第6話旅程~街道を移動するⅠ

 翌朝、全員が目覚めた所で、食事がてら改めて自己紹介となった。


 まずは、身分の高いお姫様から。

「マルデリカ王国第三王女セフィリア・リリン・マルデリカです。……国は滅んだので今は、ただのセフィリアですね」


 そう言いながら、瞳は悲しみに沈み顔も次第に歪んでいった。


「姫……。お痛わしい……」


「サムス、大丈夫です。これは、乗り越えねば成らない悲しみの一つに過ぎませんから」


 セフィリアは、気丈な面持ちとなり、言い切った。


「サムスだ。セフィリア王女の親衛隊隊長をしていた」


「同じく、エディン。親衛隊所属です。」


 助けた三人は、名を名乗りマルデリカ公国……滅んだようだけど――の人だと分かった。


「アタシはオルヴィス、この先のフィアスの街を目指しているの。あそこでもうすぐが、有るからね~♪」


 オカマ魔女の目的地、フィアスの街は、エルバラン皇国と接している為、多くの希少品が流通している。行商街道の途中の街だ。


 そのか……。うわっ、興味をそそられちゃうなぁ……。

 ああいう所って、普段お目にかかれ無いものも出たりするんだよな。

 ああ、行ってみたい…………。


「俺は、ヴィショップ。西の森の賢者だ。こっちにいる四人は、俺の下僕達の狼だ。赤毛がラウド、赤茶がフレイヤ、栗毛がクルド、青銀がシェリスだよ」


「……えっ!?どう見ても、人にしか見えませんけど、人じゃ無いんですか!?」


 セフィリアの驚きの声が上がった。

 見ると、エディンとサムスさんも驚いた表情になった。


「ああ、え~と、うん。元は魔狼なの。それが属性特化と人化を果たしたみたいだね」


 俺は、かなり掻い摘まんだ説明をした。詳しく話すとややこしくなるから遠慮させてくれ。


 一通り、今いるメンバーの名前を把握したところで移動になる。


 その前にも、一騒ぎ起こったけどね。


 テント、簡易炊事場と言ったやや大振りな物の後片付けでだ。


「これ、どうやって持っていくんだよ?」


 エディンの指摘は最もだ。

 普通、大がかりにしろコンパクトにしろ、荷物を運ぶのに馬や馬車位必要に成りそうな……そんな規模のテントを張ってあったから。

 中に収納されている荷物も含めて、どうやってこの荷物を運ぶつもりなのか……。


「これ?……へへへっ♪見てて~♪

『収納』!!」

 俺がそう唱えると、テント以下設置した物品が、一瞬光りを放ち俺の腰ポーチに収納されていった。


「…………へっ?」


「あらっ!?」


「……んんっ!?」


「まぁっ……!?」


 四人それぞれ、驚きの声と共に良い顔で反応してくれた!


「うちのお婆様直伝、空間収納機能付きポーチだよ!!凄いでしょっ!?」




 ◇◇◇



 各々の目的地の異なる一行は、目的地の方面が重なる途中までの道程を同行することにした。


「ヴィショップは、何処まで行くのかしら?」

 歩きなが、各々の目的地の再確認だ。

「俺は東部にあるクロードの森まで、薬草の配達なんだ」


「成る程、それならアタシとは、その辺りの街道までは一緒ね♪」


 オルヴィスは、ニコニコと上機嫌なのか、話す声のトーンがやや高いものになっていた。

 オルヴィスのテンションの上がり具合は、恐らく俺の手持ち食材に、お気に召した食材でも有るんだろうな……。


「私達は、リスター皇国に向かいますので、この先の分岐点でお別れになりますね」


 その分岐点までは、あと二日歩かなくてはたどり着けないが、その前に何処かで宿をとって、ゆっくり休みたいものだ。



 途中、昼休憩と、小休止を挟んで、日も落ち始めた頃、街道沿いの小さな町に到着した。


 運良く、部屋が二つ取れたので漸く腰を落ち着けることが出来た。


 部屋割りは、部屋Ⅰに、セフィリア、フレイヤ、ヴィショップ。


 部屋Ⅱに、サムス、エディン、ラウド、クルド、シェリス、オルヴィスだった。


 部屋Ⅱに、人数が片寄るが、狼三頭は、寝るときに狼に戻って寝るし、亡国とは言え亡命後も身分の保証があるセフィリアと、大人の男が同室と言うのも問題だから、その辺りは仕方がない。


