第28話 冷めたスープ
ロルフとライナーは班決めが終わった後、食堂で僕にからんできた。僕は食堂では常に一人で食べているので、彼らにすぐに見つけられてしまう。
「いたぜ」
「ああ」
彼らと目が合っただけで嫌な気分になる。
だけど彼らが僕の方へ向かってくるのを見るとさらに嫌な気分になった。
まだ食事中なのにもかかわらず、僕の後ろに立ったロルフは僕の肩に腕をまわしてくる。
スプーンを急いでスープの入っている皿の中に戻した。ほのかに湯気の立つスープが数滴飛び散って、マホガニーの机に小さな染みを作る。
体に腕を回され、不快感と恐怖感が全身を襲う。
ロルフがまず口火を切った。
「お前、アプフェルとどうやって仲良くなった?」
仲良く?
「今日、アプフェルに同じ班に誘われたじゃねえか。俺らですら駄目だったのに、一体どんな手を使いやがった?」
「……知らないよ。アプフェルに聞いてみたら?」
「アプフェルが話すわけねえだろうが、あのお高くとまったお嬢様がよ」
お高く、って…… アプフェルは意外と素直なところもあるのに、そんな印象しか抱いていないのか。
彼らが知らないアプフェルの一面を僕は知っていることに、少しだけ優越感を覚えた。劣等感しか感じていなかったから、優越感なんて久しぶりだ。
「それに席が隣で、時々話してるじゃねえか。初めて同席した時は平手打ち喰らわされたのに、いいご身分だな、ああ」
次はライナーが肉でたるんだ腕を首に回しながら、凄んでくる。
よけようとかと思ったけど、さらに面倒なことになりそうなのであきらめた。
話す…… ああ、パーティーの時アプフェルに近寄ろうとしてもことごとく止められた、って言ってたな。それで僕を妬んでるわけか。
「席が隣だから、っていうだけじゃない?」
僕の返事にはさして興味がなかったのか、ライナーが話題を移す。
「そんなことはどうでもいいんだよ、それよりどうやって仲良くなったか、教えろや」
「どうって言われても……」
ズィーベンから救ったことを言うわけにもいかない。
「しらばっくれるな、何かなきゃ、アプフェルが貴様ごときを誘って来るなんざ、ありえねえ」
ライナーが僕の脇腹を肘で小突いてくる。
「それにアプフェルだけじゃなく、いい女つれてたじゃねえか」
いい女?
「とぼけてんじゃねえ、あのパン屋の端女だ」
パン屋の端女? ああ、キルシェのことか。
それにしてもチャラい男はどうして女子を自分の物扱いするんだろうか。聞いてて不快になる。
「そうだね」
僕は適当にあしらう。
「あれは元々、俺らが目つけてた女なんだぞ」
「……そうなんだ」
もう会話するのが苦痛になってきた。しかしそんな態度は、彼らの怒りを買ってしまった。
「なんだ、その舐めた態度は、アア?」
僕の首を更に強く締めてくる。苦しくて、怖い。
それと同時にむかつく。
ものすごく腹が立ってきた。
なんでこんな奴らにいいようにされなくちゃいけない?
なんで僕がこんな目に合わないといけない?
なんで、こんな最低の奴らにアプフェルやキルシェが厭らしい目で見られないといけない?
周囲の生徒たちは僕を遠巻きに見るだけで、誰も助けたり止めに入ろうとはしてくれない。
だが天使の降臨を告げ知らせるような音が、学園内の教会の尖塔から聞こえてくる。予鈴の鐘の音にロルフとライナーは舌打ちし、僕の体から手を離した。
湯気の立っていたスープは、もう冷めてしまっていた。
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