第11話ライセンスの取得

 シルビア王女の突撃森訪問から、早一週間とちょっと経ったある日、王城からの来た馬車に、俺は揺られていた。


「せめて、事前に知らせぐらいくれても良かったのに……」


 ポツリと呟くと、じろりと国王カルーア付きの執事、ロベルトに睨まれてしまった。


 何だか、取っつきにくい人だなあ……。

 年の頃は、三十代中頃だろうか?グレーの髪に同色の瞳、眼鏡を掛けた真面目そうな青年だが、どう見ても俺より年下じゃん!


 …………とかって、見た目が五歳の姿で何抜かしているんだかね?


 説得力は、無いよなぁー。


 整備された道が出来、森を抜けるのが早くなったお陰で、二時間程で目的の町、ナバリに付いた。


「到着いたしました。こちらに魔法協会が御座います」


 御者の案内で、魔法協会の前に下ろされると、杖と水晶の絵が書かれた木製の板を吊り下げた黒を基調にした建物があった。


 魔法使い、占い師、魔法技工士、魔道具職人、魔術師、魔導師、魔獣使い…と、言った凡そ魔法に関連する職種の者は、魔法協会に登録する必要がある。

 登録をすると、各々の技術を星で評価される。10段階で評価され、星が多ければ多いほど、信頼性や技術力が高いと言うことになる。


 道具作りをする技工士や職人は、作ったものを売る為に、他に商品ギルドに登録も必要になる。

 星の数と現物評価を元に、買い取り額が変わるので、こちらは必死だ。

 占い師も、そう。星が多いほど信頼性が持てるのだから、この辺りの職種にとっては、本当に死活問題だったりする。


 他にも、傭兵ギルドも有る。こちらは、主に武器で戦う人たちが登録をする。

 魔法も使う人は、魔法協会への登録が推奨される。特にチームを組む時、この星認定が一つの能力保証の目安になるからだ。


 魔法も、各属性、攻撃、支援・補助、回復等に項目が別れ、それぞれ評価されているからだ。


 これを元に、チーム編成や戦闘パターンの構築を行うからだ。

 支援・補助、回復は、こなせても、攻撃が弱い場合、攻撃を得手とする魔法使いを加えたり、魔法に頼らない戦闘パターンを構築したりするからだ。


 そして、魔法協会に俺が登録をしておきたい最大の理由は……………。



 ◇◇◇




「旅券とか通行証って、どうやったら発行されるの?」


 ふとした、疑問をカルーアに訊ねてみる。


「住民票が、必要になる。ヴィショップ…お前は、住民票……無かったよな?」


 生まれが生まれなので、特にそういった登録はされていない。


「だろうね。住民票ったって、あの森の場合どの国の所属か曖昧だからね~」


 三国の国境地帯を呑み込んで存在する、西の森。元々は、センブリア公国の国境地帯にあった小さな森が始まりだが、カロンド王家とエスターナリア王家の血が俺の中には流れている。

