佐々木仁の勝負はもう産前で全て決まっていた。3
現在の時刻は日付変更線を越えまして2時21分。パソコンのファンのブオンっという音しか聞こえないこの部屋では、ある男がモニターを吟味するようにアニメを見ていた。それも全部1話を。計4時間近く。
ほんと最近の動画配信サービスの進歩はすごい。月額440円でアニメ見放題、最高である。まあそれでも円盤は買うのだがな。あの覇権争いに参加している高揚感……最高。
話しは逸れたが……って俺誰に話してるんだ?ラノベ主人公でもあるまいし。
まあ本題に戻そう。
俺がこの人生の端くずでしかない時間を使って気づいたことが1つある。
それはアニメの中の普通のハードルが高すぎることだ。………。……。……。今度こそ死ねよ!
なんだよアレ!人生平凡が一番とか言ってるやつが、イケメンお兄ちゃんが妹とラブコメ始めたり、ボッチで目は腐ってるけどイケメンな主人公が間違ったラブコメをする話とか、急に寮生活でラブコメ始めたり、小さい子を見つけてラブコメはめたり……やばい、俺がラブコメしか見てないのがばれちゃう!しかも最後なんか卑猥になってるし!(全部面白かったかったです!)
俺はラブコメ意外に息抜きとしてあっち系の物を見ていたのがバレたところで俺は薄っぺらいクッションが引いてある勉強椅子から立ち上がり同じ部屋の隅に配置されているベットに俺は向かっていた。
「がらがらがら」
その刹那、一回から昇降してくる音が空気を伝って響いてくる。
そして数秒後、振動が肌で感じるまで近づいてきた時だろうか?少しサブウーファーを効かせた声が空気を響かせたのは。
「入るぞ」
空気を切り裂く音。その発信源に振り向くと太り気味の大柄な男性が一人見えてしまい俺はその姿に思わず溜息を吐いてしまう。
「はあ…………」
「とりあえず下に行くぞ」
「えっ………。強制?」
俺が明らかに機嫌な顔で対応するとさっきまでも強張った顔は何処に行ったのか哀れみがにじみ出てくる。その姿は「可哀そう」という表現が一番似合っている位でなぜか少し涙まで浮かべている。
本当に涙拭いてくれ………っと言ってしまいたいその姿には従順す他か確かない。なので俺は空気に近い音で返す。
「………ハイ」
顔を見るだけで何とな妹の話だなと察しが付く。親子ってなんか面白い。察しがいい人ほどモテるって言うサイトを閲覧しから身に着いた術がここで活用できるとは……いや泣きたいよ俺。ほんと…………拭いてよ、その涙。父……………と俺も。
明かりがともられ始めたリビングは沈黙。父とのこの対面上の形式は苦痛のほか何もない。
空気を伝ってきた冷気は微妙に冷ややかで俺の背筋を撫でる。
あと一言だけ言わせていただこう。さっさと寝たい。
だが哀れな眼差しを明後日の方向に向けている父を見ているとこの席からは離れがたくて………まさか父、この方法で母さんを捕まえたんじゃないのだろうな?
まあ同情してしまったので一言二言は話を聞くとしよう。
そのころ父は目頭をキラッと装飾している雫を吹き払い息を吸い込み一言。
「卵焼き………………食べたかった」
………ん?何言ってるんだ?
俺は思考に若干遅れを持たせながらもギアを2上げ突っ込む。
「まさかの息子を呼び出しておいてそんなこと!まずいよ!あんなもん食ってられないよ!」
俺は沈黙の中やっと発した父の言葉をへし折っておく。じゃなきゃ……興味本位で味見した誰かさんの顔が見れなくなってくるし……。
けれども、父は俺の話を聞いていないようでまたbotの様に同じことを繰り返す。
「卵焼き………………食べたかった」
今度は防人の息子の如く哀れな声を出していた。母親もいないのに…………。
今度も突っ込んでやろうと思ったがなんか痛まれないので背中をさする気持ちで慰める。
「きっとあれだよ、あれ。多分練習してるんだよ。父さんのために。まずかったしね」
美味しくなるのは反抗期が終わってからいつのことかしら~なんてとぼけたことは言わないが知らない方が万物うまくいくなんて社会の常識。俺15歳、もう社会に辞表出してきていいかしら。
そんな一人コメンテータ擬きをしてると父は、はっと顔を上げ攻撃的に俺に抗議する。
「お前あの卵焼きを食べたのか。裏切者!確かにまずいけど!」
「話聞いててよ……って父さんも食べたのかよ!泥棒!」
まあ俺も食べてるんで人のこと言える立場ではないですけどね!まあ父なら通じるしいいや。
その父はというと先ほどまでの眼差しは何処に行ったのやら、さらに攻撃的な口調で返してくる。
「失敬な。お前も同族だ!覚えとけ!」
「なんで心の中は一緒じゃなきゃ何もできない中3なの!若いよ!イタイよ!」
なんだこの争い。俺までも中学3年生見たい……って実際そうだったのだけど。現実では……。
泣きたくなってくるよなこの会話。結局当事者が居ないのでただの傷の舐め合いというかなんというか。
『はあ』
二人共が奏でたハーモニーは孤独死寸前の老人2人組のよう。現実で起きちゃいそうだからやめておこう。この人本当に既婚者だよね?
父はもう一度浅い溜息を付くと目頭に輝きをもたらせながらもう一言、ダメ押しでもいいっと言わんばかりに言葉を吐く。
「卵焼き…………」
…………………………………………………………………………………………………。
………。父さん涙拭いてよ。
そんな痛烈な思いなど届かないに決まっているのに心で唱えてしまう高校1年生、そんな社会の常識を悟った佐々木仁であった。
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