第13話 旅の帰路~オカマの魔女と行く珍道中☆Ⅳ
ヴィショップから立ち上る、純白の魔力の光と金と虹色の輝く粒子がうねるように混ざり合い溶け合いヴィショップを隠すように視界を覆った。
それらが、落ち着きヴィショップのいた場所に姿を顕したのは、10歳の姿ではなく、18歳位の年頃の少女の姿だった。
その少女がヴィショップの本来有るべき姿だと言うことは、一目瞭然だった。
同じ面差しの……いや、同じ顔の女を昔から幾度と無く夢に見てきたのだ。見間違えるなど有るはずがない。
「あの女か………?」
黒髪の同胞が呻く様に呟いた。
「そう……でも、少しだけ違うみたいね……もう少しだけ、見てみないと……」
「夢の中の女は、純白の魔力だったんだよな?なのにあのチビが放ったのは……」
夢には無かった、金と虹色の光―――
この違いは、何だ………?
何故違うのか、何故相違点が発生しているのか、オルヴィスにも黒髪の男――ガルドにも理解は出来なかった。
「魔力の在り方は違くても顔が同じならやはり同一と見なすべきだろう?今片付けるのが一番の得策だと思うんだけどな……」
「………ガルド…もう少しだけ待って」
「オルヴィス!!お前、自分で言ってて分かっているのか?あの女が……お前を殺すんだろう!?」
ガルドは怒鳴るが、オルヴィスも戸惑っているのだ。
今回の接触で、機会があればヴィショップを早々に消してしまおうとは思っていた。
しかし、実際に間近で接すると、とてもあの夢の女と同一とは、思えない。
明るくて、元気があって、馬鹿の付くほどのお人好しで、可愛くて……。
好ましく思え、消してしまうには惜しい……そう思えてきたのだ。
「知ってるか?そう言うのを、ミイラ取りがミイラって言うんだよ……。まぁ、今は見逃してもいい。だかな、後々後悔するのはお前だぞ?必要になれば、俺達であの女の始末を着ける……良いな?」
ガルドの目は、笑ってはいなかった。真剣そのもので、必要と在らばオルヴィスの意思とは関係なくヴィショップを殺すと、そう宣言していた。
「……………分かって……いるわよ、アタシだって……」
◇◇◇
『ヴアアァァァァ――!!!!』
ガーゴイルの咆哮と共に再び衝撃波が放たれる。
先程とは違い、その衝撃がヴィショップを押し流す事は無かった。
シャラン………
錫杖を傾ければ、先に付いた細く小さな金の輪がぶつかり音を立てる。
シャラン、シャラン、シャラン、シャン、シャン………
白い魔力は、聖属性の力。
金色の粒子が入るのは、聖属性の格の高さを示す。
虹色の粒子は、この世界とは違う世界からの力を顕している証らしい。。
俺の魂に寄り添い、流れ混ざり合う異なる存在の幾つもの力。
それらの
解き放たれる事を許される、その時まで……………。
その封印を、一時的に取り払う。
束の間の、封印の解除………。
ガーゴイルは、躊躇うこと無く此方に突っ込んで来る。
………だけど、封印の解かれた俺はもう弱くない!!
錫杖を横に凪ぎ、衝撃にガーゴイルが弾き飛ばされる。
「『清廉の羽衣』『輝く風の舞い』」
尚も空を飛び続けるガーゴイルと同じ高さを保つ為、此方も空を飛び追い討ちをかける。
ガギンッ!!
やはり、胴体は硬く槍先は弾かれてしまう。
胴体が無理となると……あとは目か口か………。
ガーゴイルの周りに火炎球を放ち動きを翻弄する。
砲口をあげる瞬間を狙い、槍の先端となった錫杖の先をガーゴイルの口の中に押し込んだ。
ガシュリッ!!
鈍い音と共に、ガーゴイルの目は見開かれ、一瞬ビクンと痙攣した後に体がダラリとなって絶命した。
◇◇◇
「殺ってくれたな……」
黒髪のガルドは、その光景を忌々しげに見つめていた。
「あと何体いるんだっけ?」
「ん……?残りか……あと4体だ。見つけ出して運び込めたのがそれだけだったからな」
「そう……」
「だから、残り四体までで、あの状態から抜けてくれることを祈らなきゃな………」
無敵とも言える、今の状態を抜ければ、無防備なヴィショップに戻る。
そうすれば、そこに待つのは約束された死だった。
◇◇◇
1体目を討伐した後、向かった先は林道だった。
直ぐ近くには小さな村があり、なにも知らず慎ましく日々を送る人々が暮らしていた。
そんな場所へガーゴイルは、進んでいた。
「うわぁぁぁ――!!ば、化け物だぁぁぁ!!」
「きゃー!助けてぇぇっ!!」
「うわぁぁぁ――!!」
ガーゴイルの存在に気付いた林道に出ていた人間達が、恐怖の叫び声を上げながら村の中に逃げ込んでいく。
逃げ遅れ、倒れた男をガーゴイルは頭から被り付いていた。
ガシュリッ!ハギャァァ……!!
