第13話 体育魔法祭
体育魔法祭。それはミュンヘン国立魔法学園では年に一度、秋に開催される大規模なお祭りだ。
学園の施設の一つである大規模な運動場には大勢の生徒と観客が集められ、開催の合図を今か今かと待ちわびている。
このミュンヘンの町があるヴァイエルンという国は、かつてはローム聖国という大陸で最も巨大な国の一部だったが、宗教の対立で三十年もの間戦場になるなど荒廃した。
その後各国の間で講和条約が結ばれた後いくつかの小国に分裂し、このヴァイエルンという国もそのうちの一つというわけだ。
終戦から七十年が経過しその後戦禍に巻き込まれることはなかったため、かつては兵器として発達した魔法も、農工業や芸術の分野で活用されることが多くなっている。
ローデリヒの様な騎士の家系はあるし、軍は残っているが武威を誇るというよりも身分やステータスの象徴としての意味合いが大きくなった。
体育魔法祭もそういった国策を反映し、魔法と体術を併用した競技や様々な催しが開かれ、平民に対し一般開放までされる出し物のような感じになっている。
だが生徒にとっては普段の勉学と訓練の成果を披露する場所でもあると同時に、賓客として様々な貴族や就職先の人事担当官も招かれるため、自身をアピールする絶好の場ともなっている。
僕が就職先として狙っているのは、ゴーレムを使った荷物運搬の商会だ。
そんなに大規模な商会でもないけれど堅実な経営方針のため大赤字や経営困難に陥ったこともないそうで、なかなか理想的な職場だと思う。
父上の商会の支社の一つでもあるから就職試験で落とされることはないと思うけど、親の七光りで入ったと思われたら職場でいじめられるだろう。パワハラにはあいたくないし、この大会で商会に入っても問題ないと思われるくらいの魔法を見せないとな。
会場の中央、競技場に集合した生徒たちは制服から魔法を行使する際の衣服である「魔法服」に着替え、ストレッチをしたりおしゃべりに興じたりしている。魔法服とは魔法や物理攻撃に対する防御力を高めた服のことで、魔法実習の際には必ず着用することになっている。男子はスラックスタイプのズボンに上着、女子はスカートに男子と同様のデザインの上着だ。
布地には魔力を込めた糸が使用されており、この糸が魔力や物理的な衝撃に対する緩衝材となっている。
魔法服を生産するメーカーも就職先の一つで、裁縫部から就職する生徒が多いと聞く。
ほとんどの生徒が魔法服に着替えているのに対し、スヴェンや数名の生徒は制服のままで左腕に『実行委員』と書かれた腕章をつけていた。
学生の催しとはいえ、体育魔法祭では多くの生徒が出し物をするため進行が滞らないようにするためのプログラムの順番、会場の設営にかかわる生徒の選出や管理、学外から貴賓や卒業生を呼ぶために彼らの案内状作成、店舗との契約など多くの人と金が動く。
ある意味でこれは学校という単位での政治・経済活動であるため、学生の中でも将来行政に携わる予定の生徒は将来への予行演習としてこの体育魔法祭の実行委員を行なうのだ。
この体育魔法祭の成功如何が将来の出世の一つの条件となるらしく、何十年か前に適当に行なった生徒がそれなりの家柄にもかかわらず中央の行政職に就けなかった話は有名だ。
やがて時間が来ると生徒たちはクラスごとに整列し、学園長が壇上に昇って型どおりの挨拶を行なう。
魔法での花火が打ち上げられ、会場のボルテージが嫌が応にも高まる。
いよいよ、開始だ。
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