第4話王との謁見

 白を貴重とした外壁、青い煉瓦を連ねた鋭利な円錐形の屋根を持ち、五つの塔が立ち並ぶのが、エスターナリア城の佇まいだった。


 ランディー王子の案内で、無事に王城内へ通され、国王陛下との謁見が許される事になった。

 ……………と、言っても一応、腹違いの弟なのよね、あの子。


「西の森の新魔女、ヴィショップ様がお入りになります!」

 衛兵が、扉の奥にいる王に、来訪を告げる。


 中に通されると、中央に入り口から続く赤い絨毯。二段ほど上がった雛壇には、王座と対の后の座が有り、そこに王は居た。

「御無沙汰しておりました、カルーア国王陛下……」

 拝礼し、挨拶をするが国王陛下は、引き吊った笑みを浮かべていた。

 出会った始めの頃こそ、『姉上』とか言っては、くれたけれど……。何年も、何十年も成長しないを何時しか気味悪がり、嫌煙するようになったのよね。

 この子は……。

 彼と会うのは何年ぶりかしら?先王が、若い頃なら、早駆けのついでに森を良く訪れたものだけど………。


「エイセルか……。相変わらず成長していないな。エリエス殿は、どうしたんだ?」


 カルーア国王は、エイセルことヴィショップの事を覚えていたらしく、その母親の事を尋ねてきた。


「お母様ですか?彼女は、私の力を封じるために眠りに付きました。故に、現在あの森の魔女は、私一人です」


「……!?何故だ?」


「あら?御存じ有りませんでしたか?私が生まれた頃より、森の規模が拡大を続けていて、成長すると更に勢いが増すのだとか………。そろそろ私の肉体も成長期に差し掛かるので、その前に魔力のをして、森の拡大を少しでも押さえようと言うことです」


 このまま成長期に突入すると、冗談抜きに『三国丸々、森化をしかねない』と踏んだ、お母様の采配の結果なのよ。


「な、成る程………。それは、確かに不味いな」


 カルーア国王は、俺より10歳年下になる。

 噂では、聞いたことがあったのだろう。俺が産まれて僅か2年で森が村2つ分まで拡大したとか。

 近年、大きな町2つ分まで拡大しているとか………。

 それが、三国分だからね。統合したら、都市二つ分位は既に森化している状態だよ。国土の狭いセンブリア公国にしたら、結構深刻な問題かもなぁ~。

 ……などと思いつつ、今は可愛い姪っ子の問題が最優先だ。


「何はともあれ、我が姫の事を頼んだぞ、森の魔女よ」


「慎んで、お受け致します」


 王との謁見も終わり、早速姫の容態を宮廷医師に聞きながら見ることになった。




 ◇◇◇




「こちらに御座います」


 内務官の案内で、シルビア姫の部屋まで案内された。

 そこには、ランディー王子と宮廷医師のラトビさんが待っていた。


「お待ちしておりました。魔女殿」


 白を基調にした医務服に身を包み、上には刺繍をあしらった打ち掛けを羽織っていた。

 やや痩せ気味の、グレーの癖毛の五十代位の男だった。


 ラトビさんは、恭しく礼をしたが、その目は決して歓迎している目付き出はなかった。

 それもそうだろう。医師で有る彼にすら解らなかった、シルビア姫の異変の謎を、如何わしい森の魔女等と言うものに託すなど、彼の医師としてのプライドが、傷付くと言うものだ。


「こちらこそ、急な申し出に応えていただき、感謝の念に堪えません」


 こちらも、恭しく礼をし答えるとラトビさんの顔付きが、一瞬『驚いた』顔になった。


 見た目の年齢に反した口調と仕草に驚いたのだろう。

 見た目は、5歳ほどだが、中身は年相応な部分も有るのだから、そんなものですよ。



 シルビア姫の部屋は、全体的に淡い配色が主体となっていた。

 フリルをふんだんにあしらった、天蓋付きのふかふかベットの上に、ランディ王子と似た面差しの、淡いブロンズ色の波打つ髪の少女が眠っていた。



「顔色は、そう悪そうでは有りませんね」

「ええそうです。ただ眠っているだけの様ですが、突然倒れてもう5日も目を醒まさないのです」


 成る程ね………。


 より、詳しく見たいところだけど………。


 俺は、キョロキョロと辺りを見渡した。

「……。どうしたんだ?」

 ランディー王子が、私俺の不自然な動きを咎める。


「踏み台って、無いですか?」


 いかんせん、この身長だ。

 ベットの横に立つにしたって、姫の顔の様子が僅かしか見えないのよ。


「「…………!!」」


 ランディー王子とラトビさんは、一瞬固まりそして理解に及ぶと苦笑していた。

 しっかりとした口調と態度に、相対する小娘が、幼児サイズであったことを見事に失念してくれたらしい。


 二人とも、僅かに肩を震わせて外に控えている従者に指示を出した。


「わ、悪い…。くくっ…。……おい、誰か、魔女殿に踏み台を用意してやってくれっ……」


「はぁ――っ。二人とも何ですか?……病人の前で、不謹慎ですよ?」


 そんな、二人に呆れ顔を向け、踏み台が来るのを待つ。


「それで、シルビア姫の詳細な容態について、お教え願いますか?」


 踏み台が来る間に、詳細な容態の変化を聞くことにした。


「お倒れになられたのが、五日前の事に御座います。突然、何の前触れもなくお倒れに、なられまして………」



 その後、医師達が総出でもって、原因究明に当たったが、未だに原因が解らず五日の昏睡に至るのだとか。


 このままでいれば、いずれ衰弱死する可能性が高いのだとか。



「成る程……。で、お倒れになった時に、何かしらの印や紋様は、有りませんでしたか?」


「…いえ、その様な物は確認出来ませんでした」


 その辺りは、ラトビ医師の助手を務めるカリカさんによって否定された。

 いくら医師でも、王女の素肌を直接見ることは無い。

 その様なときは、女性の助手が代わりに見るのだ。


 持ち込まれた踏み台に上り、シルビア姫の脈と顔色を良く見る。

 脈は、弱い。顔色は、青白くも見えるが、苦悶の表情は浮かべていない。

 穏やかに、眠っている様な表情だった。


 ……となると、毒は否定されてしまう。

 そうなると、術的な呪い、呪詛が、考えられるけれど……さて、どうだろうね?



 そして、持ち込んだ香炉を取り出すと、幾つかの香木を小さく刻み、シルビア姫の髪と紋章を描いた紙片に包み火をつける。

 先に紋章を書いた紙片が燃え尽きるが、その際に、青白く紋章が浮かび上がる。


「これは…?」


「魔香炉と言うものですね。魔法、魔術などからの呪いや呪詛と言った類いの詮索に使います。……なので、俺が原因を突き止めるまでこれを消さないでくださいね?」


 香炉から立ち上る煙が、まるで何処かへと向かうかのように、うっすらと城内を漂い出す。



 あとは、これの、行き着く先を追うだけだ。





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