ずっと横目で見えていた筈であった世界は這ったりで……4
「はい!」
伊良湖のハッキリとした元気の良い声が響く階段踊り場。そう、ここは俺が告白(擬き)を受けたあの場所だった。
伊良湖は目をきらやかにさせながら辺りを見渡している。何にも目新しいものはない踊り場だが、目のレンズ、あるいはフイルムが違うと全く別の世界に見えるのだろう。だってNikonとSONYじゃ少し違って見えるし………ちなみに俺はオリンパス派です。
心と体が人間の全部になったところで俺は今使っているカメラがキャノンだったことに気付く。オリンパスの一眼レフ欲しいよぉ~。あのデザインいいよぉ~。誰か買ってくれないかなぁ~。
っと軽く俺の中でのウオーミングアップが終わったところで俺はアマゾンの欲しいものリストにそっと一眼レフを放り込んでおく………っと言うのはワンクオーター位冗談で、なぜここに呼ばれたかの趣旨に俺は首をひねる。
生徒会長選挙はてっきり何処か教室が用意されて議論や意見を出し合うのだとてっきり思ってはいたが、実際は違ったのだろうか?イメージではそうであるのだが実際こういうにはやってこなかったので分からない。
っと俺が思考を張り巡らせていた時、伊良湖は誰もいない筈の踊り場で辺りを見渡すと、柑橘の香りを漂わせながら俺の耳元に艶やかでみずみずしい、そんな唇が触れそうな程近づき耳元でとろけそうな声色でささやいてきた。
「今日……図書室で打ち合わせね?今から」
「………ん?」
蟲惑魔的に「にひひ」っと微笑む伊良湖。フーパかよ。
その横顔は、さんさんと照り付ける白光と相まっていた。俺は入試本番の休憩にラブコメの挿絵を眺めるの如く、不自然に口角が上がりそうになってしまったが抑る。(今日)
てかなんで伊良湖はわざわここまできて約束を取り付けようとしたのか?そして何故俺は第一志望にも関わらず、呑気にラブコメを貪っていたのか?それは………………………………………謎です。
軽く赤コメが流れたところでそんなことはどうでもいい。やっぱ良くないよぉ~。感情が入り乱れる中、俺は片方の質問の答えを探るため浅く冷ややかな息を付くと、空気を響せることにした。
「別に踊り場まで来て言う事なのかな………?」
「あっ……そっちなのね?てっきり図書室の方に食いついてくると思ったのに」
ツッコミされる気満々で少しプクーっと頬に餌を溜めている伊良湖。………って突っ込まれる前提で話すの辞めてくれませんか?かわいすぎると男の子って中々突っ込めないというかまず喋れない!そう喋れない!喉からあふれ出てくるのは生暖かい空気だけなんだよ!そしていざ出たと思った言葉が造形できてなくてジト目でいられるんだよ!畜生!覚えとけよ小島!
まあ確かによく考えてみると図書室もおかしいっちゃおかしい気がする。
だってそこは文芸部の部室だったよ……な?多分そうだ。
問いかければ問いかける程、正解には遠のいていく。それは勉強なんかでは学べない真理だと俺は思う。
人間、たとえ確証があったとしても自分の意見に問いかければ問いかける程不安になっていって結局形を成さなくなってしまう。それは今も過去も変わることはなくて……。
俺がホワンとしモノローグに入り浸ってると、伊良湖はジト目で俺を見つめると溜息を一唱しつぶやく。
「まあいいけどね、少し仁らしいし」
いや馬鹿にしてるのかな?しかも会ってそんなに間は開いていない筈なのに……。なんか悔しい。
っというとこで俺は開き直り大声で叫んであげることにした。
「ああそうですよ!俺はあんまりにも伊良湖がかわいすぎて生暖かい息しか出ませんでしたよ!」
「…………………………………」
結局陥った沈黙は空気となって響き返し、俺の耳を鳴らす。
上の辺りからは何かざわめき声が乾性な空気にはよく響いていた。
はあ。なんでこうなるのかな。はあ。
俺らは硬直し顔面からは湯気が出てしまいそう。
それを振り切る様、階段を上り始めると、やっぱり太陽は轟轟としていて眩しかった。
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