第49話 ひどい顔
キャンプ地集合時と同じように、エルンスト先生が湖を背に前に立ち、八つの班が列になって並んでいる。幸い全部の班が時間通りに帰って来られたらしい。
集合地に帰還した後、マリグネ・ケルンを先生に渡して数や質、それ以外の減点項目や加点項目を加味して総合点を割り出す。結果発表をみんな、今か今かと待ちわびていた。
出発時には太陽が完全に隠れるほど曇っていた空。今は雲の隙間から差し込む紅い光が、湖の一部を照らしている。
列になって並んではいるが、出発前と違って皆疲労困憊という感じだ。
自分だけは大丈夫、みたいな顔をしていたクラスメイトは何人か夕日の中でもわかるほどに顔を青くしたり、座りこんで震えている人もいる。
学園常駐のカウンセリングや相談員が後でフォローするだろうけど、見ていて痛々しい。僕をいつも馬鹿にしている奴らだけれど、さすがに今ばかりはざまあみろ、という気分にはならない。
一歩間違えれば僕がああなっていた可能性の方が高いのだから。前回や今回はイェーガ―侯爵や、アプフェル、ローデリヒ、ツィトローネといった頼りになる人たちが助けてくれたから僕は無事なだけ。
精神症状が重篤な生徒に対しては、カウンセリングを定期的に行なったり、マリグネに対しもっと大人数で対抗し、圧倒する経験を積ませることで恐怖心を取り除くプログラムを行なうそうだ。
なぜ大事な貴族の子弟にこんな危険なことをやらせるのかと思ったが、修羅場を経験させることで平民になめられない度胸をつけさせる目的もあるらしい。
西方のウエストラントや東方のオストラントという国では革命というものが起こって貴族の多くが殺されたそうで、多くの国が統治に苦心している。ツィトローネの領地があるポーレンはオストラントと国境を接していた。
中には探知系の魔法を使えるのに、一つもマリグネ・ケルンを持ちかえれなかった班もある。アプフェルやローデリヒから聞いた話では、マリグネの奇襲攻撃に狼狽して統率がとれなくなり、各自バラバラに攻撃して普段の練習が全然活かされなかった班、戦うことすらなく逃走した班すらあるそうだ。
さすがにスヴェンの班はそんなことはなかったらしいが、リーダーであるスヴェンの様子からするに楽な狩りではなかったようだ。スヴェンも、親友であるローデリヒにすら今回の狩りの様子は語りたがらなかったという。
いつも僕を馬鹿にする連中が授業でミスしたとか、そんな場合には日ごろのうっぷんを込めて心の中で彼らを馬鹿にし返す。口に出したらどんな目にあわされるかわからないし。
でも今回はさすがにそんな気にはなれなかった。
誰だって実戦は怖い。人間同士の剣術試合でさえ怖いのに、命の危険すらあるマリグネ相手ではなおさらだろう。ローデリヒでさえ、ラ―べと初めて対峙した時は一瞬対応が遅れた。
アプフェルは、ズィーベンと戦った際に粗相をした。
ツィトローネは一見大分落ちついてはいたけど、震えていた。
僕は…… 自分のことだと、無我夢中でわからないけど。きっとひどい顔をしていたに違いない。
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