第2話ご用件は、何でしょう?代償は支払ってくださいますか?

 騎士達の驚きを余所に、ランディー王子は俺に話し始めた。


「久しぶりだね、エイセルだったっけ?」


「今はヴィショップです。エイセルの名は封じられたから……。お久しぶりですね、ランディー王子。最後にお会いしたのは五年も前でしたのに、良く覚えていましたね?」


「あれ?エリエスさんは?」


 キョロキョロと、辺りを見回すランディー王子。きっと、森の魔女エリエスに用があってここへ訪れたのだろう。


「悪いけど居ませんよ。当面……暫くは戻らないから………」

 突然一人放り出されたわけだら、若干不機嫌な面持ちになったいたのかも知れない。


「出掛けているのか?………いつ戻るとは言ってなかったの?」


 俺の不機嫌な顔を、置いていかれたことに対して拗ねていると誤解した王子は、幼子に接するような口調に、なる。


「別に、拗ねてないし……。そっちこそ、何の用よ?」


「ああ、うん。それなんだけど……。シルビアが、倒れたんだ。倒れてそのまま目覚めない。宮廷医師も、手を尽くしているんだけど、助かる見込みが無いって言われたんだ」


 シルビアと言うのは、ランディー王子の5歳年下の妹姫だ。

 悲しそうに、ランディー王子は妹姫の置かれた現状を語った。


「それで、を頼ろうってなったのね……」


 成る程ね。得心がいったよ。でもね、何でも頼めば聞いてあげるお母様とは、俺は違う。

 何処までもお人好しで、対外交渉をしてこなかった、甘々のお母様とは、俺は違うんだ。

 ちゃんと、代償は求める。

 仕事に対しての正当な評価と代償を俺はきっちり、しっかり、バッチリ求めるんだ!!


「それで、王子様は、何を代償として支払うのかしら?」


 魔女に仕事の依頼をするのだ。

 エリエスまで、お代が無かったのに何故、突然!何て言いようものならテコでも力は貸してやらない。


 キッと、鋭い視線でもって、王子の回答を待つ。


「代償……………?」

 王子は、思ってもいなかった要求に固まった。

 その言葉に、騎士ダリアスは激怒した。

「代償って、金を取ろうって言うのか!?今まで取らなかっただろうが!!今更取るとはどういう了見だっ!!?」


 ダリアスの意見は、一理有る。今まで無償奉仕で遣ってきた、何処かの誰かさんの方針と180度違うのだから、当然と言えば当然なのだ。

「お金を取らなかったのは、母です。代が変わって、今は俺になったのだから決定権は俺に有る。代償が支払えないのなら、悪いけど力添えはしないよ」


 ぶっきらぼうな答えは、ダリアスのおっさんの勘には触れるらしく、激昂を見せた。


「貴様ぁぁ!!?言わせておけばぬけぬけと!!誰がこの地に住まわせてやっていると思っているんだっ!!?」


 ダリアスの勢いは、言葉のみに留まりそうに無く、今にも幼い子供に掴みかかりそうな勢いを見せ始めていた。


「待て、ダリアス!」


 ランディー王子が、ダリアスを制止する。

 王子が、止めるのだ。それ以上の行動は、暴挙に当たる。交渉権は、ランディー王子が現れた時点で、あくまで王子自身が持つべきものだった。

「しかし……………」

 尚も言い募ろうとするダリアスをランディーは、制する。

「良いんだ。………分かった、必要なだけ支払うよ。ただし、僕の裁量の許す範囲に成るけどね」


 王子からの言質は、取った。


 これで、契約に伴う魔法的拘束が発動される。


 代価を支払うと確約した王子の首に、白く光る鎖が巻かれ、皮膚の中に吸い込まれ消えた。

 同じように、俺にも首に鎖が巻かれ、吸い込まれて消える。


「これは………?」


「言葉の契約魔法。俺は、姫君の回復を、王子は、それに対する代価を支払う。違えれば、鎖は皮膚を裂いて現実のものとなり、絞まるだろうね」


 どちらも逃れられない、契約魔法だ。失敗すれば、俺の首が絞まる。代価を支払わなければ、王子の首が絞まる。


 かなりキツい脅しだけど、こっちも命を張るんだから、文句は無いでしょ?


「な、な、な……何だと――っ!!?」


 ダリアスのおっさん、いい加減に煩いわ。イチイチそんな大声だして、部下の人達の苦労が知れるわ………。


「ダリアス……静に。……それでヴィショップ、君の要求は何かな?」



 漸く訪れた、本題突入に私はにんまりと満面の笑みを浮かべた。


「あのねっ、腕の良い大工と瓦職人、それから資材が欲しいの!」


「ヴィショップ?エイセル?口調をワザワザ男にしているのって、何か事情でもあったの?」


 つい………喜びのあまり、地が出たところでランディー王子の突っ込みが入ってきた。


「うっ……あうっ、それは………」


 形勢逆転したかのように、ランディー王子から、更なる突っ込みがなされてきた。


「もしかして……エリエスさんが居ないのも、それに関係していたりするの?」


 的を射た指摘に、予測です。はいその通り………。

 まぁ、この王子になら隠す必要もないか………。


「あ~あ、頑張って男の子を演じてみたのに、上手くいかないったら!そうよ、お母様は、私の魔力を封じる眠りに着いたの!」


 そして、全てをランディー王子に話したのだ。


 当然、その場に居た騎士団にも聞かれていたけど………。


 う~ん、対外交渉とか、やっぱり難しいは。

 最後の最後にボロが出るとか無いよねぇ~。


 ガックリ項垂れた私に、ランディー王子は、苦笑を浮かべた。


「ククッ……。たぶん、エリエスさんの言った意味とヴィショップの遣ってることって、意味が違うと思うよ」



「……………?」


 意味が違うとは、どう言うことでしょう?


「………まぁ、分からないならそれでも、良いんじゃない?」



 その後、直ぐにでも王城へ向けて出発することになった。


 その前に、先程首根っこを掴み上げてくれたカルロと、ダリアスのおっさんからは、謝罪を戴きました。


「森の魔女とは露知らず、ご無礼の数々申し訳ありませんでした!!」


「すまん、ボウズ……じゃなくて嬢ちゃんだったのか………。成が成りだけに分からんかった……。その、魔女とは気付かなくて悪かったな。俺の怒鳴り声……怖かったよな?」


 何とも………大柄な男の情けない顔を拝顔出来た事だし、この一件は不問に伏しましょう。



「良いよ、俺もこのだしさ、お互い様だって!」


 ニカッ!


 今後の為にも、男の子に見えるように演技は続行するのであったけど……………。

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