第11話 旅の帰路~オカマの魔女と行く珍道中☆ Ⅱ
翌朝、身支度と食事を済ませ街道を移動していた。
行きと違い、帰りは少人数と言う奇妙な感覚も覚えたが、一人きりではない所に少しだけほっとしていた。
「今日は、あんまり天気良くなさそうだね」
空を見上げると、薄曇りの空だった。
このまま気温が上がって、昼に成れば晴れるか、それとも雷雨になるか…高めに感じる湿度と合間って、どちらとも判断はつけ辛いところだった。
「やぁねぇ~、このジメジメ!髪がヘタれて仕方がないわよ」
オルヴィスの様な波打つ髪の人は、特に湿度に弱いらしく雨の日はフワフワを維持するのに大変なんだとか。
「良いわよね~誰かさんはストレートだものねぇ~」
オルヴィスが、怨めしそうな目をして俺の髪に視線をむけた。
「そんなジト目で睨まなくても!それ、俺のせいじゃないし!!」
そんな取り留めない会話をしながら街道の三叉に差し掛かったところで、余計なお客様に遭遇した。
凡、上等な教育など受けていないことが丸分かりの無精な男達の一団。
武器を腰に提げ、軽装では有るが胸当てやすね当て、ハーフアーマーなどを身に付けた二十人程の武装集団だった。
「悪いことは言わねぇ。有り金全部出せ!出せば命ばかりは取らねぇでいてやる!!」
盗賊?山賊?の頭だろうか?前に出てきた厳つい男がそういい放つと、それに続いて他の男達も刀を抜き放ち、ジリジリとこちらに近寄りながら、更に言葉を重ねてきた。
「早く金を出さないか!!金が無いってぇんなら、体で払ってもらうしか無いけどなぁ…………」
「へへへっ……、デカイ姉ちゃんとチビのガキか。まぁ、デカくても女は女だろ?こんなんでも欲しがる物好きは居る筈だよなぁ?チビはチビで、顔が良いから何処かのお貴族様にでも愛娼として飼って貰えるかもなぁ~」
ニヤニヤしながら卑猥な言葉と、脅迫の言葉を重ねながら、男達は近寄ってきた。
その中の一人が、とつぜん今までとは違う口調で叫んだ。
「そのデカイ女……そいつは、女じゃねぇ!男だぞっ!!」
その言葉に今まで厭らしい笑みも浮かべながら近付いて来た男達が『えっ!!?』と、驚いた表情で固まる。
そぉ……と、オルヴィスの顔をじぃーっと、食い入るように見つめ続け、そして疑惑が確信に変わった瞬間、怒りの形相に変わった。
「何だよ、糞!野郎かよっ!?紛らわしい格好してんじゃねぇよ!!」
「あらヤダ、野郎だなんて…。アタシは魔女なのに☆」
「女ぶるな、気色悪い!!男なら容赦はいらねえ!!ボコボコにしてふん縛って、ギタギタにしてやらぁ!!」
まるで、『騙された!!』事への逆恨みでも晴らさんとすべき勢いでもって、この厳つい無法者達が駆け寄ってきた。
「いやぁん☆勝手に勘違いしているのは、そっちじゃないのよぉ~!!」
勿論、捕まる気など更々無い!
「
無数の風の刃が、無法者達めがけて放たれる。
当たる当たらないは兎も角、逃げるが勝ちだ!!
「今だ!逃げるぞ、オルヴィス!!」
オルヴィスの腕を引き、街道を帰路とは異なるが、空いた道へと駆け出していった。
「待ちやがれぇっ!!」
賊の男達がその後を追っていった。
「なあっ、どうする?何処まで逃げる!?」
「さぁねっ!でも、このままじゃ直ぐに追い付かれるわよぉ!!」
それは、間違いなく俺が小さいからだね?
なら、もう一度魔法で引き離すか!!
「もう一回、魔法で引き離そう!!」
「あら、じゃあアタシもやるわ!!」
俺とオルヴィスは、背後から迫り来る賊達を引き離すべく、振り向き様に魔法を放ったのだった。
「風裂斬!!」
「魔風連撃!!」
俺の『風裂斬』は、賊達に向かって一直線に飛んでいき、先頭の五~六人の賊達を弾き飛ばし、賊達は後方へ吹き飛ばされもんどりを打っていた。
オルヴィスの放つ『魔風連撃』は、無数の風の玉を圧縮して高速に放つ物のようで、産み出された数が凄まじかった。
しかしながら、数が大いせいかコントロールが効かない様で、大半が左右の森の中へと飛んで行ってしまった。
バギャアァァァッン…………。
ドッカアァァァン…………。
森の奥で、何だか不吉な音が鳴り響き、バキバキッと木々が折られ、ズシャアッと倒れた音が聞こえた。
『グワアァァァッ!!!!』
獣の咆哮の様な声も聞こえてきて、賊の男達も青ざめて固まっていた。
「い、今の……聞いたか?」
賊の一人が隣の男にも、確認した。
「あ……ああ…………。魔獣の……咆哮だ…………。ヤツの、オカマ野郎の魔法が当たたっのかも……」
「や、ヤベエよ……。に、逃げよう!!金より、命が大事だ!!」
賊達は、覚束ない足取りだったか一目散に逃げていった。
「逃げたね。オルヴィスの魔法が魔物に当たたっのかも……。俺たちも急いでここを離れよう!!」
「そ、そぉね。何だか知らないけどラッキーってヤツぅ?」
何処が!?コントロールミスで魔物を怒らせて、今度は違う危険と隣り合わせじゃ無いか!?
