佐々木仁は足元を見なければ灯台元暮らしだと知った。1

 まとまったはいいものの、まだ公約しか決まったことに気づいた俺らであったが……まぁ気づかないほうがいいこともあるのでそーっと空気に流しておこう。

 そんなところにやっとあの書類が届いたのであった。そう、あの書類。41点の英語のテストでも、検定の不合格通知でも、回覧板でも、自作パソコンの保証書でもない。それは……。


 「生徒会長選挙、要項ね……」


伊良湖のしんみりとした声が響く。その声は張っているものも、少し空気を震わせていた。

 あたり一面紅茶で満たされた今日は水曜日、生徒会選挙まであと17日。

 昨日は久しぶりに休日オフ日だったので軽く勉強なんてせず寝ていた。予習なんて………なかったんだ。テストなんてなかったんだ。

 そのため肩は軽く楽しいと言う気持ちだけが前に出ている。だが………少し慎重な趣が教室中を紅茶と共支配している。

 なぜだろうな、知っていても緊張するものは緊張する。テストの返却、合格率70パーセントの検定、少し高めのものを通販で買った時のチャイム、自作パソコンの初起動etc……。あれ?この結果嫌な予感がするぞ~。

 そう、だから緊張するものは緊張するのだ。

 それに合い合わさって俺らにとって目の前の壁であることだからなおさら。なので緊張の糸が切れてしまう前に軽く確認しておく。俺……否、伊良湖たちの挑む生徒会要項を!

 

 生徒会長選挙要項


1 候補、推薦人は、合計で6分の間演説を体育館ステージで発表できる。

2 選挙活動は公示後1週間の間行える。

3 選挙活動用のポスターの案は自由、節度を守るように。

4 生徒会長選挙1日後に校内放送で結果を発表。

5 この選挙で任命された生徒会長は選挙後3日以内に生徒会委員5人を担当先生まで提出しなければいけない。


 っとこのように書かれていた。簡単に翻訳したけれどね……。あとなんだよ後文の「君たちの検討を先生方一同、心から祈っている」……って!どっちなんだよ敬語&ため語!校長先生?言葉遊びが過ぎますな!

 っと校長の敬語&ため語スキルに軽く圧倒されながらも次に行こう。

 いくつか前にも確認した気がするが、碧海高校の生徒会選挙は公立高校の筈だのだが少し異色である。5なんていい例であろう。

 再び説明しておきますが、5は生徒会長自身が生徒会を作れるということらしい。なので身内が集まりやすい故団結力が強くなる……って根幹らしいのですが、確かに理にかなっているなんてことなんて俺でも分かる。会社経営でもあるまいし、1年間だけならこのほうがいいのであろうと僕は思います。

 っと俺が校長に勝つため、敬語&ため語の練習をしていた刹那、伊良湖が案の定、緊張の糸に触れる。


 「5番って余った枠誰にするの?」


伏線回収お疲れ様です。ふむふむこのぐらいの長さなら覚えてられるのだな。どうも伏線覚えてない系高校生、佐々木仁です。


 「はぁ、みなみ呑気すぎでしょ」


っと羽豆の声音。いつもの様、日常的な会話は進んでいく。っということはおまけも日常的なんですよね?


 「確かにこの面々じゃまだ人数には達していないけど、ここにいる君みたいに推薦につられてくる人も少なくはないだろうしね。君みたいに」

 「やっぱりね!なにそれ、煽るまでが一つの定型文なの……」

 「まぁそうですが」

 「なんでそんな悪びれない顔で言っちゃうかな。大声出してるだけで責められないよ!」

 「まさに勢いだけどは……このことか……」


なんか前作の評価シートのようになってしまったが気がするが気にしない。

 話は戻って、確かに俺含めこの場の全員が呑気と感じただろうが、正直受験前の一週間のように何をやっていいのかわからない。

 それは伊良湖以外の3人も大して変わらないように、伊良湖の「別に呑気でもよくない?だって次何やるかわからないし」っという質問にも沈黙だ。……って全員何するか分かってないのね。伊良湖さん、あんたぐらい把握しててよ!

 それは眼鏡も同じ様子であったが、何かを思いついたのか眼鏡をいつもの様カチャリっとすると、得意げな言葉を発していった。


 「っでこの後何するんだ。俺は知らんぞ」

 『まさか他人任せにすることを思いついたの⁈』

 「ああ、そんなこと言う仁は何かを思いついたのか?」


必死に頭を捻る。何もないから全員から光輝いた視線を向けたのを知らないのかこいつは。


 「…………」


眼鏡の眼鏡は傾き始めた赤い夕陽を反射していてまぶしい。逆光から見える物は眼鏡のにやけ顔で、不自然に上がった口角だけは身に染みて分かった。

 なんかむかつく。そんな子供心を思い出した俺は、子供が親に学ぶが如く、にやりと不自然に口角を上げると、一言、もう一言、っと言葉を放つ。


 「ああ、そんなこと言う羽豆は何か思いついたのか?」

 『お前はだめだ』

 「この世は理不尽に溢れている!なんでだよ。ファーウェイでGoogleストア使わせて!」

 「確かに!それは理不尽だよね……」

 『ガジェオタがよぉ……』


かわいい系ガジェオタこと伊良湖さんはガジェットの事になると話が通るのでとても楽だ。

 ちなみに話によると現在の愛機、Galaxy Z Flip以外に、シャオミのMi Note 10、HUAWEI Mate 20、Reno 10x Zoomを持ってい、スマホメーカーのキャンペーンガールを狙っているらしい……。一般受け!この機種見てもガジェオタ以外わからないよぉ~。Galaxyでもs10とかにして!ほんと誰向けだよこれ。

 っと俺が思い出話に花を咲かせながらつぐんでいる一弾指、古びた苔のようなドアがのそのそと開き、はきはきとした声が耳を撫でる。


 「こーんにちわー♪、遅れました♪」


っといのりと顔色がすこぶる悪いヤリチンが来た。ヤリチンの顔は深碧と言ったらいいのか若草色っと言ったらいいのか、まったく表現できない色をしていて……怖いよ!怖いよいのりさん!

 俺はいのりを目に入れると骨髄反射の如く振り向き、間を置かず震え、瞬間的に笑顔によって静止させられた。怖いよ!なんか学校モードの千歳先輩を彷彿させるよ。怖いよ!怖すぎるよ!

 まぁ忘れよう。覚えていてもいいことはない。忘れよう。

 最近反復法を覚えたためよく使っている今日この頃。やはり男の子は最近覚えたばかりの言葉を使いたくなってしまう。

 そんな俺はいのりのもう一度しかっりと目に入れると、少し微笑み、質問することにした。


 「そういえば今から何するか知ってる?」

 「???」


訂正、少し顔を落とした。

 口を噤んで何言ってんだこいつオーラを出すいのり、そしてうなずく文芸部と伊良湖の面々。

 はぁ、やはり言わざるを得ない。

 誰か俺の人生飾って!(ただやってみたかっただけ)

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