第8話旅程~街道を移動するⅢ

 街道の脇、切り立った崖の窪みとなった所で本日の野営となる。


 魔道具、収納ポーチから出された魔物避けの燈籠、テントと簡易釜戸、食料等々。そして焚き火を起こして夕飯にする。

 今日の夕飯は、鹿型魔獣クロスニーガに香草と塩コショウを振った串焼きとスープとパンね。


 このポーチの優れているところは、一度入れてしまえば、時が止まったように何時までも新鮮で、温かいものは暖かいまま、冷たいものは冷たいままに保存できるところ。


 旅の上では、非常に重宝する。

 何たって、身一つで旅に出られるんだから!!


 荷物を出したところで、俺は西の森に使いを出す。

「風よ集いて形となれ、我が意、我が声を届けよ……」


 掌に集まる白と金の光。それらは白金色の鳥の形となって大空へと飛び立っていった。


「今のは、なんです?綺麗な白金色の鳥が、飛んでい来ましたけど……」


 セフィリア姫達には、初めて見るものだろう。

「魔女の魔法で作った連絡鳥。目的地に到着次第、念志が可能になるから文章不要なの」


「その様な方法で魔法が使えるんですか?私達ですと、魔方陣を組敷いた紙を用いますのに……。そのポーチもですけど、どの様な原理ですの?」


「連絡鳥は、基本的に呼び出した魔力そのものに意思を持たせる。何処になんの目的で行くのかって言う……行動指針と術者の意識と一部を繋いだ状態にして飛ばすんだ。終われば霧散するから残骸も残らない。


 収納ポーチは、様はを作っているんだ。時間・温度が変化しない、用途に応じた棚を予め用意しておく。そう言う棚を幾つも用意しておいて、外界からの遮断と隔離を図るんだ。そうすれば、術者の魔力次第で無限に収納が可能だからね」


「…………えと、ごめんなさいね、良くわからなかったわ……」


「ざっくりすると、空間認識と、形成を行う原理と理論を理解して、具現化するだけの魔力とが有れば可能だよって事」


「益々わかりません……!!」



 う~ん……人に説明するのって、難しいんだな……。

 お母様よりは、ちゃんとした言葉を用いたつもりなんだけどな――…………。




 ◇◇◇




 夕食の用意が整ったところで、皆で食事となった。


「それで、この黒毛の一族どうするつもりなの?」


「その件ね、俺の方に任せてくれないかな?セフィリア様はこのまま目的地であるリスター皇国に向かって下さい。護衛にはフレイヤとラウドを付けますから」


 例の魔女の件は、恐らく人間での対処は不能だ。

 魔女の格にもよるけど、魔女には魔女……或いは更に上の存在を当てないと無理だろう。


 まぁ、今回は俺が直接乗り込むわけじゃないんだけどね。


「何か、秘策でも有るのか?」


 サムスは、年長者だけあって中々勘が良い。


「秘策って訳じゃないけど、ちょっとね……。う~ん…まぁ、秘策と言えば秘策かな?」


 ちょっとした実験と言うか、試してみたい事の確認として利用させて貰う…とは、正面切って言える事じゃないよな。


「セフィリア様に何かあったら、報酬所の話じゃ無くなる訳だし、その辺はバッチリ任せてよ!!」


 相手に要らぬ不安を与えない為にも、ここはバッチリ言いきっておこう。


『秘策』が、不発に終わっても最後は俺が何とかするし、……何とかなるだろう!!



 ◇◇◇



 翌日、朝食と身支度を整え街道を再び歩き出した。

 歩くこと二時間余り、街道の分岐点に到達しだ所で、セフィリア様、サムス、エディン、フレイヤ、ラウドと別れた。


「ヴィショップさん、何から何までお世話になりっぱなしで…。皇国に付いたら、必ずお礼の品をお贈りしますから」


「期待しているよ♪あ、あとこれね。クリムゾンさんからの立ち退き料。まだまだ先は長いんでしょ?ちょっと使っちゃだけど、足しにしてよ」


「えっ?良いんですか!?…でも、これはヴィショップさんが取り得たものだし…」


「あのね、俺はちゃんと自分の旅費ぐらい持っているし、オルヴィスだって、闇市に行くぐらいだ。それなりに持つものは持っているでしょ。それにこの金は元を正せばセフィリア様が寝込んでいた場所の立ち退き料だから、セフィリア様には、受けとる権利がある。遠慮しないで、取れば良いんだよ」


 俺の言葉に圧倒されたか、それ以上断っても埒が空かないとでも思ったのか、セフィリアは、顔を崩して笑って答えた。


「それでは…お言葉に甘えさせて頂きます」


 俺はサムスに金の入った袋を渡し、サムスもそれを受け取った。


「フレイヤ、ラウド、セフィリア様の事、頼んだよ?」



「ああ、任せておけ!」

「いって参ります」




 ◇◇◇




 俺と、オルヴィス、クルド、シェリス、黒ちゃんの一行は、街道を歩き続けた。

 クロードの森へ付くまで、あと一日歩けば付く距離になる。


「オルヴィス、魔女の家系だよね?何処の森の出身なの?」


 俺の知っている魔女と言うのは、皆大小差はあれど森を持っている。

 だから当然、オルヴィスも何処かの森の魔女だと思ったんだ。


「…………無いわよ」


 何時もの軽い感じの声じゃ無く、低くて乾いた感じの声だった。


「……えっ?」


「あのね、ヴィショップ。魔女だからといって、全ての魔女が森を持てるわけじゃないのよ?森に選ばれるのは、ほんの一握り、殆どの魔女は、何の後ろ楯もない孤独と恐怖の中を生きるのよ………」


