日常なんて一言で変わってしまう。3

 


 時間は少しだけ過ぎていき時刻は午後4時過ぎ。部活の時間だ。

 図書室から見渡す空はいつ見ても爽やかに透き通っている青で可憐、この一言に尽きるであろう。

 そんな景色に目もくれず、俺はお友達のグラボ内蔵ノートパソコンとにらめっこしていた。誰とも話さずに……。

 そう、改めてだが俺はボッチだ。中学時代は結構友達いたんだけどな~。

 まあお察しの通り思いっきり高校デビューをミスってしまったわけでして……。

 そう、その原因は進学校に落ちた後の春休みだっただろうか…………………。

 当時思いっきり背伸びした受験に落ちてその反動でアニメ、ラノベの方へ走っていったんだよ……。

 そこで出会ったのがあるラブコメ。それは世に言う残念系ラブコメってめっちゃ面白かった。思わず三河弁が飛び出るぐらい。だら?

 まあそういうことでその主人公に憧れて高校に入ったら今の姿。多分今日のヤリチンとこ会話が両手で収まるぐらいの回数しか話してない気がする。兄のことを抜いてだが……。

 という事で結論だが「俺の青春ラブコメは間違っている!」っと。ごめん最終巻見てやってみたくなってしまった。すみません……先生……。

 だから皆さん捻くれないでね!俺との約束だゾ!

 なんか最近三井信用UFG信託銀行並みに心を託している気がする。「心を託す物語……」YouTubeで何回聞いたことだろうか?まあ全部最後まで見たんだけどね。

 少しそれてしまったが俺が言いたいのは一回の失敗で失うことはこの上なく大きいってと。そしてその後どれだけ足掻いても変わらないどころか悪くなる一方で結局諦めという言葉にたどり着く。日常は残酷だ。明日も同じ月日を運んでくる。諦めてから日常とは同じ月日が流れるから日常であるということに気付く。まあもうそんなことこの15年間で知った話だがな。


       ×       ×       ×


 あれから二時間弱。

 改めて図書室中を見渡してみると今日は羽豆がいない。居るのは眼鏡だけ……いやお前は帰れよ。

 まあ昨日は気の迷いみたいので話してしまったたが、あの会話が文芸部史上初の挨拶以外の会話だった。挨拶は会話だよ……ね?それじゃなきゃ俺の会話回数片手で数えれちゃう……。はあ。

 なので意外に誰かいなくても気づかないものでそれ故か、プログラミングの出来がぐんぐんと良くなっていっていた。そう、このボッチがすごい!のだ。虚しいからやめとこ。

 俺はキャロットジュースが数本入ったバッグにノートパソコンをぶっこむと立ち上がり背中を伸ばす。

 今日も一日お疲れさまでした~。っという事で俺の一日も始業。やるか。

 俺は椅子を丁重に入れ込み歩き出し再びふ~っと背を伸ばすと眼鏡に鍵よろしくとだけ残し部屋から出る。

 無言の間だったが多分大丈夫だろう。きっと後でカギを職員室に持って行ってくれる筈。

 くすんだ抹茶色の廊下に陽は差し込み、そこから反射していった光は辺りを照らしていて思わず腕を目にやってしまう程。眩しい……。

 でもいつも通りの日常。今日もその一概に反していて四か月目の日を堪能しないまま俺は廊下を歩いていた。

 そして階段のある突き当りを曲がろうとしていた刹那―――俺の鼻に柑橘系の香りが撫でた。

 その一弾指、ほぼ同時に俺の心臓が鼠並みに動き出す。

 急すぎる始動に受験期患った不整脈を思い出したがそれよりも騒々しいももで何処からか高揚感が湧きだしで来る。それは不快なものではなく何かの「始まり」のよう。

 俺は唾を飲むが……もう飲めるほどは残っていなくカラカラだった。一瞬のうちに体が反応していた。

 こんなところでアル中カラカラ~みたいに容器にセロリ片手にできればいいのだがそうはいかない。なぜかわからないか体が縛り付けられている気が感じられる。


 「仁!」


 背後から飛び込んでくる声。その声ははっきりとしているがどこか震えている、そんな矛盾を抱えた声音だった。

 明らかに羽豆ではない声。しかも可愛い。誰だろうか?

