第3話5年前の秘密

 エスターナリア王城への出発前、家の中に入り必要な物を用意する。


 その光景を見ていた騎士達は、半笑いの呆れ顔になりながら、手伝うことを申し出てくれた。

 欲しいものが有る度に、そこに届く為の椅子や小さな梯子を持ち出して取るのだから、効率が悪いと、判断したのだろう。


 それもその筈、作り付けの棚はどれも大人のお母様エリエスに、丁度良く作られた物だったから、子供のヴィショップにはどう頑張っても届かないのだ。


「今度は、あれか?」

 そう言うと、カルロは取りやすい位置までひょいと俺の体を持ち上げてくれた。

「わあっ!………あ…ありがとう」


 さっきは、首根っこ掴まれたんだよね………とか思いながら、この人意外と力持ちなんだなと思った。


 あ、でも今の俺はまだ、5歳児サイズだ。

 大の男が5歳児担げるのは、普通なのかな?

 森から殆ど出たことが無い俺には、普通の人間の基準が分からなかった。


「それにしても、何で代償が大工と瓦職人と資材なんだ?」

 カルロは、疑問をぶつけてきた。

 お金でも、宝石でも、土地でも無く、何故それなのか…?


 答えは、結構切実な問題だったりする。


「雨漏り……」

「……はっ?」

「雨漏りがするのよ、この家!!もうずっと、雨漏りしてるのに、お母様ったら、何にも処置しないんだもんっ!!」


 長年抱えてきた不満が、今爆発した。


「それに……これよっ!!これっ!!……私の大きさじゃ、頑張っても届かないんだってば―!!」

 勢い良く、目の前の棚を指差す。

「…ぷっ!うわはははっ!!そりゃっ…くくっ……切実な問題だなっ?」

 勢い良く叫びあげる事実に、カルロは大爆笑した。



 準備も一頻り済んで、王城へと出立となった。

 そこで、俺を誰が乗せて行くかを話し合っていた。

「さて、誰の馬に乗って行かれますか?」

 穏やかにライセルが訊ねてきた。


「当然、俺だよな?」

 ニカッと、笑うのはカルロだ。さっきの物集めの一件で、最初の狼藉を帳消しにでもしたつもりなのだろう。


「ガハハハッ!そりゃー勿論、この俺だろっ!!」

 煩――いっ!!ダリアスのおっさんとなんか、誰が乗るんだ!?

 耳が潰れるわっ!その笑い声でっ!!


 大体、何が悲しくて、40過ぎの腹の突き出た恰幅の良いおっさんと馬に相乗りせにゃならんのだっ!!


「ラ、ラクセスさんで、お願いしますっ!!」


 ここでまた、男の子に成りきれなくなってしまった。

 年頃の、おマセた女の子の顔を覗かせてしまった……!!



 やっぱり、男の子のフリをして生きるなど、人間所詮(魔女だけど)、無理なものは、無理なのでは無いでしょうか?


 お母様…………。



 その様子を見ていた、ランディー王子は、ひたすら肩を震わして忍び笑いをしていたようだった。




「それにしても、ランディー王子とヴィショップ様とは、5年前から知り合いだったんですね」

 森の魔女=森の賢者として、認められたことで、敬称に『様』が、つけられるようになった。


 ライセルの一言に、皆が抱く疑問と言えば………。


「え?5年前!?5年前じゃヴィショップは、まだ赤ん坊だろう?」

 カルロの指摘をランディー王子は、否定した。

「いや、あのときにはもうそのぐらいの姿だったよ?」

 ランディー王子の視線の先には、勿論、ヴィショップが居た。


「「「……………え!?」」」


 騎士達が一様に驚きの声を発する。


「今よりかは、少しだけ小さかったかな?でも、殆ど変わりはないよね」


 ランディー王子は、断言して答える。

 5年経っても姿が変わらないとは、誰しもが抱く疑問だった。

 騎士達の視線が、ヴィショップに集中する。


 知りたい答えが、俺から答えが発せられるのを待っているかのようだった。


「ま……魔女の寿命は、割りと永いんですよ?」

 嘘ではない。一片の偽り無く、本当にそうなのだ。

「成る程。5年前にも、王子はここへいらしていたんですか?」


「いや、ここへは今回が初めてだな。ヴィショップを5年前は、王宮で見かけたんだ。先王……お祖父様の寝所の近くでだ………」




 ◇◇




 ――5年前――


 先王ランデルの危篤の知らせを受け、夜中に起こされて王宮内を移動していた。

 先王の寝所の側、雪の降る王宮の庭を二人の人影が歩いていた。

 森の魔女エリエスと、今と殆ど変わらぬ姿のヴィショップの二人だ。


 向こうもこちらに気付いて、会釈だけして去っていった。


 その後、先王の死が確認され、何故あの時あの場所にいたのかを知る機会は、その後も無かったけど……。



 ◇◇




「最後だったからね。一応父親だったし、親の最後くらい見に行かないのもナンだからね」


 別段、隠しだてにすることでも何でもない。知りたければ知れば良い。


「「「……………えっ!!!?」」」


 ランディー王子も、詳しい事情は知らなかったらしい。

 騎士たち同様、驚愕に固まった表情を浮かべていた。


「だから、故ランデル王は、俺の実の父親なの。つまり、ランディー王子からしたら俺は『叔母』ってわけだよっ!」

 えっへん!と、した態度で言うが、皆さんの処理は追い付いていない。

 そりゃそうでしょうね。姿は人でも、人とは違う、魔女との間に子供を設けていたとか知られたら、王位継承問題にも発展しかねない。私の存在は、正式には公表されてもいないし、何にも記録すらされていない筈だもの。


 それにしても……。

 あ~あ、年がバレちゃうじゃん。

 見た目年齢、5歳。

 実年齢………48歳とか……………。


 隠しておきたい女心は、ここで早くも自・暴露の末、バレてしまうとか……………。


 やれやれ、これもの宿命ですかね?





 ランディー王子は、尚も固まる。

 自分より見た目が年下の叔母とは………受け入れるのに、時間がかかるのだろう。


 その辺りは、年の功で待ってあげましょう!


 ………何てね。


 そうこうしているうちに、お城が見えてきた。

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