第7話旅程~街道を移動するⅡ
翌朝、一行は街道を再び歩き出す。
「オルヴィス、大丈夫?」
若干一名の、体調不良者を抱えて……。
「ううぅ…流石に飲みすぎだったわ……」
見ると、顔が青い。
「クルド、狼に戻って少し拡大してくれる?」
「はい、はい。オルヴィスさん、僕の上で吐かないでねー」
クルドは、割りと察しが良い。普段は、若干ぼぉっとしがちだが、戦闘には(特に防御面に於いて)そこそこの能力を発揮する。
「そこは気を付けるわー、悪いわねぇ~」
オルヴィスは、そう答えるが、顔色は相当悪い。
取り合えず、水筒に水と、吐いても良いように桶でも持たせておくか。
途中、何度か吐いて昼休憩を挟んで漸くオルヴィスの二日酔いは、治まりを見せた。
午後、両側が切り立った崖となった街道に差し掛かった頃、再び灰色の魔狼の襲撃に合
逢った。
『気を付けて!上から来るよ!!』
狼姿のままのクルドが、注意を促した。
バッと、その場で臨戦体勢となる。
セフィリアをフレイヤとエディンが庇い、オルヴィスと俺が結界を張る。
「オルヴィス、キツかったらあんたはまだ休んでろ!ここは、俺一人で良いから!!」
「あらやぁね。子供に守られるほど落ちぶれちゃないわよアタシ!」
さっきまで、二日酔いでグデクデだった割りには、頑張る気で要るらしい。
「ははっ!無理はするなよ?」
「生意気ねぇ~」
視線を軽く交え、軽口を叩き合う。何だろう、凄く新鮮だった。
普段が、森の中で下僕とした魔獣とルシエラだけだから、対等でこんな風に言い合いみたいのが出来るなんて、楽しいと感じてしまう。
前衛は、サムスと俺の二匹の魔狼達。
襲ってくる灰色の魔狼は、40頭程だろうか?
それにしても、これだけ使役するとなると余程長生きな魔女か、或いは余程高い魔力を有した魔女と言うことになる。
長生きなら、下僕とした魔狼が繁殖し『一族』を、築いたのだろうし、高魔力なら一気に大量使役を行ったのだろうと推測されるからだ。
しかし、一昨日の襲撃してきた魔狼よりも今日の一団が、やや体格面で小さく、首に鎖が巻かれているのに違和感を覚えた。
「……なぁ、オルヴィス。あの首の鎖、変じゃないか?」
「そうねぇ、一昨日の一番大きい魔狼にも、鎖と飾りがついていたけど……何かきな臭さを感じるわね」
前衛では、サムス達が戦っている。
体格面で、遥かに劣る灰色の魔狼……。
ラウドやシェリスも狼姿で戦っているが、やはりと言うか……力の差が有りすぎている。
それなのに、必死に倒そうと挑み続けるのは何故か……。
――駄目だ……こんな所で死ねない……。妹達を、助けなきゃいけないのに……
耳に……心に聞こえてくるのは、ラウド達が、倒して瀕死となった黒毛の魔狼の声の様だった。
妹達を助ける――?
彼等の無謀とも言える挑戦と、この必死さ……。
……まさか、家族を人質にでも取られているとか?
それなら、彼等と争う必要など無いんじゃないのか!?
「ラウド、シェリス、殺すのは止めだ!!」
「ヴィショップ!?どうしたのよ?」
「これは、意味の無い……無益な争いだ。あの魔狼達の襲撃は、恐らく人質を取られての事だ!!」
『大地の檻』
『流水の束縛』
『炎舞の舞い』
三頭は即座に反応し拘束のための、或いは動きを封じるための魔法が発せられ、生き残った魔狼達は動きを封じられた。
「あらら~。随分と器用なものねぇ~☆」
三頭の動きの早さ、魔法の正確さに感心したオルヴィスだった。
粗方の魔狼は、動きを封じられだ所で、『声』の主――生と死とその狭間に立つ者の元に向かう。
シャランッ
望めば顕れる金の錫杖。何処からどのように、これが顕れる仕掛けなのかは、俺は知らない。
物心付いたときから、強い魔法を使いたい……そう望むときにこれは顕れる。
そして、戦いの最中必要に応じてその姿を変質させる。
錫杖の、環の付いている方を倒れた魔狼に向ける。
「生と死と、その狭間に在りし者よ……。今在る死を受け入れるか?それとも、我と供に在る道を選ぶか……定めよ。さすれば汝、輪廻の環より出でて永劫の時を歩むものなり――我が魂の潰えるその時まで……」
円環の環の契約――――
今置かれた輪廻の環から抜け出して、俺の魂が消滅するその瞬間までの生を約束されるもの……。
どういう意味なのかは、分からなかったが、翼獅子の子供達はこれで助かった。
ならば、この魔狼も助かるだろう。
回復魔法では、呼吸も止まりかけたこの段では、追いつかないから……。
――――僕は……生きたい!!