 セフィリア様とフレイヤは、着替えを買いに町へ出ていた。

 暇をもて余した俺は今、部屋Ⅱにお邪魔していた。


「ヴィショップも、こっちでも良かったんだけどね、流石に狭いもんな」


 見た目にして、五歳ほど年上のエディンが、言う。


 狼三人衆は、外に駆けに行ってしまった。一日人間のフリをしていて、走り込みが足りないらしい。

 食事は人とは同じで無くても大丈夫で、勝手に狩りをして食べてくるからその辺は助かる。

「そろそろ、飯だが……先に風呂にでも行くか…?」

 サムスの一言に、オルヴィスが即反応。

「は~いアタシは、パ~ス。先に一杯飲んでくるわぁ♪」

 と、言いながら酒場に行ってしまった。


「と、なると残ったのは、俺達だけか…。よし、行くぞヴィショップ!」


「……へっ!?え?あっ!いいよ俺はっ!後でフレイヤ達と行くから!!」


「何言っているんだ、お前も男だろ?何時までも子供じゃないんだから、俺達と一緒に行こう!」


 エディンが年長者らしく、はつらつとした良い笑顔で俺を諭してくる。


「いや、いいっ!断じて俺は……後で入るから……だからっ!!」


「遠慮するなって!」


 エディンが俺を抱き抱えて連れていこうとするが、そこで動きが固まった。

 抵抗している俺の胸部と、捕まえようとするエディンの手が、触れたのだ。


 フニャッ……。


 僅かに感じたその感触に、エディンは戸惑った。


「…………!?」

「…………っ!!」


 エディンは、バッと俺から離れた。


 今、手に感じた感触が信じられなかったのだろう。


「…………え、ヴィショップ……君は……?」


 わなわなと、震える体を落ち着かせ、怒りに泣き出しそうな涙も堪え、それでも俺は叫んだ。



「お、俺…俺は…俺は…女だ――っ!!」



 ボスッ――!!!



 ヴィショップの拳がエディンの腹にクリーンヒットしたっ!!


「ごふぅっ……!?」


 エディンが、その場に沈み込んだ。


「…す、すまない……ヴィショップ……」


「エディンの馬鹿――っ!!」


 ヴィショップは、部屋Ⅰへ逃げていった。



 部屋Ⅱに残った、サムスとエディンの二人は、ヴィショップの性別判明に驚いていた。


 サムスは思った。ヴィショップは、『森の賢者』と名乗り、ずっと『俺』と呼称していた。顔は女の子その物だと思ってはいても、『男の子』と、勘違いしていた。

 原因は往々にしてヴィショップ本人にあった。

 ここで、エディンを責めるのはどうかと思うが…………。


「女の子……だったのか……」


「だったみたいです……。有りましたから……」


 パコンッ! 「いてっ……!!」


 エディンの頭をサムスが、叩いた。


「口には気を付けろ」


「すみません、気を付けます……」


 そんなこんなで、その晩ヴィショップは、エディンと口を聞くことは無かった。






 ◇◇◇




 夜、エディンは既に床に入り、狼三人はまだ戻らない。

 セフィリアは、部屋Ⅰで女性同士上手くやっているだろう。そこに、男の俺一人で入っていく気は、更々ない。

 食事時、オルヴィスはまだ宿に戻ってはいなかった。

 別に心配したとかではなく、寝るには早く起きているには退屈しただけだった。

 だから、酒屋の一軒でも寄って来ようと宿に一番近い酒屋に入った訳だ。


「まだ、飲んでいたのか?」


 カウンターに一人グラスを傾ける、大柄な女を見つけて声をかける。


「あ~ら~。サムスじゃないの♪なぁに?貴方も呑むの?」

 頬はほんのり赤く染まり、かなり出来上がっているようにも見てとれた。


「ああ、俺も少し、仰ぎたくてな」


「ふ~ん……」


 カランッ……。


 グラスを空け、氷が弾く音が鳴る。


「マスター、もう一杯頂~戴~♪」


「お客さ~ん、そんなに飲んで、大丈夫かい?」

 夕刻から、ずっと飲み通しのこの大柄な女を心配しているのだ。


「そんなに飲んでいるのか?」

「夕方、開店して直ぐかな?結構良いペースでいっちゃってるよ、彼女」


 マスターのその言葉に溜め息しか出てこなかった。


「何だ?ヤケ酒でもしていたのか?」


「だぁってね~。悪い奴って、ずっと探していたのに、実際有ってみたらいい人なのよ~。アタシ、どうしたら良いのか解らなくなっちゃったのよ――っ!!」


 な、何だ……?痴情の縺れと言う奴か?

 男にでも捨てられたか裏切られたかして、再会してみたらやっぱり良い奴たど思ったとか…?


「過去は忘れろ。振り返っても戻っては来ない奴なんだろ?それなら前を向いて、オルヴィス君に相応しい相手を探すべきだ…」


 相手は……本当は男だと言うのに、俺は何を言っているんだ?


 ……いや、今のは旅の供として、励ましているだけだ。


 他に、他意は無いはずだ…………よな?



「あははは~!やぁだっ、サムスったらぁ~♪嬉しくなるような事、言ってくれるじゃなぁ~い♪♪」


 その後、オルヴィスは機嫌を持ち直し二人は、遅い時間まで飲み明かしていた。

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