第51話 秘密
「僕のクリスタル・ゴーレムや、ゼクスを倒したことは内緒にしておいてくれない?」
ゼクスに止めを刺したローデリヒが、剣に付着した脂と血を拭っているときに僕はお願いした。
「どういうことだい?」
ローデリヒは剣を鞘にしまいながら、尋ねる。
「ローデリヒやアプフェル、ツィトローネがメインになって倒したって報告してほしいんだ。僕は荷物持ちくらいでいい」
「なにを言うんだ!」
ローデリヒは拳を握りしめ、気色ばんだ様子で声を荒げる。
「そうですわよ。今回はわたくしなんてほとんど役に立っておりませんわ。一番の功労者はカペル、誰が見てもあなたですわよ」
「私も、そう、思う。ゼクスを仕留めたとなれば、大手柄。誰だってラッテ君を、見直さざるを、えない」
ツィトローネが同意する。
「見直すことはないと思うな。変に妬みの対象になるだけだよ。一度評価が決まると、それを覆すのは不可能なんだ」
それはこの学園に入って、はっきりとわかった。
どんなに努力しても。
どんなに、周囲に溶け込もうとしても。
男爵という血筋は、常について回る。
アプフェルやローデリヒ、ツィトローネみたいに、僕を認めてくれるのは少数派だ。
「わかりましたわ」
アプフェルは頷いた。
ローデリヒやツィトローネはなおも言い縋るけど、アプフェルはそれを止めた。
「この中でわたくしが、一番カペルと付き合いが長いですし。あなたの意志は尊重しようと思います。あなたが目立ちたくないと考えているのなら、そうしましょう。でも、わたくしはあなたを高く評価しますわ。困ったことがありましたら、いつでも頼りなさい」
「僕もだよ、騎士の名にかけて誓う。君が艱難辛苦の只中にいるときは千里の道を超えてでも駆けつけると」
ローデリヒは剣を抜き、天に掲げて誓いの構えを取った、
「私も、生まれた国は違っても、助けたい」
泥まみれになりながらも僕に笑顔を向けてくれる三人の姿を見て、目の奥が熱くなってくる。
他のクラスメイトのことも、今までの苦労も、小さなことに思えた。
友達百人いるよりも、自分が高い位置にいることよりも。
自分を認めてくれる人がいる。それだけで……
なんだろう。この感じを示す言葉が、見つからない。
「カペル。あなた今、とても幸せそうな顔をしていましてよ」
アプフェルに言われて、気がついた。
幸せ……? あれ? ああ、そうか。これが幸せって言う感情なのか。
長い間そんな感じを味わったことがなかったから、忘れていた。
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