佐々木仁は足元を見なければ灯台元暮らしだと知った。4
「ふぅ」
山吹色吹き荒れるネットカフェ。その中のカラオケコーナーで俺は防音設備を思う存分使用していた。
足立駅からは中途半端に、遠くもなく、近くもなくと完全コメダと同ポジに所在しているこのちょーどいいネットカフェ。6時半と学校帰りにも等しいこの時間にも関わらず程よい場所にあるせいか学生の認知も少ない。もぉ~陽キャさんったら世間狭いんだからっ!
染みついたカツカレー香る、今日は火曜日。あと生徒会選挙まで11日。あとめちゃくちゃ関係ないがこの快カツカレーマジでうまい。ほんと、陽キャさんったら世間せまーい。チーズハットグばっか食べてるんじゃねーよ!あれ?古くない。たしか今は桃の天然水とかじゃなかったけ?
まあチーズハットグを食べたことないという事実は置いておいて、俺は書面に目を落とす。
そこには伊良湖のかわキレイな字と、羽豆の書道家張りの達筆によって俺の推薦演説の文面が下手に飾られていてなんかもう悲惨。
今日、ついさっきのことだが生徒会(候補)内で推薦演説の内容を発表したのだが……。ね?なかなかひどいものであったよ……。
まず二人から飛んできたものは否定。伊良湖なんて「オチが弱い」とか腕を組みながら評論家気取りで語ってやがった。「チャンネル登録してください!」とか言ってるやつだだぞこいつ。
そして最後の「伊良湖さんへ、清き一票をよろしくお願いします」という一文とか、乱暴な赤斜線で「伊良湖さんのTwitterの清きフォローをよろしくお願いします!」っという文に改定されてしまってしまった。伊良湖の手によって……。ガジェオタばれちゃうよ伊良湖さん!っという突込みは野暮なんだろう。だって愛機として学校にGalaxy Z Flip(よく出てくるがガラケーみたいに折りたためるスマホ)を持ってきてるぐらいだからな。強いわ~趣味をさらけ出せる女子って。そこらの陽キャより評価できるよ!
わかったな!陽キャ!俺のありがたい言葉を胸に刻んで精進するのだぞ!
「って俺何やっていたっけ?」
その声は響くことなく収束していく。まったく響かないというのはいささかの不気味さも感じられるのだが、ボッチ時の墓地ほどは不気味でも何でもないのであんまり気にならない。
………って俺ほんとになにやっていたのだ?
そうだ!防音カラオケルームを使って推薦文の練習をしてたのだ。
もう一回無機質な白に目を当てる。再びみてもはやり騒がしい文面だ。でも文面がいまでは愛おしいまでであって………。って俺は何言ってるんだ?さすがの自分が語りも気持ち悪すぎだろ。
ははは。俺は何を思ってるんだろうな。ちょっと前まではそんなこと思いもしなかったに。
もう一回文章を追う。でもやっぱりその字は愛おしかった。
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