第8話エルダーズ商会

 数日後、シルビア姫の容態も安定し、ラトビ医師からも『完快』したとの太鼓判が押された。


 因みにラトビ医師とは、五年前に会っていたらしい。多分、先王お父様が臨終の時に居た医師団の一人だね。


 連日、シルビア姫から雑談など延々と質問攻めに遇ったが、漸くそれからも解放され、我が家へと帰れることになった。


 帰りも、ランディー王子と騎士団に馬で送られる事になったけれど、ここで問題に気がついた。


「ねぇ、この森って、ロクな道が無かったんだね」


 森を抜けた後の街までの平野ですら、と、言うものが整備されていた。


 まぁ、途中途切れがちな所も有りはしたけど。それでもこちらに行けば辿り着く……位には有ったんだ。


 町中にはもっと綺麗に整備された道が広がり、人々の往来を支えていた。荷馬車も悠々と通っていたし、あれを森の中で再現できるのかって言ったら…………。



 ヴィショップの今更の感想に、一同目が点になっていた。


「「「…………え?」」」


 揃いも揃って、何を今更とでも言いたそうな顔をしていた。


「そうですね、森に入った後の今のこの道に出るまで、殆ど獣道ですもんね」


 その、ですら、倒木と雑草が延び放題になっていて、道とは言えない状態になっていた。


「そういや、今まで王宮に来る時ってどうしていたんだ?」


 カルロは、森の中に道らしい道がない事と、『道』について、異様な関心を示しだしたヴィショップを不思議に思ったらしい。


「城に行くときは、空を飛ぶんだ。『飛行艇ラヴュターユ』て言う、乗り物で飛ぶんだ。森の中の移動は、に乗って行けば、木とか草の方が避けてくれるから、今みたいに然程不便じゃないよ?」


 フドルフと言うのは、家の前に在る割りと大きな岩だ。

 いや………正確には寝ているけど、まるで岩みたいな甲羅を持つ魔獣だ。

 放っておけば、何百年も寝ているらしい。

 余程遠出をするとき意外は、乗る機会もないから、大抵そこで寝ている。


「………え~と、何だ?空を飛べるのか!?ヴィショップ、お前も飛べたりするのか!?」


「あ……いや、俺はまだ飛べない。使い方を教えてもらって無いんだ。その前に、お母様は、俺の魔力を封印して眠りに入っちゃったから………」



「そ……それは、立ち入った事を聞いてすまん」



 え?別に立ち入ってなかったかと思うんだけど……。

 何だか、深刻な話をしている流れになった気がする。


 いや……お母様、死んでないよ?


 眠っているだけだよ?


 気にしないでくれー!!


「それで、何でまた、道なんて気にしだしたの?」


 ランディー王子の質問で、漸く無用のしんみりモードは終了した。


「それなんだけど、シルビア姫が、この森を見たいって言ってね。お姫様が来るとして、騎乗でくるの?それとも馬車で………?」


 9歳の王女様の移動って何だろう?

 騎乗にしたって、途中の町から片道一時間半とかって、耐えられるの?

 俺だって、お城の行き帰りにこっそり『回復ひーる』かけているのに……。


「それは、勿論馬車になる。護衛騎士も付くし、場合によっては料理人も同行するかなぁ?」


 ランディー王子は、野外でのピクニックを想定したらしい。

 事前に作ったものを持っていく場合もあれば、現地調達で調理して提供する場合もある。


 王族って、凄いなぁー。


「成る程ね。あと、これから先大工と瓦職人、資財の運搬とか運ぶにしても、今のままじゃ、ほぼ不可能じゃないかと………」


「………それは、大問題だね」



 道を作るのは良いとして、さてその文の工事費を何処から算出するのかが、問題に上がった。


 一同、頭を悩ませて唸り声をあげる寸前になっていた。


「木材を切り出して良ければ、それを売った代金で道を作るなんてどうですかね?」


 ライセルの一言から、話は広がり始めた。


 森の入り口から木を切り出して売り払い、その現金収入で、昔の道まで繋げて整備をする。

 その後も、木こり達が安定して仕事が続けられるように森の木を切り出す許可を与えるようにすれば、国内の経済発展もまた見込める物になる。


「森の色が濃く変わる深部に触れなければ良いよ。ただし、深部に触れるなら命の保証は、無いけどね」


 森の怒りに触れれば、命の保証はしない。

 そして、森は閉ざされることもある。




 ◇◇◇




 その後、ランディー王子を介して一つの商会が、紹介された。

 材木問屋、『エルダーズ商会』だった。


 責任者として派遣されたのは、20歳位の、焦げ茶色の髪と緑の瞳のお姉さんだった。

 額に、バンダナを充て、長い髪は三編みに結われていた。

 動きやすいマタギの格好で、30人ほどの木こり達を従えて、やって来た。


「エルダーズ商会からやって来た。エイダよ。宜しくね」


 快活そうな雰囲気で、白い歯が、眩しい笑顔を見せてくれた。


「ヴィショップだ。宜しく頼む」


 エイダさんと軽く握手を交わし、早速商談に入る。

「早速だけど、森の中を確認させて貰って良い?」


 森の木々が材木として売れる売れる価値が有るかを確認したいのだ。



「これは、欅ね。立派だわ………。あっちは檜ね。あれも建築材として使えるわね」



 森の奥へとバショヲ移動する。

 進入禁止を下した色の変わる際、更にエイダのテンションを上げる木材が、見つかったようだ。


「うわっ、マリンゴの香木じゃないの!!」


 焚くと甘いリンゴの薫りと仄かな清涼感を感じる、マリンゴの香木……高さ二メートル、幅広一メートルは有りそうな、ずんぐりと見える不格好な木だが、あの様子だと価値は高いらしい。


 半日かけて、森の中を見て回り出された結論。


「何ここ!!建材と、金の成る木の宝庫じゃないっ!!」



 との評価を頂いた。


 正式な契約に辺り、以下の協定が結ばれることとなった。



 一つ、同一区間にて、一定数以上の木々を伐採しないこと



 一つ、高価な木でも、伐採し尽くしたりしないこと



 一つ、色目の濃くなる深奥の森へは立ち入らないこと



 一つ、での出来事に、こちら《ヴィショップ》に、責任を負わせないこと



 一つ、伐採を許可する期間を五十年間と限定すること



 以上の条件が、契約に当たっての条件に成る。


 一つでも、不履行が有れば、森は容赦なく牙を剥くし、閉ざされる。


 この辺りは、よりも、の、方がとても厳しいのだ。


 主は、あくまでも。従に当たるのは、


 今回は、を作りたい、を直したいと言う、私の我が儘を聞き入れてくれただけだから……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る