第14話我が家への帰還

 広大な面積を誇る、西の森。

 ブラッディー・ムーンにより魔物の達が大暴れし、予定より五日ほど永い森の巡回を終えて、家に戻ってきた。



「ルドルフ、お疲れ様。一旦ここで一休みね」


 荷ほどきを終え、洗濯と片付けを済ませる。

 道中、保護した幼獣達を下ろし敷地の中を案内することにした。


 今回保護したのは、フィールフュールの謎の鳥。

 子狼が、四匹。栗毛クルド青灰色シェリス赤毛ラウド灰色フレイヤだ。

 名前がないと不便だから、みんなに付けてみた。

 ルドルフのアドバイス(?)で、血を与えていない他三頭の子狼にも、血を舐めさせた。

 こうしておけば、主従契約になり、がでても、狂わないらしいから……。


 でも、気を付けなきゃならないのは、下僕と出来る清獣だのの数は、限られるらしい。

 この時点で既に、二羽と四頭。それ以上は、控えた方が良いらしい。

 成獣に育つまで、魔力を取られるから、簡単に枯渇状態に陥る恐れがあるから、だそうです。

 あと………獅子に翼を持つ聖獣……?が色違いで二頭。

 黄土色の毛に金色の鬣、白い翼を持つラファル。

 黒い毛に銀色の鬣、黒い翼のグリフィス。


 うん、まぁ………動物園だな。




 ラファルとフリフィスは、父親同士が兄弟で、群れの次の親玉を決める試練の最中に、赤い月で狂った魔物に襲われたようだった。

 取り合えず、事態が落ち着くまで家で保護することにした。


「ほら、こっちだよ~。皆中に入ってね、中を案内するから~」


 居間兼食堂兼台所と工房、二階の寝室部分を案内する。


 子狼達は、何処もかしこも興味津々に臭いを嗅いで走り回っていた。


 二羽の鳥達は、孵ってからの十数日で、ふわふわの羽毛が生え替わり、光沢のある碧と翠の翼の美しい50㎝程の成鳥になっていた。


 二頭の翼の有るライオン(?)は、ゆったりと部屋の中を散策して歩いた後、ベランダの手摺に登り、優雅に翼を拡げ庭へと飛び立った。


 眼下では、子狼達が庭に出て元気に駆けずり回っていた。




『誰だぁーっ!?俺様の体にションベン垂れたのはぁーっ!!』


 庭で寝ているルドルフに誰かが、引っ掛けたようである。

 庭で寝てると見た目、大きなただの岩だもんね………。


 赤毛ラウドが、ビクッと飛び上がって逃げていったよ………。


 犯人は、あの子だね………。


『コラーッ!!待たんかぁっ!!』


 怒鳴って追いかけようとするルドルフの動きを止める一言を放つ者が居た。


『ルドルフ、帰ってきて何です?騒々しいですね』


 ルシエラだった。顔の傷はそのままだが、それ以外の破損したパーツは、掛ける前に、付け替えたんだ。

 パーツは付け替えて暫くの間、魔力を通し続けて、全体と馴染ませる必要がある。それが漸く馴染んで、動けるようになったらしい。



「………ルシエラ!!」


 再び彼女が動いている喜びで、駆け寄りガバッと抱きついた。


『おかえりなさい、ヴィショップ。無事で何よりです』


 抱きついた俺を、優しく抱擁して迎えてくれる。俺の、大好きなルシエラだった!


