隔を細めるのであった……いやお兄ちゃんって辛辣。なんで妹ってだいたいこうなんだろうな。ツンデレのツン百パーセント、もうこれ他人じゃね?


 「………」


 ジュージュ言う卵焼き専用フライパン、沈黙の中も、そのフライパンを器用に使いながらももうこんな姿は見慣れてしまった。

 妹が中学入学と同時期にいきなり「今日から私が朝ごはんを作る!」……と中学デビューをかましてからもう一年……はあ時って経つのは早いものだな。

 俺が立ち止まっている間も妹はさっきまで奏でていた鼻歌は俺に聞かれることはない。

 こんなそっけない姿も、かの有名なシスコン兄貴ではないのでいつもの日常としか思わない。あー昔は可愛かったのになーいつから妹はお風呂の中でツンデレに目覚めたのかな~本当に気になる。

 さすがに俺の妹もしらを切らしたみたい。少し俺は凝視しすぎたのか否か、妹は一歩すり足で引き、何か排出物を見るような目と無駄に口角だけあげた疑似苦笑いで一言


「気持ち……悪いんだけど…ほんとに…………」


言葉は途切れ途切れであってテーブルで優雅に紅茶を飲んでいる母親に聞こえないようにか、声自体は小さい。

 まあ俺はさすがの妹なので誰かに罵倒されて喜ぶような俺でもこの空気はどうすることもできない。

 まあ俺勝手に断定してしまったけどそんな気持ち悪いかな?ルックスはラノベ主人公の如く平凡な感じなんだけどな。ってやっぱ気持ち悪いや俺……じゃなくて気持ち悪いのは主人公。


 「はあ」


溜息一唱。なんで俺は朝からシロノワール並みに重くならなければいけないのだ。ほんと……辞めといたほうがいいよ調子乗って頼むの。ハーフが一番ハーフが。食べきれないから。

 俺は肩をうなただれさせながらひんやりと秋の趣を感じるフローリングを歩いていく。

 現在の時刻は6時30分を過ぎたところ。小窓からは木漏れ日が差し込んできて糸筋の光が俺の足先を照らす。

 そして俺は少し視界を上げるとそこにはテーブル。そしてその上には卵焼きが一皿置かれていた。勿論母のほうに。


 「おはよう」

 「おやよう~仁」


朝から和む声は本当に上品で「どこか」の「誰か」とは違って聞くだけで心拍数がシロナガスクジラ並みに落ち着いく……あっ死んだわ俺。


 「はい、仁。朝ごはん」


渡されたのは未完成ストライド張りの茶掛かった卵焼き……ではなく某地縛霊型メロンパンだった。

 まあ好物だからいいのですけどね。


 「ありがとう……って母さんは作らないの料理」

 「いやだって藍の塩気のきいた醤油味の卵焼き食べたいじゃない」

 「ほんと母さんクラスになるとサラっと日常的に皮肉を使いこなせるのは尊敬するよ」

 「あら、うれしいわね」

 「これも皮肉なんだがな……」


蛇が獲物を狙うがごとく焦点を合わされた気がしたが見逃しておくことにしよう。

 ほんとこの妹の態度は、金髪で碧眼で容姿端麗、学業優秀、スポーツ万能、おまけに周りからの信頼の厚いかの高坂……じゃなくて。あれなんだっけ?ほんと不躾な俺だな。不躾!(声優)

 あの醤油がうらやましくなった俺であったが、こんなのは戯言なのでどんなことでもいい。本題は今俺の目の前に置かれたメロン地縛霊型メロンパンである。えっ、別に卵焼きを食べたかった訳じゃないからね!