その場を離れるべく、俺達は再び走り出した。
魔物と言うものは、魔力関知に優れたものも多い。
特に特出するのは、例えばグリーンベアだ。比較的森の奥での遭遇率が上がるこの種は、特出して強くなると毛の色が赤茶色になり、目の色も黒から小豆色に変わる。
そして、一回りも二回りも大きくなり、攻撃力と狂暴性を増すのだ。尚且、魔力関知に優れ、今回みたいにうっかり当ててしまうと結構な割合で見つかり、執拗に追いかけ回される破目になる。
バキバキッ、バキバキッ…………。
木々を折り倒し、此方に進んでくる魔物がいた。
「不味い、追い付かれた!!」
街道に姿を現したのは、赤茶色の毛を持つ、レッドベアだった。
「うげっ……!やっぱり出たよ…………」
しかも、後ろにはグリーンベア三頭を引き連れた
どうやら、オルヴィスの魔法は、ハーレムのボスに当ててしまったらしい…………。
『グヴアアァァッ――!!』
『グルウワアァァ――!!』
滅茶苦茶怒っている……そんな感じで、謝っても聞く耳は持ちそうにない。
「謝ったら許してくれるかなぁ?」
「切り裂いて、引き裂いて、噛み砕いて、死んだら許してかれそうよねぇ~」
「聞く耳持たないって事?」
「そんなもんでしょぉ?熊種は特に、人や魔女とは関わらない……神か魔王の話なら話を聞くでしょうけど……」
この世界にそんな者は、まだ居ない。
神の誕生が果たされない限り、魔王の誕生は認められていないから。
天上の聖女達の監視の目は、絶対だ。
天上の聖女と言うのは、神の居ないこの世界エターナルハインドを護るための創造神達が遺した維持管理を司る機構だ。
森の魔女は森の主が昇華し、神格化を果たせば共に昇華し天上の聖女に次ぐ存在に成るらしい。
まだ、誰もそうはなっていないけどね。
世界を導き、照らす光が、先に生まれ、世界を包む護りとなる闇が後に続くべきだとされているから。
第一に、世界を司る神。
第二に、闇の神を兼ねる魔王。
この順番は、絶対に曲げられないこの世界のルール。
天上の聖女達によって示された、新たな
「じゃぁ……戦うしかないのか…………」
元はと言えば、オルヴィスの魔法が外れて当ててしまった事が原因で、ベアー種に罪はない。
だけど、聞く耳を持って貰えないんじゃ、こちらも死ぬわけにもいかないしな…………。
気は重いけど、仕方がないか……。
「頑張ってねぇ~!ヴィショップぅ~。期待してるわよん☆」
「って、オルヴィス!!元はと言えばあんたのコントロールミスのせいだろ!?手伝わないのかよ!!」
「だぁってぇ~、今日は調子が悪いんだも~ん☆だ・か・ら・お願ぁ~い!また外すと大変でしょぉ~?」
当のオルヴィスは、気楽な物だな。……でも、下手に手を出して、また魔法を外されるよりマシか……。
「わかったよ。危ないからオルヴィスは、下がってて」
オルヴィスが、充分距離を取ったところで魔力を高め、願う――――!!
ヴィショップから離れ、その様子を見ていたオルヴィスは、確信した。
やはり、あの方を殺すのは、ヴィショップだと。
ヴィショップの体から放たれる魔力の
純白に輝く……あの方の夢に出てくるあの女と同一の物だ。
そして―――今、その手に握られている金色の錫杖…………。
夢との違いは、金色の錫杖に付いている筈の虹色の宝玉が今は無いと言う一点のみ。
あの宝玉が鍵なのか?
今の表情豊かなヴィショップを感情の無い冷たい表情の、あの女に変わる――変えてしまう……鍵。
だとしたなら、何も今のヴィショップを殺さなくても良いかもしれない。
あの宝玉が元凶だとしたら、それを奪えば良いだけに成らないかしら……?
短い付き合いでも分かるヴィショップは、あの夢の女とは違う。
表情も豊かで、馬鹿が付くほどのお人好しだ。
そんな、彼女をアタシは殺したくない。
どんな相手か、見るだけのつもりの接触だった。既に、あの女の質に目覚めているなら災いとなる前に摘んでしまおうと思っていた。
しかし、予想外にヴィショップの性格や本質的な物が好ましく思え、この時オルヴィスにも若干の迷いが生じ始めていた。
「雷撃槍!!」
ピシッィ!!ズダダダァァァ!!
青白い閃光と共に、天高くから落ちた無数の雷撃が、レッドベアを打ち貫いて四頭のベアー種との戦いは幕を閉じた。
「お疲れさまぁ~♪流石ね、ヴィショップ強いわぁ☆」
「はいはい、何とか終わったよ。ベアー種は、高値で取り引きされるんだっけ?……オルヴィスの旅費の足しが確保できたね」
「うふふ、そうね☆それもこれも、アタシのコントロールのお陰ねぇ~♪」
――――全く、調子が良いんだから、このオカマ魔女は……。
「……しかし、ここは何処だ?」
必死で逃げてきたせいで、街道を外れてしまっていた様で、気が付いたら、迷子になっていた。
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