 森も、新たな国の血が流れるに従い、その規模を拡大させていっている。


 俺が何処の国に属する者なのか………それが、凄く曖昧だ。


 なので、国籍、人種、身分に関係の無い魔法協会のライセンスは、喉から手が出る程、欲しいかな?と、思えるものだった。




 ◇◇◇





 魔法協会の中は、床は漆黒の大理石が敷かれ、木製の建具が並んだ落ち着きの有る調度に設えていた。

「新規で登録をしたいのだが……」


 受け付けの女性に、ロベルトさんが話しかけ、用紙を渡される。

「はい、新規の登録希望者様ですね?こちらの用紙にご記入下さい。………貴方が登録されるのですか?」


 魔法協会に登録をするには、些か年嵩が行きすぎていると、受付の女性は、不審に思ったようだ。


 実は、魔法協会の歴史は、まだ浅い。

 人間の中にも、魔力保有者や魔法行使と言うものが認識されるようになり、一つの分野として確立して、まだ二百年と経ってはいなかった。

 なので、明確な学舎もなく、大抵は力有る先人の魔法使いが『弟子』を取り、後身に伝えて行く伝聞指導が、現在の主流だ。

 そして、比較的早い段階…若いうちからの魔法協会への登録になる。

 その方が、正確な魔法の実戦に赴けるからだ。


 なので、窓口に現れたロベルトさんには、不信感を抱いたのだろう。


 例えば、既に別の名前でライセンス登録をしていて、某かの不備から新たに登録をしようとしているとか………。

 犯罪者の可能性が頭を過ったのだろう。


「いや、登録するのはこちらの小さい方だ」


 ロベルトさんは、カウンターの死角に居た俺を指さし、それを否定した。


 俺を覗き込んで存在を確認した受付の女性は、今度は違う驚きの声をあげた。


「こんな小さな子に登録させるんですかっ!?」


 早い段階の登録と言っても、大抵十四、五歳の登録になる。早くても、十三歳位。

 五歳と言うのは、魔法の才が認定された位の年頃になる。


 だからこそ、受付の女性は、驚いたのだ。


 小さい………体は小さくても、小さな子じゃ無いんだけどな。


 ………説明が……難しい。


「こちらを責任者の方に確認して戴いて下さい」


 ロベルトさんは、一つの書状を取りだし、受付の女性に渡した。女性は、それを受けとると直ぐ様、上役にそれを渡しに行った。


 再び戻ってきたとき、ワラワラと四、五人の集団になって、やって来た。



「西の森の魔女様でしたか!この度は、このナバリの魔法協会にお御足をお運び頂き、大変恐縮に御座います……!」


 代表者なのだろうか?見た目、五十代の厳格そうな男性が、恐縮に畏まって五歳児に礼を尽くす………異様な光景が、魔法協会のフロアに繰り広げられられていた。


 ザワザワッと、フロアのあちこちで、ざわめきが広がっていた。


『魔女だって……あの、小さいのがか?』

『え?西の森魔女だって!?………あれがそうなのか……?』


 この場で、それ以上の事を話すのは、色々問題が漏れることになるので、奥の部屋に通され、そこで書類の記入なども行う事になった。


 そして、その場に何故貴方も来ているんだ?


 カルーアよ……………。


「いや、御苦労だったね、ロベルト」


 にこにこ、カルーアが、ロベルトさんに労りの声をかける。


「いえ、自分は職務を真っ当しているだけですから……」


 堅いなー、この人。いつもこんな感じなのかな?


「さて、それでは書類の作成から始めましょうか」


 魔法協会の事務方トップ、ラナさんの掛け声で、事は進められた。

 二十代後半くらいかな?赤毛の髪の快活そうな女性だ。


「まず、ここにお名前ね?そして、こっちに年と、性別、得意な魔法の種類とかを書いていって貰えるかな?」


 ラナさんは、大人の女性らしく、見た目通りの子供に接するような態度だった。


 いや………中身はもうそれなりだから………。


 こう言う時は、なんと言うべき?

『俺は、子供じゃなーい!!』と、言っちゃったら、余計に子供だと思うんだよな。


 ……………笑って、流しますか?


 取り合えず、記入するか………。


 名前………ヴィショップ


 年齢………48歳


 性別………女


 得意な魔法………解呪、浄化、回復、補助全般、支援全般、星読み。



 そんなところだな。

 攻撃は………今の所、修練中だ。



「はい、書いたよ」


 それを見たラナさんは、プルプルと手を震わせ始めた。


「う………うっそ――!!私よりずっと年上なの!?えっ!?何でそんなに小さいの……いえ、小さいんですか!?」


 あれ?魔女の成長速度は、一般的では無いいからかな?

 基本、そんなに普通の人間と変わらないらしいけど、余りに魔力が強すぎる場合とか、制約を受ける身になると成長が極端に遅くなる。

 俺の場合は、その両方だから、更に遅い。


「色々と有るんだよ………」


 としか、答えられない。



「私より、年上……?てっきり、陛下の隠し子かと思っていました…。その、御無礼を御許しください」


 どうやら、執事のロベルトさんは、俺がカルーアの隠し子だと勘違いしていたらしい。


「はぁ!?何で俺が、弟の隠し子になるんだよ!?」


 その、爆弾発言に、その場は更なる驚愕の場に陥っていた。


 皆、驚きの声を押さえつつ、その場に居た国王カルーアに注目する。

 カルーアも、苦笑いを浮かべながら、肯定し頷いた。


「ヴィショップの言う通りだ。彼女は、なりはこんなだが、私の姉だよ」



 西の森魔女の真実………。

 先代国王の隠し子にして、現国王の異母姉であると。



 その後は、まぁ何となく、トントン拍子……と言うか、早く済ませろ!的な空気の中、事が進み、魔法協会のライセンス登録が無事に済んだ。




「こんな流れで良かったのかな?」


「仕方が無いよ。誰かさんが爆弾発言するんだから。ま、それで暫くは身の保証がつくでしょう??」


 カルーアが、肩を震わせて思いだし笑いをしている。


 それに対して、向かいに座る執事は、まだ恐縮の呈でいるようだった。



「カルーアが、黙っていたんだな。気にするな」


 俺の成長が異様に遅いのも原因だけど、カルーアがまた、紛らわしい指示のしかたしていたのだろうな………。


 ドンマイ、ロベルトさん!!









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