第50話 結果発表

「では試験の結果を発表する。例年通り、上位三組のみの発表とする」

 クラスメイトの顔に緊張が走っているというのに、エルンスト先生がいつも通り淡々と結果発表をしていく。何人かはびくりと、弾かれたように体を緊張で震わせていた。この試験の結果次第で将来の出世に大きく変わる家柄の子たちもいるのだ。

 先生の足元には三つの木箱が置かれており、そのうちの一つを拾い上げた。

「三位、三班。マリグネ・ケルンは十個」

 三位はロルフたちの班か。エルンスト先生が木箱に入れたマリグネ・ケルンを見せる。そこには小さめのマリグネ・ケルンが十個入っていた。

 ぱちぱちと、拍手が起きる。

 でも探知系の魔法の使い手がないのに、どうやったのだろうと疑問に思っていると聞かれてもいないのに彼の方から応えてくれた。

「片端から撃ちまくってやったぜ! その分マリグネじゃねえ動物の方が多く狩れちまったけどな」

 よく見ると、ロルフたちの班が向かった先から細い煙が幾条も立ち込め、風向きによっては焦げくさいにおいがする。

 小難しいことはせずに、無理やりに火力で押しつぶした感じか。女子に対する扱いといい、ロルフたちらしい。同じ班のギャル系女子、ラ―レとラウラはピースをしたり、投げキッスをして自慢していた。

「次、二位。二班。マリグネ・ケルン七個」

 さっきよりも喝采が激しく巻き起こる。

 爵位の高いスヴェンが属するだけあって、すぐに拍手を送らないとまずいと考えているクラスメイトが多いのだろう。

 だがそれに見合うだけのマリグネ・ケルンだ。

エルンスト先生が木箱を開けると、ロルフたちに比べ数は少ないものの、大きめのマリグネ・ケルンが入っていた。

 探知系のスヴェンがいるので、効率よく大物を狩れたのだろう。

「次、一位」

 クラスメイト達が水を打ったように静まり返った。

 肌を撫でる湖からの冷たい風だけが、この場の音のすべてになる。

「一班だ」

 今までで一番大きな拍手が場の静寂を打ち破り、 アプフェルとローデリヒに大きな声援が投げかけられた。

「マリグネ・ケルンは二個だ」

 だがこの一言で場は静まり返る。さっきまでの緊張感とはうって変わって、嫌な空気が流れる。

 嫌な、というより敵意に満ちたような空気。

「ずるしたんじゃね?」

「あの男爵風情が」

 静寂の中から一言、二言呟きが漏れると、あっという間に広がっていく。

 その中身はすべて僕への悪口だ。

 本来は嘘だ、ひいきだと言いたいのだろうがスクールカースト上位にそれを言うわけにもいかない。だから僕にその怨嗟がぶつけられる。

 結構傷つくけど、もう慣れているしなんとか耐えられる。

 というか、なぜ一位なのかが不思議だ。僕たちの班は二個しかゲットしていないのに。

「静かに!」

 エルンスト先生が珍しく、強い口調で場を鎮めた。

「中に、ツィファー(ziffer)のマリグネ・ケルンが入っている」

 再び、場が静まり返った。

「アプフェル様たちの班が、ツィファーを仕留めたのですか?」

 誰かが漏らしたその声に対し、エルンスト先生はいつもと変わらない口調で答えた。

「これが、その証だ」

 先生が掲げたマリグネ・ケルン。

 それは通常の物と違い、闇が輝くような黒さ。

 黒く輝くマリグネ・ケルンこそがツィファーを仕留めたという証。

 スヴェンの時とは比べ物にならない、歓声が場を包んだ。

「さすがです、アプフェル様!」

「ローデリヒ様、その時の活躍をぜひお聞きしたいです!」

 アプフェルとローデリヒは結果発表の時間だというのにクラスメイト達に囲まれ、質問攻めにされている。

 ツィトローネや僕は、完全に蚊帳の外だ。

 でもこれでいい。馬鹿にされたり非難されるのに比べれば、この空間はもはや天国だ。ツィトローネと目が合うと、彼女も僕と同じように感じたのか儚い笑いを返してくれる。

 そんな小さなやりとりに、すごく大きなシンパシーを感じた。

 アプフェルやローデリヒ達がゼクスを倒した時のことについてクラスメイトに色々と話してくれているけれど、僕がクリスタル・ゴーレムを作った時のことは話題に出していないのが聞こえる。

 良かった。打ち合わせ通りにやってくれてるみたいだ。

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