 俺は決してシスコンでもないしラノベ主人公でもない。ここの二種はイコールみたいな感じで扱われそうだが実際は違う。現実妹なんて可愛くないしし愛おしくもない。兄弟なんて親が死んだらただの他人とネットに書かれるのも少し納得してしまう今日この頃であった。ほんと、現実とは辛辣だ。

 仕方がないのでさっさとテーブルの上のメロンパンを食すことにする。俺の手の取った某妖怪メロンパンはもうシールの価値がないぐらいの存在になってはしまったものの中には人を引き付ける程絶品が入っていてこれがまたほんとにおいしい。メロンパンマニアなら一度は食べといたほうがいい絶品。まあもうあの猫を店頭で見かけた人は一人もいないんだがな。……やっぱ現実は辛辣だわ。

 朴っっと食べると汚職の香り……ではなく芳醇なメロンの香りが鼻を抜けるように香り、さっくとももちとも言えないしっとりさを兼ね備えている。そしてぽろぽろとしてうまく取れない耳など最高。ああ……シアワセ。

 ここまで早口で言ってそうな俺氏である。自分で語っておいてなんだが中学時代知り合いの陽キャにジャンクパソコンを早口で説明した時の恥ずかしさが過っていく……。だってグラボなしでC〇Dやろうとしてるんだよ。スイッチ勢がイキんじゃね!

 1分もせず食べ終わった今はもう見ずのメロン型猫が写っているセロハン袋の先をひょんっとつまみごみ箱に捨てに行く。

 部屋の角に置かれたこじゃれた灰茶色のごみ箱に放り込もうと思ったものの妹に「え……」という胡乱な視線を向けられるのは癪なので0距離で入れることにした……そんな時だった。


 「⁈」


漆黒で染められたごみ箱の陰から、ポツンとかわいらしい電気ネズミがこっちを覗いてくる。その電気ネズミは頬を朱で染めており尾は茶、まるでパートナーに紐で縛られて引きずられている、そんな絵はそう簡単に描写で切るわけないが……ってきっとできる。一話見てれば絶対分かる。というか紐で縛り付けられるって文面だったらセーフじゃなくてアウトだよ!な?まあそんなことはいい。俺にはそんな性癖はない。今はこっちだ。そう……。


 「父さん……………」


 うちの父親も妹からは迫害対象らしくなんかいい砂糖使ってるくせに謎に人工甘味料の味がするカピカピの卵焼きを食べさせてもらえなかったらしい。嗚呼可哀そう……何も知らずにつまみ食いした無垢な俺が。多分裁判だったら情状酌量で父から死刑食らうぐらいだろうな。

 でも、無駄に早く家を出て行った父親の背中が容易に想像できてしまい本当に悲しい。てかポケモンチョコサンド1個とかかわいすぎだろ!まあおいしいから……。気持ちはわかるけどな!

 あの粒粒感を思い出しながらも俺は、テーブルに戻り母に次いでもらった紅茶をすする。


 「すsssssssss」


 優雅にこんな日常も悪くないと貴族風にしみじみと感ずるのもおかし。っと平安貴族の如く浸っていると……ふと俺の頭上にボルテッカーのような鈍い痛みを感じる。それと共に俺の脳内にやってきたのはある一人の男の姿。いや……。

 俺は何処か誰かの背中を模索しながら追いかけると次第に霧は晴れ、秋の趣と共に直射できない影が浮き出てくる。

 その姿は完璧超人、イケメンでスポーツ万能、成績優秀でおまけに周りからの信頼が高く髪が茶がかったある男性であってそれは……。

 勿論父ではない。きっと。いや絶対。


 「兄か……」


 その姿の正体は、この佐々木家の長男、佐々木俊哉。

 まあ先ほども紹介した通り完璧だ。まあ俺が尊敬してしまうほどだからもうお察しであってもうなんだかすごい。語彙力をなくすほど。

 刹那————ってこれどうやって使うの?教えて!「あとがき作家」さ~ん!

