第ずっと横目で見えていた筈であった世界は這ったりで……6

 いざ図書室の前に立ってみると何にも代えがたい、それこそ面接みたいな、そんな緊張感があった。


 「ぐるぐるgrgrgrgrgrgrg」


突如異変を起こす胃腸。両親への挨拶なのこれ?伊良湖はやけに余裕そうだし……これが親子の絆ってやつか。

 そんなことはどうでもよくはないのだがどうでもよく、緊張の趣をもって伊良湖の方を向くと「ニタ~」っと俺の顔面を見てきた。

 そんな天使さんを見届けると伊良湖も何か思ったのか、少し距離を縮め耳元でささやいてきた。


 「なんか両親への挨拶って感じだよね~」

 「ああ、それ少しわかる気が……」


俺は大失態を起こしてしまった。なんでモノローグで語ったものをそのまま同意しちゃうんだろうな俺は。

 それは伊良湖もそうだったようだ。


 『…………』


両方は赤面。なんか最近このケースが増えてきたよなほんと。ネタ切れだよ!

っという事で痛まれない雰囲気になったので俺は図書室に入ることにした。

 俺は持ち手がデコボコしてしまう程、錆びている扉の取っ手を持ち、力を入れる。


 「ガガガガガガgg」


ふう。強張った指先を解く。痕になっていた指先がじんわりともとの居場所に戻っていった。

 俺の見渡した先、そこにはいつもの面々。羽豆、眼鏡が居て各自、勉強するなり、本を読むなりしている。

 いつも通りの日常……。だからこそ壊してしまうのが惜しい気がするがまあこいつらだから気にしないことにしておくことにした。まぁいいでしょ!こいつらなら。


 「お~い。きたよ咲~」


 そう脳内で俺が語っている間、伊良湖が聞きなれない名前を発していた。誰だその男は!お父さんは許した覚えはない!などと思っている間、俺はふと疑問を呟いた。


 「咲?英語の教科書のやつ?ベーカー先生かわいかったよねあれ」


多分みなそう思っているであろう。きっと男子の大多数の初恋はベーカー先生の筈!(諸説あり)ちなみに俺はパウロの娘でした。あれカワユス!まあコウタがなりふり構わず「cute」とか言ったことは引いたけど。あれこそ真の主人公素質だよ。こーたのラノベ主人公~!

 そんな脳内お花畑の途中、一線の光が羽豆の方から放たれる。ひいっ。ってお前の名前だったのね?

 伊良湖はそれを知ってか知らずか、いつもと変わらない、かわいらしい口調からほんわかと言葉を放った。


 「私たち同じクラスだけどね」


そうだったのね。だから伊良湖が教室にいたのか………まあ羽豆は知っていたけど。

 まあ知らないことは知らないよ!

 さすがに「えっそうなの⁈」という反応は野暮というかなんというか、なので少し偽ってやさしく包みコーティングした言葉を、俺は言葉を一個一個紡いでいった。


 「それは知ってるけどさぁ……流石に把握してないっていうかなんというか……。男子ってそんなもんだよ」

 「それは君だけでしょ」

 「そうなんですかねぇ……」


なんだてっきりそんなもんだと思ってたよ。中学もそうだったし。………まあ確かに中学時代、友達はそこそこいたとしても部活やらなんやらで女気なかったし……。…………。…………。

 そういうことにしておこう。

 そんな会話の中聞き耳を立てていた全く関係ない眼鏡ことリアル二宮金次郎(歩き読書マン)は、差し込んでくる光で輝き、目が見えなくなった眼鏡をカチャリと上げると、ここぞとばかりにドヤ顔で話しかけてくる。


 「さすがの俺でも覚えてたよ、佐々木仁。中学の時練習試合で一戦しただけだけどな」

 「おいストーカー気質かよ!てかなんで俺の話が出てきたんだよ!」


はあ、はなしの腰が折れたよ……。まあ初めからこんな意味の分からない話を始めたのは俺なんだけどね。しかもこれは作者に難ありだし……ね?だって話をまとめるのって難しいんだもん!

 俺のツッコミからほどなくして、眼鏡はやれやれと首を振ると、また眼鏡をコクリと上げ、ここぞとばかりに俺に向かって言葉を吐いてきた。


 「そりゃあそうだろ仁。だってお前が1イニングで10四球出して泣き目で降板したのなんて気にしてなくても覚える他ないとおもうがな」

 「嗚呼……死にたいよぉ~」


死にたい。嗚呼………死にたい。


 「私も初めて共感性周知を覚えたよ……さすがの君でもそこまでやるとは」

 「え、え、なにその死球って、まさか仁ボールを当てて10人殺した前科持ちだったの?」

 「そんなわけないだろ!」


俺が叫ぶや否や、更に悪い笑みを浮かべた眼鏡はふふふっと気味の悪い微笑みをすると、一言。


 「まぁある意味前科持ちだな。だってこいつのせいで試合時間過多で試合終了したから」

 「ここまで君がやると安西先生がいたまれないよ……」

 「なるほどね。よくわからないけど、仁が諦めなかったらチームどころか相手まで悲惨な結果になったと……確かに安西先生の「諦めたらそこで試合終了」が霞んじゃったっていうのは分かったよ」

 「ぐふっ」


羽豆や眼鏡はともかく悪意のない貶しが一番心に刺さり、また某増殖系YouTuberを召喚してしまった。

 伊良湖が話し終わった刹那、この場の空気がさっきまでの伊良湖との会話とは違う、苦い沈黙がやってきた。

 眼鏡以外は溜息。眼鏡はにやついていた。きもい。人の不幸でしか笑わないよなこいつ。きもい。本当にマジあり得ないんだけどぉ~。

 はあほんとに痛まれないよな。てか話ずれすぎじゃない?はあ。

 やっと蒸し暑さは引き、残暑の顔を出してこないと思っていた今日。俺だけは全面、汗だらだらで体温は36度位だった。(平熱です)

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