ヴィショップから発せられる白に、濃い金と虹色の光が混じった光が、瀕死となった魔狼を包み込む。
一際強く輝いたとき、魔狼の傷は癒え意識を持ち直した。
◇◇◇
意識を取り戻した、黒毛の魔狼…その首には金色の鎖と赤い宝玉とが取り付けられていた。
「これ自体が魔法を帯びているわね。下手に外そうとすれば、痛い目みるようになっているみたいねえ……」
オルヴィスの見立てでは、これは支配と監視を兼ねているようだった。
「そうなると、今のこの状況も知られているとみた方が良いのかな?……あと、これ術に干渉しても平気だと思う?」
「どうだかねぇ?何も仕掛けて来ない辺り、常に監視しているわけでは無いんでしょうねぇ~。術への干渉は、相手に気取られないためにも慎重を期す必要は在るわよね。魔力的にも格上なら可能だけど…………」
アタシもこの子も、この金の鎖の主より断然格上だけど…………。
「オルヴィス、上空に向けて幻惑掛けられる?俺は……一つ工作をしてみるよ」
ニヤリ、悪戯小僧の様な顔をして此方を見てきた。
目が爛々と輝いちゃって……まぁ、なんと言うか、良い顔してるじゃないの。
つられてこっちまで笑みが浮かんでくるわ。
「しょうがないわね、やってあげるわよ!」
オルヴィスからは、乳緑色と黒い霧とが混ざった様な魔力のオーラが立ち昇り、上空に向けて目眩ましの魔法が展開される。
ヴィショップからは、純白の魔力のオーラが湧き上がり、魔狼達の首に巻かれた監視と拘束の鎖に干渉の為の力が追加されていく。
それを見ていて、オルヴィスは、気が付いた。
――あの子、魔力の質に幾つかのパターンを持っているのね……。
今は純白の魔力……。
だけどさっきのは……?あれは何?
金と虹色の混ざり込んだ…………。
普通じゃない……魔力。
魔力の色とは、その者の質=属性を現す。
アタシは、この髪と同じ乳緑色で、本来なら白と緑……聖属性と風属性となる。
闇落ちが始まっているから、そこに闇が加わっている。
では、あの子のは?
白なら聖属性と言うことになる。そこに金が入り込む…これで光属性が確定と言うことよね。
虹色のなら……これは、私も知らないわ。
アタシ達とは、違う……全く質の違う魔力じゃないの……。
大抵、魔力の色と言うのは、一色だ。アタシは魔落ちしかけているから、黒が入っているけど…あの子のは?
知らない。私達には、理解できない……力を持っていると言うの?
白い魔力の光は、魔狼達の頚の鎖に絡み付き、そしてそこに吸い込まれていった。
これで、魔狼達に対して彼方の魔女は彼等を処断出来なくなる。
いきなり鎖が消失すれば、不審に思った彼方の魔女が、人質にしている魔狼を処断するかもしれない。
そうなることを避けるためにも、裏工作はより慎重に行うべきだ。
あの鎖の中から、彼方の魔女の魔法『監視』『拘束』だけを抜き取る。
近くの木の虚に一つの魔法空間を築き上げ、その中に魔女の魔法を封じた。
「オルヴィス、もういいよ!」
ヴィショップの掛け声と供に、掛けていた目眩ましの魔法を解除した。
◇◇◇
「さてと、あなた達の事情を詳しく聞かせてもらいましょうか?」
場所を大部移動して、再び目眩ましを掛けた中で、襲撃してきた魔狼達から話を聞き出していた。
「あのね、僕達の……お母さんと妹達が怖い魔女に捕まっちゃったの。それで、あのお姉さんを連れてくれば、返してくれるって言うから……父さんや兄さん達があなた達を襲いました……」
より詳しい話によると、首に巻かれた鎖には、監視と拘束、それ以外に支配の為の措置として、言うことを聞かないと締め付ける作用や苦痛を流し込むが在るようだった。
人質と苦痛による支配か。随分と質の悪い真似をするものだ。
しかし、先程の魔法への干渉で、ここに居る狼達は虚の中の空間に閉じ込められて居ることになる。
「そっか、ならそちらは俺の方で対処しよう。何時までもセフィリア様が襲われるような事態は、避けないと報酬に影響が出る時や無いか!」
円環の環の契約を結んだ黒い狼以外は、取り合えず解散と言うことで、時期が来るまで野に潜んでもらうことにした。
新たに黒毛の魔狼を加えての街道の移動をすることになった。
「名前……何にしようかな~」
暫く、この黒毛の顔を見るが、中々思い付かない。
「そのうち良いのが思い浮かぶんじゃない?それまで仮に黒ちゃんにでもしておけば?」
オルヴィスのアドバイスで、黒毛は、黒ちゃん(仮)に決定した。
「黒ちゃん……?何それ……」
仮名を付けられた本人は、思いっきり顔をしかめて不満げな顔をしていた。
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