佐々木仁は足元を見なければ灯台元暮らしだと知った。8

 正門を踏みふと桜の木見上げる。紅を萌ゆらせ、揺れ、散り、舞ってゆく葉を実らせた桜の木は、平安を感じさせこれもこれもおかし……。まぁ趣深いわな。

 すたすたと鳴るローファーは、次第に足を鈍らせ止めさせる。それもその筈……。


――――――――マジで緊張する!

 今日、公示の日で昼放課や授業後の選挙活動、そして生徒会長選挙のリハーサルがあるのだがそんなのは正直どうでもいい。

 俺が緊張しているのは伊良湖が自信満々に作ったポスターの事だ。

 どこまで派手に作ったのか可愛く作ったのかetc……。

 ほんとに気になるよ!やばい心臓破裂しそうだよ!マジでバクバクだよ!タヒんじゃうよ!ふとネット民はタヒをどう読んでいるか気になったが今は気にしない。ほんと……蚤の心臓と言う赤特とはこのことか。………ほんといたずらでつけるんじゃなかった……。


 「ふぅ」


昨日もこんな吐息を吐いた気がする。そんなこと、今となっては関係ないことなのだがな。

 気づけば足取りは軽やかで、正門から昇降口が遠い碧海高校特有の日常で感じる憂鬱さは全く感じなくなっていた。

 ここも校庭の歪さと同じよう、ほかの門から入った方が早いぐらい迷いくねった場所に配置されているのだが、マジで遠い。ほんと正門が読売ランド前を名乗っていいのか否か……。まっ否か民意はどれぐらい遠いのかぱっとわからないのですけどね!

 俺は昇降口に到着すると、スリッパとローファーを手先で交換し、歩き出す。

 ポスターは昇降口を出てちょっと奥の所に配置されているらしいのでこの場所からは見えず、軽く人だかりが目視できるだけ。


 「あのポスター見た?」

 「マジやばいよね」


通りかかった女子たち軍勢がやばい語で会話していた。最近の言葉は年寄りには理解できないよぉ―。ほんと、やばいよやばいよ。

 だが少し違和感を感じる。集まっている女子の軍勢がやけに多いのだ。伊良湖……お前は何をやらかしたんだよ………。

 俺は固まり尽くしていた足を一歩、前にやる。

 高鳴る心臓。ほんとに嫌な予感がする。伊良湖、マジでやめてくれよ!確かに俺は演説にインパクトがないって言ったけどさっ。限度というものがあるだろ。

 結局そんなものは妄言。自分の目で確かめることにする。

 固まる足、一本一本ほぐしながら前に進み女子軍勢をかき分け前方を見ると――――――――。


 「俊哉先輩出るってー」

 「えっほんと⁈見なくちゃ!」


一粒が、俺の朗らかな海面に雫が落ちた気がした。

 俺の目先には「佐々木俊哉」っと迫力のある毛筆で可憐に描かれていてあっけにとられてしまう。あ……………………に。

――――――「ちょっとなーー学校関係でやる事が合って。勿論、顧問の先生に言ってはいるから公式だよ」

――――――「私たちサッカー部も部活やる気満々なんですけどねぇ……。上のほうが忙しいらしくなんか部活ができないみたいなんですよぉ………」

――――――でも………千歳先輩は誰と戦っているのだ?ここまで、疲弊してまで何と戦っているのだろうか?


 そして毎朝、兄が家にいなくいるのは母、父だけだったこと。

 すべて思い出したよ………。

 その全てが俺の中で一線を結び、より強固なものだと確かめさせられた。

 目の前は湧き上がる緑の視覚。染み出す氷点下。

 絶対的兄。俺が折られて、つぶされて、打ちひしがれてた挙句再起不能まで幼少期から「諦める」っという結論をたたき出すまで打ちのめされてきた相手。

 俺は知らなかったんだ。全て忘れてしまっていたんだ。

 一番身近なんて見ず、無謀に、「全て」を忘れ自己満足以上に走っていた事。

 そして……

―――――――足元を照らさない灯台なんて、自ら何にも示さないことを……。


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