第10話 旅の帰路~オカマの魔女と行く珍道中☆Ⅰ

 クロードの森の出口で彼らは俺を待っていてくれた。

 髪の毛の前半分ぐらいが短く後ろ半分は束ねるほど長い、特徴的な髪型の金髪がフィールで、銀髪がフュールだ。



 事のあらましをざっくりとしか話していないのに、二人は俺にしっかり突っ込みを入れてくる。

「またまた、面倒事に首を突っ込んだんですか?」

 と、フィールが突っ込み。

「相変わらずお好きですねぇ~。そう言うの」

 と、フュールも相槌を入れる。

「あーあのね~、俺だって好きで巻き込まれてるわけでも首を突っ込んでいる訳でも無いよ?その辺誤解しないでくれる?」


 そう答えるけど、二人とも『本当に?』とか言いたげな顔で俺の方を見る。


 ――本当ですぅっ!何なら狼軍団と翼獅子達に聞いてくれ!!



 *――――*―――*



 フィールの脳裏にラファルの『声』が響いたのは、突然の事だった。

 腕に巻かれた高機能魔導具のブレスレット。

 これは、実に機能性が多岐に渡るものだった。


 本来の仙鳥の姿から人間の姿に変わるとき、そのままだと裸の人間の姿に変身してしまう。しかし、このブレスレットのお陰で衣服を纏った姿への変身が可能になるのだ。


 そして、武器だ。

 僕が好んで使うのは、二振りの細身のソードだが、仙鳥の姿では持ち運びが効かない……事もないけど、落下率は上がる。


 だから、この魔導具の中に収納されるのは、重宝するのだ。


 それからもう一つ、それが『念思』だ。

 このブレスレットを付けている者同士或は、全員での会話もしようと思えば可能だ。

 ただし、実際にやると全員の声が脳裏に直接響くので、結構気持ちの悪い状態になる。

 特に、ラウドの声が響くものだから、暫く頭痛もする。あまり、全員での会話は向かないのが難点だな。


 そして今、ラファルからフィールに『念思』が届いていた。


『おい、翠の。今森か?悪いがヴィショップに頼まれて助けた魔狼の一族の子狼が重症でな。割りと衰弱が激しいのも何体かいる。成体は全滅だから、何とかこの子狼達は救っておきたいんだが、俺の魔法と持参した薬だけでは、間に合わん。追加を運んでくれないか?』


『いいえ、貴殿方の代わりでクロードの森です。ヴィショップと街道に向かう最中ですね』


『そうか……。あまり、あの魔女ヴィショップには言いたくは無いが……仕方がないだろう……。頼めるか?』


 何を――とは、言わずとも知れる。

 経緯と結果とそして薬の援助の話をすれば、お人好しの主殿は、一も二もなく回復薬を提供するだろう。



 凡その成り行きは聞いていたが、と報告を受けたら、この幼い主はどう思うだろうか?


