第2話旅程~新たな出会いⅡ(俺の野営場所)

 クリムゾン商会との別れ際、忠告をしてくれたクリムゾンに対し、こちらも忠告を与える。


「なら、これは心優しいクリムゾンさんにも、俺からの忠告ね?今夜は、魔物が騒ぎ出す。赤い月が、もうすぐ顔を出すからね。早めに防護陣を引いた方が良いよ!」


「本当か……小僧!?」


「本当だよ。俺の家系、占星術をしているんだ。だから俺も、星を見るのは得意なんだ。今夜は、出る。だから急いだ方が良いよ」


 そう言いながら、懐から占い師の証明のネックレスを取りだし、その飾りをクリムゾンさんに示す。

 占い師にも、等級が存在する。等級は、魔法協会と言う所が管理し、その者の等級を星に準えて現す。

 飾りに彫られた星の数が多いほど、占い師としての信頼度が証明されるのだ。


 その証明を、クリムゾンに見せると、一つゴクリと唾を呑み込んだ。


 星――9つ。

 十段階中の、9段……。

 信頼度、上位となる。


 それを確認した途端、クリムゾンの顔は青ざめた物に変わっていった。


「あ……それじゃ、お前たち、気を付けていくんだぞ……?」


 そう言うが早いが、別れの挨拶も漫ろにクリムゾンは、走り出した。


「おーいっ!急いで防護陣をひけぇ――!!今日は、魔物が騒動を起こすぞぉ!!急げぇっ!!」



「行っちゃったね……。……さて、俺達も移動するか!……お嬢さんは、デカイあんたが運んでね?」


「はあぁっ?何で、アタシが運ぶのよぉ!?」


「え……!?セフィリア様なら俺が運びますよ!?」


 少年は、それに対して反対した。

「あんたね、自分と同じぐらいの背丈の人間、そうそう抱えて歩き続けられる?」

 そう言われると、それ以上の反論は上がらなかった。不承不承……納得せざる負えなかったのだろう。

「だったら、そこのガタイの良い……お兄さ……お姉さん?に、お願いした方がいい」


 途中、言い直したのは、当のに、睨まれたからだ。


「んもぅ!か弱いアタシが大きな子供を運ぶなんて…………ぶつぶつ…」


 とか言いながら、しっかり抱えて難なく立ち上がった。


 やっぱり……男だよな、この人……。


 漸く、四人たも移動することになったのだ。


 道すがら、簡単に自己紹介をしていく。

「俺は、ヴィショップ、西の森の賢者だ。今はちょっと、知人の所まで、薬草の配達に行く最中なんだ」


「アタシはオルヴィス、見ての通りの旅の魔女よ。オルヴィーって呼んでね☆」


 え……うそ!魔女??

 …………どう見ても男でしょ!?

 背も高いし、ガタイも良いし、声も低めだよ?


 オルヴィスの見た目は、二十二、三歳ぐらいで、身長185㎝位の長身に、翠色の瞳と、緩く波打つ乳緑色の長い毛を左肩口にゆるく結わえていた。顔は中性的だけど、線が細くないから女には寄りきれていない顔付きになる。


 服装は……確かに魔女の好む服装だった。


 そして、流れる血の気配から、確かに魔女の家系であることは、理解できた。


 …………でも、男が魔女でも、良いの?

 男でも………魔女?



 …………………………オカマの魔女!!?



「僕は、エディン。マルデリカ王国の騎士だった……」


 マルデリカ王国……今いるのはライセン王国。エスターナリア王国の隣国で、マルデリカ王国はライセン王国の隣国になる。エルバラン皇国と、戦の最中だったようだが、この様子だと敗戦したのだな。


 そして、逃亡中か…………。


「そっか、それは、大変だったね。……オルヴィス、あんたはどうしてあの場にきたんだ?」


「それぇ?精霊達がねぇ~、今夜の宿に最適な場所を提供してくれそうな人が来るよって、教えてくれたからね☆」


 ウィンクをヴィショップに決め、微笑んだ。


 …………き、気持ち悪いっ~!!


 男が女の格好して、化粧までしているんだ。なんか、こういうヒトって、初めて見るから違和感が物凄く…………。

 

 しかも、ウインクって……、さっきの男のヒトにもしてたよな…。


 ……まさか、男なら年齢問わずとかか!?