最初の一咬みで脛椎が折られ潰れた。そして引き裂く音が続き、喰い千切った頭部は一飲みにされた。
残りの肉魁を喰らおうか……逃げ惑う獲物を狩尽くそうか……。
瞳は歪められ、……そして羽ばたいた。
次の獲物を求めて、何百年とも知れない封印が解かれたのだ。
後でも出来る食事より、本能的な狩を楽しみたい。
ガーゴイルは、この村の人間を全て狩尽くすことに心を決めた。
若い女が物陰に隠れていた。
姿は隠せても、気配は隠せない。
ガーゴイル達は視覚を使った狩ではなく、気配や物音を辿っても狩をする。
バサッ、バサッ、バサ――!!
ガーゴイルの羽ばたきの風圧で、女の隠れていた立て掛けられた板が倒れた。
「……あ…あ……あ……」
女は恐怖に震え、叫ぶことも逃げ出すことも出来ず、ガーゴイルと目を合わせてしまった。
「ギャアアアァァッ!!」
ガーゴイルの爪が女の顔を引っ掻き、美しく滑らかな肌が引き裂かれ鮮血が溢れだした。
バタバタとのたうち回るが、ガーゴイルの足に押さえつけられ腕を咥えられそして、喰いちぎられた。
激痛に、尋常ならざる悲鳴……絶叫が上がった。
激痛と大量出血の為、直ぐに女の意識は失われガーゴイルは、興味を無くした壊れた玩具を放り出すかな様に、女の体を放り投げた。
再び獲物を探し求めてガーゴイルは、村の中を飛び回る。
小さな子供が、逃げ惑う大人の足元から抜け出し倒れ込んだ。
その様子を空から眺めていたガーゴイルは、倒れた子供めがけて一直線に降下した。
「やめてーっ!!助けてぇ!!誰かぁ……!!」
子供の母親だろうか?倒れた子供に必死になって手を伸ばすが、回りの人間に止められてしまう。
「よせっ!お前も殺られるぞっ!!」
あと僅かでガーゴイルの足の鈎づめが子供に届く所で何者かが、ガーゴイルの側頭部を鋭い金色の尖端が突き刺し、駆けてきたそのままの勢いで弾き飛ばす。
「ギュギャアアアァァ!!」
ガーゴイルの悲鳴が上がり、他の場所で食事を楽しんでいたもう一体も顔を上げ悲鳴の方向を向いた。
その足元は血塗れで、体の半分ほどが喰い千切られ飛び散った内蔵の破片と肉片が散乱していた。
食事と仲間の悲鳴……。久方ぶりの生肉の味を少々名残惜しげに見やると、『ギュアアア……』と、一つ声を上げ悲鳴の上がった方角へと飛び立っていった。
ガーゴイルが、金の錫杖によって弾き飛ばされ、地面に倒れた子供は事なきを得る。
すかさず母親は子供の元へ駆け寄り、抱き抱えると、安全な場所へと逃げ去っていった。
「…………はぁはぁはぁ…。……あと、何体だ?」
そろそろ、封印解除の効力が切れそうだ。
魔力も保々保々尽きかけて目が回るほど辛い。
「不味いな……。やっぱりまだ、万全じゃないか…………」
後方の木々がザワザワとし出す。
バサバサと羽音を鳴らし、二体のガーゴイルが新たに飛んで来た。
「くっ……、ここで尽きてたまるか!!」
己に叱咤し、新手のガーゴイルを迎え撃つべく駆け出した。
この今の状態はもう永く保てそうに無い。
封印された身では、無敵とも言える今の状態を保つのは難しいだろう。
ガーゴイルと、空中でぶつかり合う、ガーゴイルの鈎づめと、金色の錫杖の柄とが……。
ガギイィィ――ン!!
「……くっ!!」
力では……押し合いでは勝てそうにない……。
ならば、刺し貫くまで!!
ヴィショップ――この姿なら、今はエイセルに名を戻すべきだろうか?――は、駆け出した。
駆け出し、跳躍し、そして、一体のガーゴイルの咆哮した口中に錫杖の尖端で刺し貫いた。
体に纏っていた金と虹色の光は失われ、弱い白色魔力の光が、残光の様に放たれる頃には、何時もの十歳頃の姿となったヴィショップの姿に戻っていた。
全身が、脱力する感覚に見舞われていた。
不味い……気配を辿ったのだから解る。あと二体のガーゴイルが残っているんだ……。
フラフラとしだしたヴィショップの元に再びが出現し、その小さな体は咆哮の衝撃に吹き飛ばされた。
バウンドしながら地を転がるヴィショップに、ガーゴイルは襲いかかろうとする。
残るもう一体のガーゴイルが、ヴィショップの甘い香りを察知し最上級とも言える御馳走の横取りを図る。
空中でぶつかり合い、互いに組んだ肩に噛みつき、そこからミシミシといった骨の悲鳴が聞こえ出した。
背中を良い勢いに打ち付け、背中から傷む。
ぼんやりと、上空のガーゴイルの仲間割れを見たいたが、どうやら丸腰のガーゴイルが破れ去り、勝ち残ったガーゴイルがヴィショップの体を喰らい尽くす為、その小さな体の元に降り立った。
口から滴り溢れる涎は、ヴィショップの血肉に反応したものだろうか?
