外伝 聖獣、翼獅子王の物語 Ⅱ

 崖下の森で保護されて、一月を過ぎた頃、その変化は訪れた。


 まず、鳥の魔獣……あれは、魔獣じゃなく仙鳥と呼ばれる稀少種だった。

 この世界でも、どの世界にも属さない、全く未知の神秘の鳥。

 世界から世界へと飛び渡る謎の鳥……。


 その雛鳥なのだが、成長は加速度的に進んだらしく、魔女ヴィショップの血を得たことで、彼女の魔力を吸い上げ器を急成長させたとか……。


 ルドルフによるとそこまでは、他の森の魔女の所でも珍しい事では無いらしい。


 朝起きたら……彼らは、裸の人間になっていた。

 勿論、寝床の巣箱は粉々に壊れ、当の本人を含め、同居人達もその衝撃で目が覚めた訳だが………。


 ドスンッ…!!


 静かな朝の一時に、何かが落下した衝撃音がと振動が響いた。


 ガバッと、布団から跳ね起きたヴィショップは、何事か!?と、辺りを見回した。


 この部屋で寝ているのは、俺一人だけどたまに魔獣の子供達が遊びに来る。


 だから、魔狼の誰かがベッドから落下したのかとも思ったんだ。


 でも、今日は灰毛フレイヤが足元でキョトンとしているだけで、対した異変は無い。


 と、なると下の階での出来事に成るわけだが……。

 下で寝ているのは、良く判らない二羽の鳥。居間の真ん中辺りに、巣箱を設置したわけだけど、あれが倒れたとか?

 そんなに柔な造りだったかな?


 そう思いながら、駆け足で降りていったんだ。


「えっ?…………あっ!!わあぁぁ―――っ!!」


 な、な、な、何で!?何で、見覚えの無い男の子が二人も、裸で家に居るんだよ!?」


『何の騒ぎです!?…………と、え?え?』


 俺の悲鳴に駆けつけたルシエラも二人の少年を見るなり困惑していた。

 ルシエラが驚く、これはこれで凄く珍しいことなんだけど……。


 それよりも今は、この少年達だった。


「えっ……と、君達は何処から来たのかな?……うちの鳥小屋壊して、そんな格好で、何をしているのかな?」


 ルシエラが慌てて持ってきたシーツにくるまり、二人の少年は恐る恐る口を開いた。


『僕、フュールです…』


『僕はフィール……』


 その言葉に、一同固まった。


「は?何で鳥が人形になるの!?」


『まぁ!そんなことが本当に有るのね!?』


 ルシエラの言葉に、一同の視線が彼女に集まる。

 この怪現象の答えを知っていそうなのが、ルシエラだったからだ。


「ね、ねぇルシエラ…これの答えを知っているの!?」


『……はい、伝説的な話ですが、主従契約を交わした主の力量に応じて、属性を得たり人化を果たしたりするそうです。それ以外にも様々な恩恵と言うか、効力を持つようで……』


 ルシエラは、その様な話をしていた。


 と言うことは……何れ、あの魔狼や翼獅子ぼくたちも、人化を果たすと言うことか……?


 そうなると、何時までもあの子供を邪険にしておく訳にもいかなくなる。

 人化を果たすと言うことは、存在の格と力が格段に上がる保証の様なものだ。

 同じ魔女を主にした、先になったものが人化を果たしたのだ。


 此方の事情を打ち明け、助力を乞う方がこの先の展開を有利に運べるかも知れない。

 そう、金獅子と銀獅子の幼獣は、結論付けた。





 ◇◇◇




「話があるって?珍しいね、君達から話なんて……」


 普段、ヴィショップが話しかけてもけんもほろろな対応だったと言うのに、嫌な顔一つせずに彼女はちゃんと話を聞いてくれた。


 その上で……。


「成る程、そっか。それなら、人形に成ったら武器の使い方とかも学んだ方がいいかもね。戦える手段は多い方が良いでしょう?」


 人形となるなら、その様な戦闘手段も覚えるべき…………。

 是非も無い。此方がお願いしたい事だった。


 しかしながら、武器を用いての戦闘は、ヴィショップの専門外らしく、教えられないと言った。

 代案として提示されたのは、以下の内容だった。


「丁度、この間騎士団を助けに行ったお礼で、学生さん達を一年間ちょこっとだけコキ使えるから、皆で武器の使い方を習おうよ!!」



 その後、仙鳥の二羽と同様で人化を果たした魔狼と翼獅子達は騎士学生から剣技を習う運びになった訳である。



「その前に……変身の度に裸だと困るから、魔道具作ったよ―!」


 足輪は、肉体の変化に応じて、その身に衣服を纏わせたり消したりするものだった。


「はははっ、確かに人前で変身してスッポンポンは、恥ずかしいよな!」


 お調子者のラウドがおちゃらけた調子で言った。




 ◇◇◇





 此方の事情を話してからと言うもの、ヴィショップは、連日工房で過ごすことが多くなっていた。


 騎士学生達が居るとき以外は、工房に籠って何かを創り続けている。


 騎士学生達の契約期間を早々に打ち切ったのは、恐らく今造り上げている物の最終調整に入ったことも要因の一つだろう。


 秋頃になると、工房に籠ったまま姿を見せなくなる日が何日も続き、殆ど毎日夜遅くまで部屋の灯りが灯されていた。


「何を作っているんだろうか?」


「何しているんだろうね?」


 狼達は心配げに工房の扉を見守る。


『場の空気が乱れる』との事から、工房への立ち入りを俺たちは許されていなかった。



 数週間後、ヴィショップの造っていた物が何か判明した。


「ラファルー!グリフィスー!おいで!完成したよ~!!」


 久々に、ヴィショップが呼ぶ大声を聞いた俺達は、家まで飛んで帰った。


 ―――文字通り、翼獅子姿で空を飛んで帰ってきた。



 ヴィショップの造り上げたもの。


 それは、剣だった。


 ラファルには、金の柄純白の刃が輝く中型剣。


 グリフィスには、銀の柄漆黒の刃が煌め大振りの剣。


 そして、髪や腕、足に付ける加護を宿した宝具の数々。


「…………これは!!」



 聖獣で在るが故に理解する。

 一介の魔女が造れる代物ではない。

 神具とも言えるクラスの剣であり、宝具だった。


 森の魔女は、森の主の昇華に伴い、天上の聖女と同等の存在になると言う……。


 しかしながら、ヴィショップがこの時造り上げた代物はその域を逸脱していた。


 そもそもが、聖獣と森の魔女ごときが主従契約を結ぶ辺りからして常識破りな事なのだ。


 それが可能になる……何かがヴィショップには隠されている。


 そう二頭は結論付けたが、その答えが知れるのはもっとずっと後の事となる。


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