日常なんて一言で変わってしまう。5
3、4秒たった後の消音状態、彼女はセーラー服のふわりとしたスカートの片切れを握っていた。
差し込む放射状の陽は放射量を変えていない筈なのにあたりの空気は2、3度上がった気がする。そして鼓動は一人立ちしている。
毛穴から滲み出してくる汗は拭うには丁度良く、学ランの裾が光り輝いていたていて直視できないほど眩しい。その言葉は、もしかしたら彼女に掛けるべきかもしれない……。
そこまで付いてしまいそうな深度のは瞳は少し揺れていて健気さが伝わってくる。これは真意なんだろう。どんな悪戯でもなく。どんなものでもなく。誠意で。懸命に。そして……。
彼女の瞳を再び見つめる。もうこれは勘違いではない。核心である。
三度訪れる沈黙。俺は無意味な溜息しか吐けず空気を響かせることはできない。
こんな確信の持てた状況、踏み出せる……。
…筈なのに俺は一歩が出ない。確定演出の筈なのに何も出て来やしない。俺は……。
『………』
でも……切り出した彼女は進んだ。先に、先にへと。
俺は姿を見届けたいと思った。どこか庇護欲に駆られたのかもしれない。でも俺はそれでいいんだ。これが俺の15年間。正しい答えなんだ。だからきっと……。
俺は知らず知らずに伏せてしまっていた顔を上げ、もう何度目か忘れてしまったぐらい合わせた瞳に向ける。
彼女は瞳を震わせ相変わらずの赤面だが、握っていたスカートはしわを残すだけになっていた。
1秒、1秒と広がっていく布の折り目。でも曲がったままの布地は元の更地にはならず谷折りが無数にできていた。そこに光となして影ができる。
俺は少しうなずくと、息を肺が飽和するまで取り込み日常へと向かっていた。——————筈だった。
「そうだ!生徒会長選挙に付き合って欲しいの!……って、え?」
「わかっ……。ふぁ?そうだ?え?」
何処からか湧き出てしまった空気の渦。ふぁ?いやなんだこれ?え、え、え、え、え?つまりどういう事?
こっちはこっちでてんぱっているものも、なぜか彼女は顔を赤面にするとともに溜息をかもしていた。かと思ったら急にてんぱりだすし……。拍子抜けしてしまった。
初対面、名前も知らない男女二人が、誰もいない、通らない踊り場で汗を垂らしながら溜息……。何この修羅場。軽く科捜研に送っちゃうレベル。俺なら「怪しい」っと食べられたラムリン並みに言うのだがな……。怪しいのはしまじろうだったわ……。
俺が感じているのはこの空虚感。俺振られたの?っと言わんばかりに感じてしまう俺が居た。ていうか「へっ」て明らかにそうだよね俺?自意識高すぎたのですかねこれ?????
気づけばあふれ出てくる汗粒は冷酷極まりなく軽くたたいただけでインナーは氷点下。
溺れかけていた俺は現在の姿のまま打ち上げられていた。吊り上げられた気分。でも……彼女は可愛かった。愛おしいぐらいに………って俺振られたわ。
っで彼女とは言うと少しもじもじと顔を朱に染めながら多分無印で買ったのであろうリュックをごそごそと探索していた。そしてGalaxy Z Flipという最近話題の折り畳み式スマホをカチャっと少し平成めいて緑色の画面を慣れた手つきで手ばやに操作すると俺に示してくる。
軽くガジェオタ心が騒ぎそうになったが一端終着。俺は示されたと通りの画面を見る。
「QRコード?」
思わずアホげた声を発してしまった。
俺に示される。いやナニコレ?「私に恵みを!」とか言ってせびるあれですか?
っと俺が首を傾げると彼女も首を傾げ人を小バカにしない、純白な声色で疑問を問いかけてきた。誰か達とは違い……。
「QRコード知らないの?」
ん?
彼女は目を目を丸くしながらも純粋、子犬の目をしていた。昔、中学時代によく使ったような気がするけど……なんだっけこれ?