「ただいまルシエラ」


 グズグス、鼻を鳴らしながら答えると、ルシエラは、幼い子供をあやすように、俺の背中をトントン叩き、頭を撫でてくれた。


『仕方がないですねぇ……。貴女の連れ帰った子供達が心配していますよ?』

 クスクス笑いながら、ルシエラが言うから、視線を幼獣達に向ければ、皆俺の方を見ていた………。


 一応、これでも俺が彼らの保護者……と言うことになる。親が、子供のように泣きじゃくって、人に甘えているところを幼獣子供見られて良いんだろうか………。


「な……泣くのは、おしまいだっ!!顔を洗ってくるからっ………」


 そういい残して、俺は家へと駆け出した。





 残されたルシエラとルドルフは、ヴィショップの今回の森の巡回の成果を話し合っていた。


『それで、あの子の様子はどうでした?』


『……まだまだだな。考え方は悪くないが、力の使いようが甘い。力も弱い。まだまだ鍛えないと、あれでは………』


 フドルフの感想は、的確で厳しい物だった。


『少々、甘やかしすぎたかしらね?エリエスの時の失敗が有るから、今回は慎重に育てたつもりなんだけど……』


 ルドルフの正直な感想に、ルシエラは肩をすくめる。


『甘やかし………ては、無かったろう?少々過敏になり過ぎて、過保護にし過ぎただけだ。しかし、拾う耳は的確だ。戦闘の勘も悪くはない。要は……経験不足だな』


 如何せん、今回が初めて一人で外に出るのだから、全て自己判断でこなしてきた。

 どうしても危険だと判断した時は、ルドルフが助けに入ったが、後はヴィショップ一人でやって来たのだ。


『成る程………。今回は、収穫も多かったみたいね。神獣に仙鳥だなんて、私ですら得られなかでたのに………』


 その辺りは、少々悔しそうな表情をルシエラ浮かべる。


『背負わされた宿とやらの違いだろう……。あの娘は特殊だ。それは、お前も理解しているのだろう?』


宿……ね。自分の孫に、そんなもの負って欲しいなど、望んでないのにね』


 特殊で有るが故に、力の半数を封印した。更に、彼女ヴィショップが、本来手にすべき物をルシエラが保管している。


 力を封じているのは、単に森の拡大を防ぐ為ではない。力の暴走により、ヴィショップの肉体が崩壊しないように、あの子の精神と肉体のそれが、持ちうる力に追い付くまで押さえておく為だ。

 自我も確立しないうちに、力に飲まれて器を失うなんて事態を避けるための措置だった。


『何はともあれ、これからしっかり鍛え上げないとね!!』


 にっこり微笑むルシエラには、確りとした決意の炎が宿っていた。



 ルドルフは、思った。エリエスの時以上の地獄の特訓が、始まると………。


 ああいう顔をした、我が真実のエリシスを止められる者など、この世に存在しない………。




 ――――頑張れよ………ヴィショップ。頑張った先に、生き残る光明が見いだせるやも知れぬのだから………



 心のなかで、ルドルフはヴィショップにエールを送るのだった。




 ◇◇◇




 2日間の休養の後、ルシエラと共に残るカロンド王国側の森へと足を運んだ。

 大分、死んでしまった魔獣の数が多かった。

 赤い月から二十日近くも経って、遅すぎだのだろう。


「遅すぎたんだ………。助けられなかった」


『一から十まで、全て救うなど、エリシスでも、不可能でしたよ?それに、貴女はまだ未熟も良いところです。気負う必要はありません』


 ルシエラはピシャリと、ヴィショップの弱音をはね除け、叱咤した。


 そして、ルシエラ指導の元、実戦的教育が成される日々が続いた。


 対峙した魔物が、正気と狂気の間の揺らめきを見せる………まだ、助けられる余地が何かしら有るんじゃないか……?

 攻撃の手を緩めかければ――――

『甘さは捨てなさい!!付け入る隙を生みますよ?』


 魔物と攻防を繰り返す。ルシエラに用意された剣が、今日の得物で蔓状の触手に弾かれる。


『斬り込みが甘いです、もっと懐深くに入れるはずです!!』


「無茶言うな!!あんなのの中にどう入れって、言うんだよ!?」


 そう文句を放てば、『…はぁ』一息吐くと、軽やかな跳躍で最って、蠢く触手をサッと避け、一瞬で懐深く入り、シュバッと、縦に一文字閃光が走り、切り捨てられた。


 真っ二つに斬られた魔物が、スザァッと、地面に崩れ去った。



「……うわぁー。あれを、俺にもやれって言うのか………?」


 ルシエラのお手本は、人の動きとは思えない物だった。

 ………あ、ルシエラ人形だった。


 いや、でも……あんな動きは、どうやってやれってのよ?


『魔法を併用するのです。『加速』に、加えて『風補助』を掛けて、速度をあげるんです』


 風を体に纏わせて、物質的な速度を上げる………とな?



 誰がそんな戦い方を思い付くんだ――っ!!




 二週間ほどのスパルタ式実戦教育を、みっちり受け、大分ましな動きになってきたと思えるようにはなったよ。


 ルシエラ………最近、凄く恐いんだけど………気のせいかな??



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