 助け船を出したのに、全滅と聞いたならと、自身を苛むのだろう。


 後々までもずっと………………。



 主の性格を理解するだけに、ここは断腸の思いで打ち明けるしか無いか…………。



 *―――*―――*



 街道に入り、暫く歩くとフィールの動きがピタリと止まった。


「ん?どうしたのフィール?」


 金髪のフィールは、何かを思案する表情を浮かべるが、やがて観念したのか苦々し気に口を開いた。


「ラファル殿からの連絡が届きました。特効性の高い薬を20個ほど送ってほしいそうです。見つけた子狼の衰弱が酷いらしくて……」


「何だって!?……そうか、直ぐに見繕うからフィール、届けてやってくれないか?」


「はあ――っ、そう言うと思いましたよ。あなたの性格上、そう言うのを放っておける質じゃ有りませんからね……」


 主の性格をよく理解しているフィールは、心底呆れた面持ちで薬の準備を手伝いに動いた。


「お人好しだもんねぇ~。我等が主殿は……」


 二人のやり取りを聞いていたフュールも苦笑しながら薬の取り分けに参加した。



『悪いねフュール。そう言う事だから、主殿の事は頼んだよ?』


『ああ、任せてくれ。僕も馬鹿じゃ無いからね、ちゃんと西の森まで送って行くよ』


 回復薬を纏め、フィールが翠と金の美しい仙鳥の姿に成り、空に溶け込んでいった。




 ◇◇◇




「行っちゃったね……」



「そうですね。……さて、我々も先を急ぎましょうか?暗くならないうちに宿の手配も必要でしょうし、次の街へ急ぎましょうか」


 ヴィショップの呟きにフュールは相槌をうち、歩を進めるように促した。



 フィールを送り出し街道を歩くこと数時間、まだ日は明るいが、突然フュールの面持ちが曇りだした。


「え?……あれ?どうしたのフュール??」


 物凄い、デジャブを覚えるシュチュエーションに戸惑いを隠しきれずフュールに何事か訊ねる。


「あ~。何と言いますか……。はぁっ……。セフィリア姫でしたっけ?毒蛇に噛まれて重篤だそうですよ」


「えっ!!?な、何で噛まれたの?フレイヤもいたのに??」


「何でも、寝所に毒蛇が入り込んでいたようで……。毒消しを送って欲しいと……」


 勿論、現地調達もしたのだろうけど、効果のほどが弱かったようですよ。


「毒は、早く中和しないと後遺症が残るものもある……。どんなヘビだったかわかる……?」



 フレイヤ達からの思念によると、赤と黒の縞模様のヘビだとか。

 割りと毒性が高く、意識消失、マヒ、時間が経過すれば壊死も有りうる様な猛毒の部類に入る。


 急いで、解毒薬を調合してフュールに持っていって貰うことにした。


「人命が掛かるんだ!悪いけど急いで届けてくれ!!」


「しかし、貴女を一人にするなとルシエラに言われていますから……」


「大丈夫だ。今日は暗くなる前に陣を張るし、ちゃんと目眩ましも掛けておくから」


 ヴィショップの幻惑の精度はかなり高い。そうそう簡単に見破れるものでもないからフュールは、その言葉を信じてラウドとフレイヤの元に羽ばたいて行った。


「セフィリア姫、無事助かると良いな」






 フュールを送り出した後、今夜の野営の場所を物色しつつ街道を歩いていた。


 薄暗く成り始めた夕刻、前方の岩影に誰かが座り込んでいた。

 山賊とか物盗りかと警戒しながら近付くにつれ、その人物の全貌が見えてくる。



 やや大きめの体格の乳緑色の波打つ髪を肩に流して束ねている……。

 見覚えが有る!有りすぎる人物によく似た特徴だった。


 女性の魔女の格好をしたオカマの男だ。



「え……?オルヴィス?何でここにいるの!?」





「うわぁ~んっ……ヴィショップぅ~!聞いてよぉー!!」


 俺を認識すると長身のオルヴィスは、俺に抱きついてわんわん泣き出した。


「な……何!?どうしたの?ファリヤの闇市に行ったんじゃ無かったのか?」

「そうなんだけどぉ、そうだったんだけどねぇ~!うわぁ~ん………!!」


 あー、号泣していて話にならない。

 ここは、泣き止むまで待つしかないか……?


 22~3歳の大のオカマが10歳姿の男の子に抱きついてワンワン泣いている。

……街道を今は誰も通っていなくて良かったね、オルヴィス。


 大人が子供に泣きすがる……何て、何ともおかしな光景だよな……。



 俺は内心、苦笑いを浮かべながら、オルヴィスが泣き止むのを待つことにした。







「あの後ね、次の宿場町でいい感じになった男がいたのよ。その男に………有り金全部盗られちゃったのよぉぉぉ――――!!」


 叫ぶようにそう言った後『わぁっ…』と、また泣き出してしまった。


「あぁ、そうか……。それは悔しいよね。……それじゃぁ、オルヴィスは今、無一文なのか?」


 コクコク頷くオルヴィスは、隣で俯いて肩を震わせて泣いている。

 頭を撫でて宥めてやるが、子供が慰めるとか…やっぱり大人じゃないとこう言う時に効果は無いよな。


「なあ、有り金全部盗られたのは悔しいけどさ、盗られたものは戻らない。西の森までの道中、何か稼ぎながら移動してさ、稼いだ金はオルヴィスが、持っていって良いから、そうしないか?」


「ヴィショップぅ~。アンタ漢ねぇ~☆将来いい男になるわよ~☆」


 少しだけ、オルヴィスの気持ちが盛り返してきた様で、泣きながらもこんな冗談も言えるようになった。



 この日は、そのままここに陣を張って野営をすることにした。


 フレイヤ程じゃないけど、俺も料理はする。森の中の野営と言っても、ルシエラやフレイヤが、いつも一緒に来る訳じゃない。

 俺と誰かって、組み合わせも多々あって、そう言う時は自分で調理をするんだ。


「相変わらず、手際が良いわよね~☆いいお婿さんになれるわよ?料理も出来て、頼りがいがあって、今は可愛いけど大人になったら美形よね~☆ウンウン、ヴィショップぅ~アンタいい男よ♪♪♪」


 オルヴィスの闇落ちも大分落ち着いたようで、漸く何時もの調子に戻り始めたようだった。


 ――――それにしても……『いい男よ♪』か。クラウディアさんの言っていた、オルヴィスと二人きりになるなって、やっぱり男の子のフリをしているから、危ないって事かな?


 うん、寝るときは、警戒しておこう。



 食事を済ませ、交代で火の番をして過ごすことにした。


 先に俺が番をして、交代でオルヴィスが番をすることになった。




 ◇◇◇




 まぁったく…調子が狂うとは、この事だよな。

 これまでのヴィショップを見るに、その気質はの一言に尽きる。


 クリムゾンから脅し取った金にしたって、ほぼ全額あのお姫様に渡して………。


 この俺が男なんかに入れあげる……?そんな嘘を真に受けて……移動の間に稼いだ金を俺にくれる……ねぇ?


 馬鹿だな。馬鹿が付く程人を疑うことを知らない…お人好しの甘ちゃんだ………。


 コイツが、本当に将来…俺を殺すんだろうか?

 今のコイツを見ている限り、あの夢に出てくるような冷たさは無いんだよな………。


 隠しているのか?秘めているのか?


 漸くを作り上げたのだ。

 明日から……ゆっくりそれを確かめさせてもらおう………。



「だから今夜は……よぉ~くお休み…可愛いヴィショップ☆」


 オルヴィスは、愉悦に満ちた眼で深い眠りに落ちたヴィショップの寝顔を見つめていた。見つめながらその手はヴィショップの頭を優しく撫でつけていた。


 そんなオルヴィスの微笑みが炎の中に揺らめき、夜は更けていく。




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