 ゴホン。気を取り直し、あれっと言わん感じで対面斜めに四人掛けの少し大きめな机の右端に座っている座っている葵ロングワンピを羽織った母親に少しかわいげをもって質問する。


 「としくんは?」

 「ん?どうしたの仁。俊哉ならもう部活に行ったわよ。さっき……ってまだ寝てたわね」


 ふわっと少し悪戯に微笑みながら紅茶をすする。

 そのあと、あの~とだらだら会話するのもありだがなんかその気にならない。それもすべて兄のせい。

 はあ、嫌な顔を思い出してしまったな。整った顔立ち、イケメン……憎き。

 こんなんなので俺は周りから兄と比べられて生きてきた……というわけでもない。

 セオリー通りならば俺は家族からも親戚からも兄の友達からも罵倒され出来損ない扱いされるはず。

 でも、実際なんの気遣いかわからないが親戚、中学時代友達、先生と諸々「お兄さんかっこいいですね……」だとか言って気まずそうに俺の顔を伺うだけ。なんだよそれ一番傷つくわ!しかも目を泳がせるな!先生とか白めになりそうになりながらもグルんグルんと家庭訪問していたし。

 まあ、そんなところ。

 これは日常で俺の生活の範囲内だと思っていたものも、古本屋で調子乗って買いすぎたせいで両手ダンベル状態になった正月みたいな劣等感が俺を襲う。ぬぐい切ってもまた生えてくるその劣等感。息ずらく虚しい。

 ―――――でも……俺はこれ等から解放される解決方法を俺は知っている。多分いや、この年にしてこの結論に達したのは俺だけであろうな。それはこの環境の上育てあがった感情。諸行無常の響きなんて最初から響いてすらいない。それは。きっと。それは…………………………………………。


 「そうだ仁。部活の調子はどう?怪我はしてない」


っとまた和やかな声色で俺の思想を切っていく。はあ。まあいいや。そんな気負ったところでなんも変わらないし。


 「母さん、また皮肉?俺の怪我の原因って文化部で本で指を切るとかそんなのしかないのだけど?」

 「それが一番致命傷じゃない。家事を休めない怪我……これこそ主婦の最も恐れるものよ。骨折ならいいけど。仁も実践してみてね 。レッツゴーバイカー」

 「それは学校まで車で送って行ってくれるってことでオッケー?突っ込めとか言うガンガン行こうぜより無責任なアレじゃないですよね⁈」

 「Let's go in front of cars」 

 「ネイティブ よくても駄目だからね!しかもS!複数形!俺をどんだけ轢かせる気⁈」

 「いいぞ~ガンガン突っ込め~まぁ何処にとは言わないけどね」


母の目の先がすっとこちらを向いた気がする…………怖。

 そんな母は、若いうちは元気がいいわね~っとどこかから聞こえたような気がしたが無視しておく。なんか変に突っ込んだら意味深なところまで行きそうだし。ほんとお茶の間での下ネタが一番つらい。月曜から夜更かししてみていた番組は本当に死ぬかと思った。いきなり珍宝館の館長〇〇〇とか本当にお茶の間凍るよアレ。

まあ行ってみたい俺が居るのも事実なんだけどね!

 俺はいい意味で興奮した脳内を冷ますためにアイスティーこと紅茶を一気に啜る。


 「行ってきまーす」


俺は碧ヶ丘高校から県道対面に少し入ったところ。近くに市役所が合ったりするそんなところから勢いに任せて俺は飛び出した……って勢いで出てきちゃったけど早いな。まだシャオミのスマートバンドを見ても現在時刻はAM6時55分だし。中学時代は中学が近いこともあって7時30分位に起きていたのでそれよりも早い。

 秋の日差しが差し込んでき、残暑香る今日は9月11日。学校では課題テストが終わりひと段落着いたそんな水曜日だ。

 俺は賑やかな朝練の響きを聞きながらも、いつもと同じ、16年間、一切変わらない足取りで俺は緑が丘中央駅に向かって歩いて行った。

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