緑の画面からのQRコード、緑の画面からのQRコード、緑の画面からのQRコード……あれか!
「つまり……お金頂戴ってこと?最近のLINEペイはこういう事できるんだ……最近はキャッシュばっか使ってるからね。ははは」
「確かにLINEだけど!ツイッターに害されすぎだし!」
何故か突っ込んでくる彼女。せびる方がツッコミとは珍しい。
まさか俺もせびられる日が来るとは。後突っ込まれるのも。まあ父引っかかったって言ってるし妥当かな。って……ちちぃぃぃ。
ちなみにだけどキャッシュというのは高校生でも作れるビザカードみたいなものでQRコードで簡単に送金しあえるよくツイッターなどで使われる奴だ。……多分。俺自作界隈しか知らないし……。(ちなみに自作界隈とは自作pc好きが集まる界隈だよ!)
まさかツイッターでも交流が狭い俺だったがそんなことはl気にしない。俺は手ばやにキャッシュを開くとQR読み取りをすることにした。
「さっさと金だけもらって帰ってくれ!」
「まさかガチだったの⁈ねえ!」
が……反応しない。確かによく見ると画面もQR違う気が……。てかなんで俺LINEペイって知ってるはずなのにキャッシュ開いてるの?カツアゲ耐性って遺伝子通ってるんだな。
「あれ反応しないよ?」
「それは仁がキャッシュを開いてるからでしょ……」
「え?せびりに来たのじゃないの?」
「違うって!私仁の中でそんなイメージだったの?」
茶がかった蜜柑色の髪をふわりとさせながら顔を朱に染め、泣き目になり突っ込む彼女。なんでそんなに可愛いのかねぇ……。
はあ、なんて色気のないというかなんというか……。まさかのふわり系女の子からの告白イベント!みたいな最近のギャルゲーでもこんな荒いイベントないだろ⁈っていう位のイベントかと思ったが現実は上手くはいかなかった。というか女の子と話すとき四択の選択肢出ないんだね!初耳!
これは林先生も驚くレベル。半端ないわ……。最近の女子やばいわ……。
そんなことはどうでもよく、彼女はいまだに少しもじもじしたと思ったら顔を朱に染めたり考えたりと情緒不安定なのか?っと問てしまいそうになる位反転しながらも、心が決まったのか今度は暖かい息を付き、俺に話してきた。
「ライン……」
「主語がないですよ」
「主語だけはあるよ!」
「なんでそこだけ反論してくるんですかね⁈しかも文としては間違ってるし!しかも表情をコロコロと変えて……情緒不安定ですか⁈」
「仁のせい……」
何かを呟いたはずなのだが聞き取れなかった。彼女は少し頬っぺたを膨らませなが折り畳みスマホをパタパタさせていた。パタパタパタパタパタパタ。耐久力はいいので勿論壊れない。てか俺も欲しい。賞金で買おうかしら。
そんな俺の心境に彼女は触れず、また消えかけの声で呟く。
「ライン交換しよ……」
全てが一線上にまとまったとたん心臓が跳ね上がる。たった一言なのになんと魅力的なのだろうか?初めてかもしれない、女子とLINEを交換するのは。
さっさと俺はLINEと立ち上げどこか忘れてしまったQRコード読み取りの画面を探す。
そして読み取り画面になったところで俺はスマホのカメラをかざすと………。
「あれ?反応しない」
「仁、またキャッシュ開いては……ないよね?」
「いやいやいや勿論」
確かに俺の画面はLINEだ……。
「あっ………」
彼女は気まずそうに表情を曇らせこちらを伺ってくる。何?まさかLINEって友達上限とかあったけ?まあこの見た目なら陽キャラの一員だろうしあり得るかもしれない。
っと勝手に推測していた一瞬間、彼女は空気を響かせた。
「私がキャッシュ開いてた……」
「いやせびる気満かよぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
スピーディーな俺のツッコミに一筋、光が通った気がした。
気づけば俺はこの湿感と同じく、心臓の揺れも感じないほど滑らかなものになっていて、でも暖かい、そんな空気を俺は久しぶりに吐いていた。
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