佐々木仁は足元を見なければ灯台元暮らしだと知った。7

 秋が終わるといってもまだ続く。揚子江気団の心持ちは全く不安定で、気温や天気を保っちゃいなく今日は快晴。最近の冷ややかな空気を一蹴するように移動してきた高気圧は、教室全体を照らすに飽き足らず俺らの……否伊良湖たちの空気を温めていた。


 「え……やっぱり思ったけど、君と選挙活動するのだよね……。こんなにポスターのデザインが良くできたのに全くのプラマイゼロだよ……」


いや訂正。羽豆の言葉だけはどれだけ温めてもサイコパスの脳同様、温まることを覚えないようだ。


 「まぁそんなことはどうでもいいんだよ……。それよりいのりちゃんが参加するかが大事だよ!」

 「そんなことって何かな⁈まさかさっきの話の延長線上じゃないですよね!」

 「私はもちろん参加させていただきますよ♪」

 「俺は⁈」


最後にヤリチンの声が鳴り響きいったんは終了。はいはい平常運転。はいはい。これも日常通り。

 昨日俺が退去した後、二人でポスターを残業の如く作成し帰るのが9時ぐらいになったような話を聞かされ、俺ら男のメンタル力が試されている今に至る。ちなみに俺は残業絶対しない主義。何なら電〇や三〇電機でも即退社できる自信がある。………まぁ俺には学歴が足りないのでまず入ることすらできないのですけどね!書類選考5秒で退社(落選)。ほんと……誰か勉強教えてくれ……。

 太陽香る木曜日。生徒会選挙まであと8日であり、公示日である明日まであと1日。そう明日は1日後である。………やっぱ俺環境に強そうだな。

 そんなことはどうでもよく、完全に忘れていたが週末を挟むので明日が公示となる。

 今日の仕事はポスターの提出らしいのだがそれは生徒会(候補)前にもう終わらせたらしく、急ピッチで進んだ生徒会長選挙の準備はもうあと残すのは公示後の選挙活動と本番の演説のみ。

  長かったといえば嘘になるがまぁやっぱ長かったよ。久々に本気で何事かに取り組み、そして楽しめた気がする。楽しめた事だけに焦点を当てたらはいつの頃だろうか……。

 長いと感じたのは充実していた日々を過ごしていたからだろう。

 日常とは同じ月日を繰り返すから日常である。こんな日々も日常の一環となってしまったのだろうか?いいや、毎日違う、充実した毎日を経験した俺から言わせていただくがこんな事間違っている。ただ単に惰性で過ごしていたからたたき出した結論だ。決して――――今は違う。

 そんなことを考えているとふと一線、図書室に光が差し込み俺の心を満たし吐息が思わず出てしまう。


 「ふぅ」

 「なんでお前は余韻に浸っている風なんだ。本番はこれからだぞ。俺たちの、いや伊良湖たちの本番は」

 「うん!みんなでがんばろーう!」

 『おーう』

 「思ったよりテンション低いし!ほらほらもう一回。みんなでがんばろーう!」

 「おー!」

 『おーう』

 「テンション低!なんで俺だけ恥をかくこと前提なの⁈」


結局何一つ変わらないこの図書室の空気。文芸部の俺、眼鏡、羽豆。そして伊良湖とその他2人。互いに干渉しあい罵りあって、でもこの図書館の空気だけは変ることはなかった。


 「それじゃ、改めて明日からがんばろーう!」


伊良湖の声がホワンと可愛く響く。俺は周りと顔を見合わせると破顔しながら叫ぶのであった。


 『お――――!』


限りない快晴は、どこまでも青々と透き通っていて、俺の心を包んでいく。

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