始まりは、こんな事から
ある日突然、魔力値2割に落とされる…が、特に問題は無い。(五歳姿)
エスターナリア王国と、カロンド王国、センブリア公国に股がるローランド川。
その三国と川とが交わる国境地帯に、その森は在った。
エスターナリア王国側に近い、森の奥深くにその古びた家は建てられていた。
小高く盛り上がった土地に、赤い円錐形の屋根が二つ連なり、壁面は苔むした黄土色と茶色のレンガ造りになっている。
家の隣には大木が枝を広げ、太い幹にはロープが二本垂れ下がり、太い幹に括り付けられていた。
要は………ブランコだ。
今の時期は、地面にふさふさと若草が生え始め、春の息吹を感じ始めた頃だった。
私の名前は、『エイセル』。
歳は……聞かないで。
だけど、見た目の年齢なら教えてあげる。
ストレートの金髪に、蜂蜜色の瞳。
姿は、人間の年齢にして5才ぐらいかしらね?
私の家は、代々続く森持ちの魔女の家系なの。
この森で、お母様とお婆様の三人で暮らしていたんだけど………………。
お婆様は、私が産まれて直ぐに、私の魔力の半分を封じる封印の眠りに着いた。
ある日の朝、家の前の庭にお母様に呼び出されていくと、その宣言は成された。
ピンクブロンドのストレートの長い髪を腰まで垂らし、青い瞳で、淡いピンクのワンピースを着た、見た目年齢20歳位の可憐な美女――エリエスだった。
「来たわね、エイセル。今日は貴女に伝えなきゃならないことがあるの……」
そう、前置きを付けて、その宣告は下された。
「私はこれから、貴女を封印します!!」
………はっ!?
………ふ、封印???
……………何でよ!………お母様!!?
「え~と……。それはまた……急ですねお母様」
何でまた…封印されるのか……。
いや、そうなると目覚めるのはいつ?百年後?それもと二百年後???
む~ん。腕を組み、顎に手を当てて考え込み始めた私に、お母様は慌てて訂正を入れてきた。
「あっ、あっ、ちがっ…違うのよ?正確には貴女の魔力を封印するって事で、貴女自身が封じられる訳じゃないのっ!!」
エリエスは、ピンクブロンドのストレートの長い髪を揺らし、慌てて私に駆け寄ると私の両肩を掴んで、目線を合わせ訂正を始めた。
「貴女の魔力は強すぎるのよ~ぅ!お婆様の封印だけでは、森の拡がりを押さえきれないわっ!!だから、貴女の魔力を封印する必要があるのよ。分かる??」
魔女の森は、『護りの森』とも言う。
『森の主』と、言う存在がいて、魔女の持つ魔力とは相互関係に在ると言うのだ。
魔力の相互交換により、お互いの魔力が純化され、それは何れ肉体にまで及んでいく。
特に主の側は、新たな肉体に作り替えられ、何れこの世界の神として、昇華される――――――らしい。
らしいっていうのは、まだ実際に誰一人として昇華した者が居ないから、本当にそうなのかは知らないのよね。
魔女を迎え入れた後の森の規模や性質は、主に魔女の魔力や気質で決まる。
魔力が大きければ、初めは小さな森でも拡大する。
魔女の気質や好みによって、生える植物が変化してくる………らしい。
産まれたときから、この森だもの。
殆どここから出たこと無いし、お母様から伝え聞く話だけじゃ、実際はわからないわ。
お母様が産まれた後は、花と果実植物の割合が増えたとか、お婆様が言ってたらしい。
物心付いた時から、母と二人暮らしだから、お婆様の事も、殆ど知らないの。
私の住むこの森の始まりは、今のセンブリア公国の国境端の小さな森が元だったとか。
その後、カロンド王国、エスターナリア王国の血が私の家系に流れる様に成ったことで、この森は、その面積を拡げていったのらしいのだけど……。
お母様の中には、カロンド王家の血が流れている。お婆様が、カロンド王家の王子と恋仲になって、お母様が生まれたの。
その時に、カロンド王国側の国境地帯に森がほんの少しの進出を果たした。
そのお母様も、エスターナリアの先代の王が、王子であった時、恋仲になって私が産まれた。
私が生まれた後から、森の急激な拡大が始まった。エスターリア王国の国境に森が進出を果たすと、直ぐに村二つ分の面積が森と化していったのだから。
異様な早さで進むそれを抑える為、お婆様は私の魔力の半分近くを封印し眠りに付いた。
それでも、まだ足りないらしく、お母様はこの日、私の魔力を更に封印すると言うのだった。
私に残される、自由に使える魔力は、二割まで落とされることになってしまった。
とは言え、その辺りも、特に問題なかったりする。だって、元々が過剰に過ぎるぐらい多いんだもの。二割といっても、普通の人間からしたら、上級魔法使い程度になるぐらいでしょ。
だから本当に、森の拡大を防ぐ為だけの封印なんだろうな……。
この時既に、エスターリア側の森の規模は、大きな町の二つ分には、拡大を拡げていた。
このまま放置し続けると、何処まで拡がり続けるのか予測不能らしい。
下手したら三国を森が飲み込んじゃったりして………。
………何てなったら、洒落にならないもんねっ!?
「それでは、お母様もお婆様のように眠ってしまうと言うことですよね?」
「そうなるわね。………でも、貴女なら一人でも大丈夫よね?ルシエラも居るのだし………」
お母様は、封印の眠りに付くことを否定しなかった。
それどころか、見た目年齢5歳の私に、『一人でも大丈夫よね』と、言うのだ。
まぁ、ルシエラもいるし、一通りの事は習っているから問題ないかと思うけど……。
あ、ルシエラと言うのは魔法技巧人形で、お婆様が、私の為に遺してくれた(死んでないけど)お世話係り兼、魔法の先生でもあったのよね。
何せ、お母様に教えて貰うと、
『そこで、バァンと打って、ビュウーンとやって、ドゴォンッと放つのよ?』
『ほら次は、ビュウウーっと飛ばして、バシッンと打って、とおぉーりゃぁーって、行けば大丈夫っ!!』
……みたいな感じに成るから。
お母様じゃ、人に何かを教えるのは、とことんと言って良いほど向かないのが丸分かりだ。
お婆様!!
「それと、一度貴女の『名前』も封印します。仮の名前は『ヴィショップ』よ」
「何でですかっ!それって、男の名前じゃないですか!?」
「だって貴女、とっても可愛いのよ?とっても可愛い女の子が一人きりでの生活や、まして森の外へ出掛ける事態になったら、人拐いや邪な毒牙に掛かってしまうじゃないっ!!そんな事態を避けるためにも、外に出るときは、男の子のフリをしなさい!!」
お母様は、一体何の心配をしているんだろうか?
………そして、男の子のフリをするのは、決定事項なのでしょうか?
お母様は、更に言葉を重ねた。
「だから貴女は今日から、全ての封印が解かれるまで男の子のフリをして生きなさい!!特に森から出るときは気を付けてね!!」
母の突然の宣告の元、5歳の姿の私は、『私』を捨て、『俺』として生きることを余儀なくされた。
そうして、俺ヴィショップは、女の子で有ることを隠し、男の子のフリをして生活することになったのだった。
◇◇◇
魔力の封印は簡単だ。
お母様が、俺の魔力回路に干渉して、必要箇所を遮断する。
再び繋がらないように、押さえ続けるために眠る様だ。
そして魔力値二割となった俺は、どの程度の魔法がまだ使えているのかな?
後で、ルシエラと確認をしていこう………。
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