第7話呪いの正体Ⅲ
お城の忘れ去られた裏庭の、朽ちかけた倉庫の地下。そこに閉じ込められ、死して怨霊となった、若い娘……。
その怨みの念は、シルビア姫を呪う原因となった。
そもそもの原因は、現エスターナリア国王にして、我が
シルビア姫からしたら、完全なる父親の仕出かした不始末のとばっちりだった。
これを、ランディー王子やシルビア姫に何と伝えるか?
第三者から伝え聞けば、親子間で不協和音を生みかねない。
そして、謁見の間でこれを報告すれば、家臣にこの不祥事が知られ、造反を生みかねない。
さて、どうしたものか……?
現在、王宮の一室のベットのの上にて、どうしたものかと思案中だ。
今の俺は、失血による貧血と、魔力行使による魔力の枯渇による不調で倒れてしまい、客室を貸してもらっている状況だ。
コンッ、コンッ。
ドアを叩く音の後に、国王の来訪を告げる近習の声が聞こえた。
「どうぞ、起きていますからお入りください」
ガチャリとドアが開き、国王カルーアが、入ってきた。
勿論、一人ででは無い。
近衛騎士や、従者も一緒だ。
一団体規模だよね。王一人が移動するのに、十数人でゾロゾロ移動とは……。
「具合は、どうなんだ?エイセル……いや、今はヴィショップか」
「お御足を運ばせてしまい、申し訳御座いません、カルーア国王陛下」
ベットの上から降りられないので、このまま失礼して、軽く礼を済ませる。
「いや、良い。お陰でシルビアも目を醒ましたし、事は解決したのだろう?」
「……。その事ですが、事の子細をお話ししておきたいのですが……」
チラリ、王の裏に控えている近従に視線を向けると、王も何かを察したのだろう。直ぐに人払いをしてくれた。
「さて、人払いはしたぞ。事の子細を話してもらおうか?」
俺は、外に音が漏れないように『遮音』魔法を発動した。
「何だ?……何か、魔法を使ったな?」
「『遮音』です。これから話すことは、内々の内にしておきたい内容になるので…」
そう、前置いて話始める。
そして、ここからはあくまでも姉として話すことだ。
「カルーア。あなた、ルシーナと言う名前に心当たりは有るかしら?」
カルーアは、唐突に出てきた名前に、数瞬の間を置き、目を見開いて驚きの表情を浮かべた。
「どうして姉上が、その名をご存じなのです?」
久々に、『姉上』と言うかと思えば、こう言うときだけだ。
「先程まで、彼女と話をしていたからね。それで知ったのよ」
「彼女……元気にしていましたか?」
しんみりとした口調で、訊ねてきた。
何を言っているのか……彼女は既に死んでいるのに。
カルーア自身は、この
「元気?そんなわけ無いでしょ?彼女が何処で見つかったのか、貴方知っている?」
咎める口調になっていた。
「いえ……。でも、話をしたなら、シルビアにかけられた呪いは、彼女の犯行と言うことですよね?」
「貴方、本当に何も知らないのね。……彼女、もう死んでしまっているわよ?もう10年近く前に、城の今は使われていない廃倉庫跡で……」
「えっ…!?そ、そんなまさか……。城を出たと聞いていたから、田舎にでも帰ったとばかり……」
つまり、その様に伝え聞かされていたわけだ。この
「シルビア姫にかけられた呪いね、メインは、ルシーナの怨念によるものが主体と見て間違いないだろうけど、それだけと言う訳でも無さそうよ?」
「…………!!まだあるんですか!?」
「……普通に考えてみて、可笑しいとは思わない?ただの怨念による呪詛ならば、何故苦しむことなく眠らされただけなのか。そこに、何かしら介在する力が働かない限りはあり得ないことだわ」
「それは、つまり…………」
「カルーア、用心しなさい。常に警戒は怠らないことよ?……それと、貴方……他にもルシーナさんみたいな人が居たりしないでしょうね?」
その言葉に、カルーアは、ばつの悪そうな顔を浮かべた。
こりゃ、他にもいるのね…………。
「貴方ね!本当に、危機意識が足りないんじゃないの!?大体、この一件をあの子達にどう説明するつもりよ!?貴方が、原因なんだから、ちゃんと自分で説明しなさいよね!!」
お姉ちゃん、ぶちギレますっ!!
「すみません…。まさか、自分の仕出かした事が事の発端だとは…。…………わかりました。この件は、私の方から王子達に話します」
カルーア国王の普段の覇気は、成を潜め、少しばかり落ち込んでいたようだった。
暫くは、姫にかけられた呪いの後遺症が無いかを診に通うことになった。
三十八歳を迎えた一国の国王が、その後も暫く、見た目五歳児の姉に叱られたのは言うまでも無いでしょ!?
◇◇◇
目を醒まし、食事も摂れるようになったシルビア姫は、淡いブロンズ色の緩い波打つ髪に緑色の瞳の可愛らしい女の子だった。
どんな色でもよく似合う、愛らしい妖精のような女の子ね。
「はじめまして、シルビア姫。西の森の新魔女、ヴィショップと申します」
「まぁ、貴女がそうなの?小さいのに呪いまで解いてしまうなんて、凄いのね!」
シルビア姫には、俺の正体は明かしていない。目覚めたばかりの幼い彼女に、何と説明する?
見た目年下の、年齢は父親より上の叔母だぞ!?
何れ、年を余り取らないことから、疑問に思うだろう。その時にでも打ち明ければ問題ないでしょ?
「粗方の呪いは、解けたのでしょうけれど、一つ懸念があります。なので、こちらの薬を一日に一つ御召し上がりいただけますか?」
差し出したのは、手のひらサイズの小さな小瓶に入った、一口サイズの飴玉だった。
光の反射で、虹色が揺らめくような光沢の飴玉だ。
呪いの残滓や、残る痕跡の治療などに用いる、西の森の魔女の家系直伝の飴玉だ。
体の内部から癒し、修復と耐性強化をしてくれる優れものである。
「まあ、可愛らしい器ね。あらっ、中身も宝石みたいに綺麗!!」
シルビア姫は、容器のデザインと中身の
「お褒めに預かり光栄です……」
早速一粒を手に取り、まじまじと飴玉…薬を眺めていた。
その目は、
「暫くは、それを御召しになり続けてもらいますから、心配しなくても直ぐには無くなりませんよ?」
その言葉に、顔を赤らめながら薬を口に運ぶ。
コロンッ。
口にした瞬間、甘い味が口一杯に広がる。
「甘い!!」
しかし普通の飴ではない。口にした瞬間、優しくほどけて溶けてしまうのだ。
普通の飴ならこんなに早く溶けはしないから……やはり魔女の薬なのだ。
その事に、少々名残惜しいものを感じたシルビア姫は、口先を軽く尖らせた。
「もう少し……味わえないのかしら…?」
薬を味わうと言うのもどうかと思うのだけど……。そこは、可愛い姪の頼みだ。子供が飲みやすいように、飴型にしたり甘くしたのは俺だから改良してみましょう。
「改良してみましょう」
「ねぇ、貴女は『森の魔女』なのよね?私、貴女の森に行ってみたいわ!!」
その後も会話を続け、天真爛漫なお姫様の好奇心が、出現したようで「いつかね」と言う約束をさせられてしまった…………。
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