彼女の肉体は、赤い月の元で無くとも微かな甘い香りが漂っている。
それが、魔力の保有が強ければ強いほどその匂いを認識しやすくなるのだ。
ガーゴイルは、頭をもたげてヴィショップの頭に被り付こうとしていた。
「これで、あの小娘も終わりだな……」
ガルドは、ヴィショップの死を確信し口の端をつり上げていた。
ズドーンッ……!!
黒い雷が、極至近距離よりガーゴイルに向け放たれ、その体が後方へと吹き飛んだ。
「……なっ!?」
突然のことに驚き横を向けば、先程までそこに居た筈のオルヴィスの姿が消えていた。
オルヴィスの姿は、ガーゴイルから倒れたヴィショップを守る形で眼下の大地に
「オルヴィス…裏切るつもりか……?」
邪魔をされたガーゴイルは、怒りも露にオルヴィス目掛けて突進してきた。
「温いわよ…………」
放たれた剣は細やかな銀細工と数々の宝玉が散りばめられた豪奢な細身の剣で、ある国の国宝だった。
その剣が、迫るガーゴイルの首を切り裂き絶命に至らしめた。
「分を弁えぬ愚か者が…………」
オルヴィスの溢した言葉は、何を意味するのか?
地面に倒れたヴィショップに目をやると、浅いが息はしているようで、小さく胸が上下していた。
「オルヴィス……何故、助けた?」
ガルドも地上へ瞬間移動し《テレポート》、オルヴィスに詰め寄る。
「…………死なせるには……惜しい」
「…………!!馬鹿な!?そいつは敵だぞ!?何を考えているんだ!!」
「……どうしようもないのよ……この心だけは…………」
オルヴィスの瞳に宿る、葛藤を理解したガルドだが、無論それはガルド達にとって看過し得ない事だった。
「後悔するぞ?今は良くても、時が近付けば結果は同じだ。我々は、目的のためにその娘を殺さねばならない……」
「わかってる、……分かってるわよ。でも、少しだけ……あと少しだけ……この子を見ていたいの」
「………………はぁ――っ……。仕方の無いやつだな。そう、永くないぞ?次の駒は動き出しているんだから」
「……ええ、ごめん、悪いわね」
ガルドは、オルヴィスの心情を理解した。……もう少し待てとオルヴィスは言うが、実際放たれた駒の期が熟せば、事は動き出す。
そこには、オルヴィスの希望も駒を放った俺たちにも止め立てする権利は無い。
「後悔するからな?」
それだけ言い残して、ガルドは去っていった。
その後、村人たちから「お助け頂いて……」と礼を申し出られたが丁重に断ってヴィショップを抱えたまま街道へと移動した。
オルヴィスの腕の中で、規則的な寝息と穏やかな寝顔が見られた。
「ふふふっ……。可愛いんだから♪♪アタシだけのヴィショップ……」
その寝顔を、温もりを感じながらオルヴィスは、街道を歩き続けた。
ゆらゆら揺られながら何処かを移動している。肌に触れる感触から、どうやら横抱きに抱き抱えられ、何処かに運ばれているようだった。目を開けると、見覚えのある乳緑色の色彩が映り込んできた。
「ん…………。オ、オルヴィス……?どうして……?」
「あら、お姫様お目覚めいかが?……もう、ヴィショップったら、一人で頑張りすぎちゃうんだから。少しはアタシも頼ってよ……」
オルヴィスの言葉に、何も言葉が出てこない。
全部、自分一人で解決しようと動いた結果、力尽きて死にかけたのだ。
それを、オルヴィスに寸でで助けられたらしい。
「ごめん……今度から、気を付けるよ……今度から」
「んふふっ、素直な良い子ねぇ~☆そういう子は、アタシも大好きよ☆」
オルヴィスは、機嫌が良いらしくテンションがやたらと高めだった。
昔のお金の持ち逃げ事件が解決したからだろうか?
現金な人だよな……。
「あ……ねぇ、もう下ろしてよ!恥ずかしいから、これ……」
そういえば、未だお姫様だっこのまま、オルヴィスによって街道を運ばれている状態だった。
「ええぇ~☆折角今良い感じなのにぃ?止めちゃうのぉ??」
良い感じ!?良い感じって何がっ!!?
「い…いや、ちゃんと歩けるから!お……下ろしてくれ!!」
そうだ!オルヴィスは、男色何だっけ!?
…………ま、まさか……やっぱり、年齢問わずって、ヤツなのか!?
危ないじゃん!!俺…………!!
抗議を続け、どうにか地上に下ろしてもらえて、次の宿場町まで歩くことが出来た。
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