赤い月の物語(とある魔女の物語)

モカコ ナイト

第1章~小さな森の魔女~

穴だらけの世界

 煌めく天球を映し出す漆黒の空間で、一つの星を見つめる男女がいた。


「あ~あ、やっぱりなぁー…」

 ニヤリ、不敵な笑みを浮かべて、男は呟いた。

「なぁにぃ?どうしたの、急に笑みなんか浮かべちゃってぇ~☆」

 男の様子に、何か面白そうな事が始まる予感を女は感じていた。


「これ、お前の押しメン、アルス君の最初で最後の作品だよ」

 男は、クイッと顎をしゃくり示す。

「これが、アルスの世界なのねぇ~☆☆」

 女は、心を寄せる唯一の男の名に浮き足だった心を隠せずにいた。


「だけどな。穴も穴、穴だらけだぞ…これ」

「え~っ!?ラディスったら、ひどぉ~い☆アルスの創った世界に穴なんてぇ………」

 あるわけ無い……だが、よくよく見ると、確かに穴は多い。


寧ろ………欠陥だらけだった。


「何かぁ…作り初めてぇ、素案だけで出兵になっちゃったって………感じぃ?」


 女の知る、秀才アルスの初めての作品にしてはかなりお粗末だが、彼一人での作では無く、彼を含んだ数人での作だった。


 最後まで全員の意見が、纏まりきらなかったのだろう。

 そして、上位世界に当たる神々戦争に赴く為、この世界を創りかけの中途状態で去った………と、見るべきか。


「それでも、アルスの世界だよぉ~う!ラディスぅぅ何とかしてぇ~!!!」


 女の甘くねだる声に、男も悪い気はしない。頭の緩い…ついでに体もだったが、この女に付いていれば、将来の地位は安泰が約束されているのだ。


 何せ、現在の神界に於いて、彼女の父親が最高神の座に就いているのだから。

 多少の無茶な要求も、無謀とも取れる案件も、全ては先々の為の尊い犠牲だ。


 その中に、自身も好む狂乱と争乱の種を仕掛けつつ、楽しませて貰おうじゃないか………。

 それは、この女にとっても許容の範囲のはずだ。


 何せ、聖なる光に焦がれて、そっぽを向かれたファシーリア様だからな。



「分かった、分かった。他ならぬ、愛しの君の願いだもんな。良いアイデアが有るんだ……聞いてくれるか?」


「ラディスのアイデア!?なになにぃ?面白そぉ~う♪♪♪」


 女は、知っていた。このラディスのもたらす遊びは、自身の好奇心や享楽欲を良く満たしてくれることを。

 それ故、愛する男の世界であっても、は、楽しみと愉悦を優先させてしまうのだった。


「これだ。この世界独自に『神』を産み出す仕組み…これは、良いとして、もう一つ『魔王』。これも、まぁ、及第点をくれてやっても良いだろう…。…で、だ。…残りの溢れたものは…どう使う?」


 意地の悪い、企みを抱えた笑みを女に向ければ、女もキラキラした目で、こちらを向いてくる。

「………勿体無いよねぇ。まぁだ使えるもん。しっかり役割を与えてあげれば、まだまだ活躍できるのにぃ……」


「だからな、これを創ろう!新にこれを創ってやれば、勝手に質に目覚めるだろう?」


 男の示した赤い輝きに、女はうっとりと見つめ、微笑む。


「ええ、そうね。地上が賑やかに、楽しい叫びで溢れるわねぇ~☆」



 これから起こるであろう、争乱と狂乱の 数々に想いを馳せ、男と女は、暫しこの場を離れるのであった。

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