佐々木仁は全てを忘れ正直に楽しむ。2
すたすたと鳴る砂地。いつもの廊下とは違う音は、拡散されては終息してを繰り返していた。
あの少女が壁当てをしている板は俺が所在していた所とは丁度対。距離としては200メートルっと言ったところだろうか?直線距離ならばの話だが。
「あ――遠い!」
碧海高校のグラウンドは、綺麗な長方形ではなく歪。オーストラリアのような、神奈川をさかさまにしたような、青森県の右鎌を切り取ったような……すみませんでした!切り取って。
なら秋田の男鹿半島はどうなるんだって話は置いておいて(男鹿半島とは秋田県の少し出っ張ているところにある半島のことで、よく気象情報の時に切り取られてしまうから)本当に遠い。もう400メートル近く歩いてる。運動不足辛いよ~。
っと軽く足がパンパンになったところで、ツインテールが俺の目に映った。
「あれ?佐々木先輩の………従弟さん?」
「弟だよ!」
「すみません。あまりにも似ていなかったもので……」
とっさに突っ込んで言葉が出てしまう。このよくわからない立場で身に着けてしまった技だ。
見渡すともう壁当て板についていしまっていた。へこんでたわんで色あせて、長年居座り続けていた趣が感じられる。
もう着いたというのならばこの少女なんだろう。
視界に入った黒髪ツインテールはぴょんっと結ばれていてラノベ内の妹キャラを演出していた。……いいよな妹キャラ。サブヒロインの妹とか最高!まぁ負けるから心苦しい今日この頃なんですがね。
てかなんで知ってるのだ?訳が分からない?
「ってかなんで俺があの兄と身内だって分かったのだ?多分初対面だし」
「そこは自信持ってくださいよ!私、最近引っ越してきたばかりなので初対面です♪」
胸を張って握り拳を腰にやるサブヒロイン妹キャラ。もう長いから妹でいいや!
そんな元妹と絶縁したところで、現妹は口を開き始めた。
「なんで知ってたか……って話でしたですよね?それは私がサッカー部のマネージャー(見習い)だからですよ♪」
「なんで(見習い)ってついたし」
「それはさっきも言いましたけど、この夏休み明けに引っ越してきたからです!東京から」
「へー東京なんだ~。珍しいね」
好奇の目を向ける俺。なーんで田舎民は東京出身って言うだけで異端児扱いというかなんというか。
現妹は「へー」っともう一度呟くと、少し距離を縮めて呟いた。
「その目……本当に田舎民なんですね。何処からきてるのです?」
「俺は駒場だよ、西尾の」
「駒場!あの西三河田舎度ランキングトップ1の⁈ほんとに田舎民でした、すみません」
ペコリと一謝りする現妹。
「よく知ってるな!っといっても緑が丘だがな。あの普通の」
「緑が丘が普通だとは……ほんと田舎民ですね。軽く軽蔑します」
「俺は何人から軽蔑されればいいんだ!神様………じゃなくて弘法さんー」
「また田舎⁈絶対誰も分からないよねここ周辺の情報!私ならいいけど!」
っと絶対に現地住民でなくては分からない会話を流しつつ……。つまり俺が言いたいのは駒場はマジでGoogleマップで見てきた方がいいってこと。周辺との環境とのギャップで失禁するから。あそこウシガエル居るから。クワガタ取れるから。あそこロケット花火打ち上げても怒られないから。マジで……。
ってホントここらの事よく知ってるんだなこいつ。こんな順応力ならなんで今ボッチやってるのだ?転校生ブースト掛かっててしかも東京ブースト掛かって人で溢れてるん気がするのだが……。
そんな時、現妹はくるりっと無意味に一回転すると、サボン系の香りを漂わせながら俺に向かって言葉を発してきた。
「ほんと田舎民ですね……。あなたも、2組も、私も」
くるりと反動が収まったころにはもう話し終えていた。
その眼差しは俺を見ているのか。ほかの誰かを見ているのか否か。
現妹はそんな空気を吹っ切ると笑顔で俺に向き合った。
「私は伊紀(いのり)です。これからボッチ仲間として、体育の時間よろしくお願いします!」
「いのりさんですね。よろしくです」
これは友達申請と受け取っていいのかいけないのか否か。まぁ俺達ボッチには分からないことなんだが一つだけ共通して分かることがある。
それはここが田舎だって事だよ………。
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