 階段上の窓からは放射所に入り込んでくる光がまるで照明みたいで俺の気持ちを狩り起たせる。

 相変わらずの柑橘の香りは俺の心臓のギアを上げていくだけ。

 俺は放射状になっていた光を腕で薙ぎ払い振り向く。

 そして胸の高鳴りの山に入った刹那、髪染め禁止の田舎公立高校では珍しい茶がかった蜜柑色の髪をふわりとさせ、大きめの瞳をパチクリとさせた女の子が視界がに入ってきた………うん、可愛いな。

 彼女は俺がその姿を確認したことを把握すると、ごく一般的な学ランの裾を掴み、誰もいない廊下を引っ張りながら駆けていく。

 地にいる筈なのに感じる浮遊感。でも鳴り響く足音。俺はリニアにでもなったかという気で引っ張られていた。果たしていつ開業するのだろうか………。それは永遠の謎だ。

 そしてついたのは本校舎、つまり真ん中にある棟の一番端に配置されている階段の踊り場。

 その場所はボッチである俺御用達である通り、まったくと言っていいほどの人通りがなく少し埃っぽい。ちなみに俺は教室でどこか気まずくなった時活用している。なぜか先生が教室で弁当を食べている時など……先生も職員室で気まずくなったんだろうな。

 俺の顔も彼女の顔も火照っていて夏の輪図らしいさが蘇っている。一滴垂れてきた汗を拭うだけの時間。そんな日常的な時間でも、俺の心臓は鳴りっぱなしでヤジを飛ばしている。

 九月も中頃に入ってきているというのに残暑が感じられるそんなこの頃、沈黙は1分と続きつまりあれだなっと、やっと俺も察しが付いてきた。

 もう語彙力なんて知ったことではない。俺はこんなケースの場合を知っているぞ!

 これはつまり……!………!………?

 その先が俺には紡ぐことができなかった……っと感じた童貞の秋であった。多分ヤリチンならこの先の言葉を紡げるはず。でも俺はできない。なんだって経験がないからな。はっ。はっ。はあ。

 何故か腹式呼吸の練習をしながらも、今から起こりうるであろう出来事を想像しながら、にやけそうになった口角を停滞させる。

 タイミングを掴んだのか彼女は艶やかな唇でこう呟いった。


 「佐々木……」


儚げな響き……。それに俺は「佐々木だよ」っと小島さん並みに女慣れしていなさ満点のキモイ返しが出てきそうなので、平然を装て、平安貴族の如く余裕に満ちた笑顔で俺は返答することにした。


 「それでね」

 「それで……あ……え」


嗚呼……気まずいですよねこれ。ナニコレ、こいつアンチ俺なのか?ちなみにダメージフォールに突っ込んで死んでいった奴が居たらそいつは俺です。

 っと俺は球を弾いたところで事で、リトライすることにする。

 平然を装いて……。


 「それでね」

 「それで……い」


平然を装いて……。


 「それでね」

 「それで……う」


平然を装いて……?


 「それでね」

 「それで……お」


え?


 「それでね」

 「うんちょっと待とうか」

 「うん………」


思わずツッコミ症である俺の病がリズミカルに奏でる鼓動の音と共に出てきてしまった。これはこれで平然だろう。多分……。

 男の子は無駄なところで平然を装いたがる性質である。そう俺も自覚しているし自覚した。なんでだろうなほんとに……。少しすかしてみたくなるのかもしれない。それとも弱いところを見せたくないのかもしれない。男の気持ちというのは正直男である俺でも完全に理解できていない。とっさに反応してしまう。結局は自己満足だと知っていても……。

 脳では理解している筈の感情が抑えれない。今だってそうだ、口角が上がりかけている。

 だからこれもその一端かもしれない。結局いつもの通りと日常通りと。――――――――でもその刹那、俺は耳を疑った。


 「付き……合って……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る