第42話 突進
「こっちに続いてる」
ラ―べに襲撃される前に探していたイノシシの糞を辿り、森の中を歩いていく。
風が冷たく、湿気を含んできた。一雨来るかもしれない。
獣道の両脇が藪になっており、歩くたびにズボンが草にこすれて乾いた音を立てた。
アプフェル達はスカートなので、歩くたびに白皙の足が藪に引っかかりそうになるが幸いソックス以上の高さには獣道に藪はなかった。
さっき協力して一体のマリグネを仕留めたという事実もあり、緊張感が和らいでくると自然と口が動く。話題は当然、マリグネのことになった。
「今、追っているのは、イノシシのマリグネ。ラ―べと、どっちが、強い?」
「イノシシだろうね。元からの体の大きさが違うし」
「それに、イノシシに襲われて大怪我をする事故もありますわ」
「大丈夫、かな」
あくまで警戒させるつもりで、不安にさせるつもりはなかったのだろうが、アプフェルの言葉にツィトローネは体を震わせた。再び僕の魔法服の裾を小枝の様に細い指で握ってくる。
「でも、イノシシならこちらの攻撃が届く。今度こそ僕の出番だ」
さっきはあまり活躍できなかったのを気にしているらしいローデリヒが、魔法杖として使用している剣を軽く振った。
「でもただのイノシシという可能性もあるし」
「そうなのかい?」
水を差された形になったのか、ローデリヒは素振りしていた剣を止める。
「糞だけだとマリグネとただの獣の区別はつかないから」
「それに、マリグネの方が普通の獣よりも圧倒的に数が少ないですわね」
「となると、僕たちは一頭のマリグネを狩っただけで試験終了という可能性もあるわけか」
落胆したような様子を見せるが、僕はすかさず話をつないだ。
「一頭狩れただけでも十分だよ。先生たちなら、ローデリヒやアプフェルの魔法とラ―べとは相性が悪いってわかるはず。その点も加味して、採点してくれると思うよ」
そう言うと、みんなの表情が少し明るくなった。同時に無理をしてでもマリグネを狩ろうという雰囲気が少し和らぐ。
アプフェルとローデリヒの参加している班だから点数に色をつけてくれるはず、というのが本当だけどそこまで言う必要もない。
僕の点だけが男爵という理由で低くなっているだろうけど、留年さえしなければいい。
命がかかっている状況で、欲をかくと碌なことがない。命がかかってない状況でも同じだけど。
「でも、油断大敵だよ。なにせ、イノシシのマリグネは」
ふと、近くの茂みが風が吹くタイミングでもないのに、音を立てた。
今度はラ―べに奇襲された時と違って、反応が早かった。
全員が音のした方向に魔法杖を向け、臨戦態勢を取る。
周囲の空気が既に冷たくなっているところからすると、アプフェルが魔力を練り始めているのだろう。
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