「そう言うヴィショップは、どうしてあの場に来たのかな?」


「俺?俺はぁ、占いでに出会えると有ったからね♪♪」


 と、手にしたクリムゾンに貰った金袋を掲げた。

 二人から、白い目で見られたことは、言うまでもない。


「商売道具、しっかり私用してるわね~」


「やっぱり、金か…………」


 クリムゾンとの交渉を思い浮かべ、妙に納得した二人だった。



 程なくして、俺の宿営場所に到着した。


 立ち並ぶのは、葉が一つもない立ち枯れた細い木々の淋しい場所だった。

 これでは、雨風もろくに……所ではなく、全く防げない見た目の場所だ。


「ここが、ヴィショップの夜営場所……?」


 オルヴィスは気の抜けた声で感想を洩らす。


「ふっ、ふざけるなよ!!ここまで来て、なんだよこれっ!?」


 エディンは、上手いこと口車に載せられて、更に劣悪な場所に連れてこられたと激怒した。


「まあまあ、落ち着いて…?何か……仕掛けでも、有るんでしょう?」


 流石は、魔女の血を継いでいるだけあって、勘がいい。


「……ご名答!『偽装解除』!!」


 その途端、豊かな葉に覆われ囲われた雨露を充分に凌げる場があった。

 魔物避けの強度な防護結界が二重に敷かれた、絶対的安全が約束された場所になっていた。

 その中に、小さいながらテントが張られ、その側に焚き火を起こされた光景に移り変わった。

 焚き火の前には、薄桃色の髪の女性が、鍋の具をかき混ぜているところだった。



「「…………!!」」



 その光景のあまりの違いに、二人とも息を呑んだ。


「ここまで……大掛かりな偽装は、始めてみるわよ……」


「な……なんだよ、これ…………」


「ほらほら、二人ともボケッとしないで、入った入った!!」


 二人を急かし、その場に入ると再び『偽装』をかけて、この場を目眩まし状態にする。


 ここに人が来ても、結界の外からは只の枯れ木が立ち並んだ淋しい場所にしか見えず、また、結界へも侵入は叶わない。


「おかえりなさい、ヴィショップ。上手くお金は、稼げたの?」


「ただいまフレイヤ。留守番、お疲れ様。首尾は上々だよ♪……さてと、お嬢さんと騎士様は着替えが必要だよね?俺のでよければ、大きいのも有るから着替えは、貸すよ?」


 背丈が、二人とも同じぐらいだ。俺のじゃ少し小さいだろうけど無いよりましだろう。

「ああ、………有り難いが……その…」


 お嬢さん…熱が出ていて一人では着替えは無理だろう。

 そして、ここにいる二人は男だ。一人はオカマ。でも、しかし男だ。


 俺一人では、手が足りない。となると……視線の先には、フレイヤだ。


「フレイヤ、悪いんだかどお嬢さんの着替えを手伝ってくれるか?」


「ええ、構わないわよ。随分と具合が悪そうね。そっちのテントの中に運んでくださる?」


 オルヴィスは、お嬢さん――多分お姫様だろう――をテントの中に運んだ。


 テントの中は、人が三人程寝るのに丁度良い大きさで、オルヴィスみたいな大きな大人は立てないけれど、俺ぐらいなら十分に立てる大きさだった。

 にそして中には、布団が敷かれていた。

 お嬢さんは、布団の隣に下ろして貰い、着替えることにした。


 何故もう、布団が敷かれているかって?

 雨だし今日はもう、食事をして早めに寝るつもりだったからね。

 ………それに、今夜は赤い月の夜になる。

 今はまだ、その姿を現していないけれど、出ている間は、外に出るのは危険だ。


「有り難う、オルヴィス」


 テントの中で、お嬢さんを下ろしたオルヴィスに、礼を言い彼の後ろを通過して貸す服を選んでいた。


「ねぇ、ヴィショップ君……で良いのかしら?」


 ……ん?質問の意味が解らないぞ??何が言いたいんだろう?


「……へ?何??オルヴィス、何か変なこと言うね」


 振り返って、顔を見れば、何処か苦しげだった。

 何処か熱を帯びた目をしていて、憂いを含んだような……そんな眼差しだ。


「オルヴィス、具合でも悪いの?大丈夫なら、着替えをエディンに持っていって欲しいんだけど……」


 しゃがみこんで、様子を見るが、特におかしな点は無さそうだった。


 強いて言うなら、目が若干充血しているみたいに、赤いかなって所だろうか?


 オルヴィスの長い指の手が、俺の頬に触れてきた。

 ………………触れる手が熱い。

 ………あ、もしかして、オルヴィスも熱があったりするのか!?


 オルヴィスは、じっと俺の顔を見詰めてきた。その瞳は、憂いの有る、熱っぽい目をしていた。



「着替えを始めましょうか?………えっ、オルヴィスさん?………ヴィショップに、何してるんですか!?」



 ………ほわっ!?


 つい、オルヴィスと目を合わせたまま固まっていたようで、フレイヤの声に、ハッとした。

 そうだ!!今は、お姫様の着替えが先だった!!


 オルヴィスも、さっと手を引っ込めて、その場を立ち去った。


「何でもないわよ……後は、宜しくお願いするわね☆」


 去り際に、その一言を残して。




 ◇◇◇


 テントを出たオルヴィスは、自分の迂闊さを呪った。

「不味い……危なかったわね。つい、手が出るところだったわ」


 今はまだ、手を付けるべきではないと言うのに………。

 テントを出て空を見上げれば、白銀に輝く月の隣に、禍々しい血のような色の赤い月が顔を覗かせていた。


 オルヴィスの瞳がキラリと一瞬、赤みを増したように光る。


「ああ………側に居るだけで気が狂いそうよ…………」



 小声で呟くその声は、焚き火の音に消されて、側に座るエディンの耳には、届かないようだった。



「悪かったな、オルヴィスさん。……その、主を運んでくれて助かったよ」


 エディンは、焚き火の側に座り火の番をしていて、オルヴィスに側に来るよう手招きをした。



「はいこれ、貴方の着替えだってさ。後は、フレイヤさんがやってくれるでしょうから、アタシ達は待つしかないわね」


 エディンは、受け取った着替えをその場で着替え、二人は、焚き火の側でレティシアの着替えが終わるのを座って待つしかない。

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