 知らなかった。俺の知っている魔女は皆、森の魔女だから、魔女と言うのは当然、森があっての存在だと認識していた………。

 その説明をする、オルヴィスの声が低くてそして冷たい声だった。


「………ごめん、何も知らなくて。悪いこと聞いたね」


 謝るしか出来ない。知らなかったとは言え、何か傷付ける事を聞いてしまったようだった。


「………良いわよ。あなたの周りが何も教えなかった……そう言うことでしょ?」


 何だか、聞いてはいけないことを聞いてしまった。オルヴィスからは、そう言う空気が流れていた。



「ごめんなさい……」


 その後、かなりの間沈黙が横たわり続けた。




 昼に差し掛かった頃、街道脇の林の中から魔獣が出現した。

 牙を生やした猪型の魔獣で、体長が二メートル位の物が一頭、一回り小さいのが一頭、六十センチ程のが4頭出てきた。

 構成からして一家だろう。


 餌を探しての移動らしく、俺たちを見て餌と認識したようだった。


「あら嫌ぁねぇ~。餌として認識されちゃったみたいよ?どぉする?」


「餌になるつもりはない。話し合いも………通用しないだろうな」


 自身の治める森の中ならいざ知らず、一歩外に出ればそこは他者の縄張りだ。

 縄張りの長でも無い者に、話し合い等と言われて聞く耳を持つか?

 


 答えはNOだ。



「クルド、シェリス行くよ!!」



 二匹の魔狼は、今人形を取っている。

 剣の修行の成果の見せどころで有る。


「『攻撃力上昇』『防御力上昇』『加速』」


 俺は、補助魔法を中心に全員にかけていく。


「ふ~ん。ヴィショップの得意は補助魔法?」


「うん、補助と回復なら得意。攻撃は………あまり好きじゃない………」


 誰かを傷付ける……そう言うことも時には必要だと、今は理解している。

 多くを守る為、平穏を保つ為、時にに狂った魔獣を殺さなくてはいけない。

 たとえそれが昨日まで、仲良くしていた子だったとしても………。

 それが、狂気に狂ったなら………。


 ヴィショップの常に無い、暗い眼差しにオルヴィスは、何を見たのか………。


「そう。なら、攻撃はアタシに任せて☆」


 オルヴィスから立ち上る魔力オーラは、髪の色と同じく乳緑色に僅かの黒が混じったものだった。


 それが、異様なものだとヴィショップはこの時理解は出来なかった。

 森の外へ出た、の絶対的な経験不足と知識不足故に………。


「風斬刃」


 真空を纏った風の刃が無数に産み出され、猪魔獣の群れを四方から切りつける。


 全体魔法を瞬時に生み出せるほど、オルヴィスの魔力は高いもので、クルドとシェリスは、あの魔狼の群れの残骸もこれで殺られたのだと確信した。


 しかしながら、魔狼よりも大型の猪魔獣の方が防御力は高いらしく、一頭だけ絶命には至っていない。

 痛みに怒り狂い、今にも突進して来そうな嘶きを挙げていた。


「地隆壁!」



 クルドの声と共に大地が盛り上がり、そこに猪魔獣の突進が決まった。


 突き刺さった牙を左右に揺らすと、地隆壁が崩れその瞬間を狙い澄ましたようにシェリスの斬戟が決まった。


「オルヴィス、強いんだね」


 オルヴィスの魔法を初めて見た俺は、そんな風に思った。


「あなたの狼ちゃん達も中々のものよねぇ~。伊達に人形まで到達して無いわよね」




 その後は、順調に歩を進めて翌朝、再びの分岐点でオルヴィスとは、お別れになった。


「じゃあね、オルヴィス。短い間だったけど、楽しかったよ」


「アタシもよぉ~♪美味しいご飯にもありつけたし、結構楽しませて貰ったわぁ♪♪また機会が有れば、御一緒しましょうね☆」


 オルヴィスは、ファリヤの街の闇市か……。

 良いな~。俺も何時か、大きくなったら行ってみよう!!


 色んな魔道具市、色とりどりの魔鉱石の並ぶ市、人、人、人……色んな魔法が見られる!ワクワクしか浮かばないよ!!





 ◇◇◇





 ヴィショップと別れた後、オルヴィスの元に忍び寄る三つの影があった。


「宜しかったので?今なら楽に消せると言うのに……」


 黒髪の青年は、オルヴィスと同じぐらいの年頃で、瞳の色が小豆色をしていて、筋肉質の締まった体付で戦士のようだった。



「本当に、今なら何も知らずに、無知なまま殺せるのに……後にすればするほど厄介な相手になるかもよ?」


 そう言う女は、十五、六歳の波打つ金髪と青い瞳が美しい美少女だった。


「今のうちに、始末しなくて大丈夫ですかね?」


 おずおずといった感じで話すのは、焦げ茶色の髪と赤みがかった茶色の瞳の十四、五歳の少女だった。

 黒髪の青年とは兄妹で、大抵は二人一緒の行動をしている。


「……心配してくれて有り難うね。大丈夫よ~♪今は、まだ……ね。そ・れ・よ・り帰りに向けて、楽しい仕掛けを施しましょう!!」


 三人は、オルヴィスの楽しげな様子につられ笑みを浮かべる。


「楽しそうね、オルヴィス。何を仕掛けるつもりなの?」


 クスクス笑いながら金髪の少女はオルヴィスに計画の全貌を訊ねる。


「うふふふっ♪それは、後でのお楽しみ!!あの子にも、ちょっとは頑張って貰おうと思ってね☆」



 死なない程度には、頑張って力の程を見せてもらいましょ♪

 直ぐに消すかどうかは、それからでも遅くは無いわよね?

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