日常なんて一言で変わってしまう。7

会話パートはもう終了。俺は赤い彗星の如く鈍行で進む電車の中にいた。

 やっと緑が丘に帰ってたよぉぉぉぉぉ。

 その安心と安堵と共に今日、そう、濃い一日分の重力がドッとのしかかってきた。その重力はほんと……妹が作るチョコ位甘ったるく、ねねちゃんの母親の料理位しつこい。ちなみにねねちゃんのお母さんの本名は桜田もえ子って言うらしい。

 それはその筈、あの会話パートの後ヤリチンにコメダに送還されたおかげで疲れたのなんのと………でも味噌カツパン美味しかったのでOKでぇ~す。

 ガタンガタンと響き渡る駆動音はモーターの音と周囲のこそこそとした会話の音、全てが同化していた。


 「テンテン、テンテン」


最近変わったばかりの扉の駆動音は三河線のリニューアルを象徴しているのだが古きを忘れてしまっていて寂しい気もした。

 単線一線の三河線。片側ホームの緑が丘中央駅。歩き出す制服姿の学生、社会人。きっとみんな明日を過ごし、そして日常を繰り返していくのだろう。

 でも……それに皆満足している。それでいいと思っている。果たしてそれは諦めからなのだろうか?

 俺は分からなかった。知る方法がなかった。

 俺は自販機で買った受験期愛用の紅茶花伝のキャップを開け、そのままベンチに座り込む。

 二つあるベンチの逆側、俺から見て左側には同じく紅茶花伝を持った男の子、多分すぐそこにある俺も通っていた塾の生徒だろう。

 そういえば懐かしい。俺も進学校を目指してったけ。

 すsssssssssssssssssss

最近このs連打がソフトに赤い波線を引かれてしまうのだがまあ気にしない。

 ふう。至福の時の甘い一服にこれほど癒されたときはあの時以来。多分横で佇んでいる彼もそうなんだろう。

 疲弊しきった様子。少し朱に染められた頬。全く外に出ていないのであろう弱弱しい白い肌。眠たそうに細める目。彼は頑張っているのであろう。絶対。そして今が大切なんだろう。


 「そうだよな」


俺は思い出した。与えられたチャンスで想定外のことをすることを。俺が進学校を目指していたと同じく、いやそれ以上に。

 生徒会長選挙は1年生で会長になった人は誰一人いない位でどちらかというと最近は人気投票になりつつある。


 「生徒会選長挙に付き合って欲しいの!」


俺の脳内ではいまだにその言葉が渦巻いていた。与えられたチャンス………。惰性の日々。

 俺は「すべて」を忘れて立ち上がる。

 こんな日常、どこかつまらないっと思っていたのかもしれない。人の会話を横目で見て、脳内で突っ込んで。笑って。

 胸の中で静寂の中、雫が落ちた音がした。

 取り換えがつかないことなんて分かっている。

 でもあの胸の高鳴り、心臓の進み、あの汗ばみ、あの輝きそれらがもう一度味わえるのならば俺は……。


――――——「すべて」を忘れ歩き出す。


 俺は少年に向けてはにかむとぐっと紅茶を飲みこむ。

 その甘みはスーッと引いていき俺の真に響き渡ってきた。

 俺は不意に俺は振り向くと……少年の姿は俺には映っていなくなくベンチは空白な空虚なものになっていた。

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