第45話 数字

 今目の前にいるゼクス、以前出会ったヒグマのマリグネ、ズィーベン。

 マリグネの中でも特に強力な力を持つ個体は数の名を冠しており、ツィファー(ziffer)と呼ばれている。

 通常のマリグネと違い魔法を操る個体であるため学生に仕留められるものではなく、成人した強力な魔法使いが対処に当たるのが常識となっている。

「各貴族家が、危険なマリグネは、掃討したはずじゃ」

「しょうがないよ。ゼクスなんて、百年マリグネ討伐に関わっても目にしないって言われるくらいのレアなマリグネだから。イノシシを見ても、ゼクスなんて思いもしなかったんだと思う」

イノシシのマリグネがゼクスだったなんて。考えが甘かった。

ズィーベンの時も、ラ―べの時もなんとかなったから、今回もなんとかなるだろうって楽観的に考えていた。

男爵家で落ちこぼれの僕は、学園内で家柄だけじゃなくて運までも最悪らしい。

ゼクスが再び咆哮する。さっきよりも気味悪く、恐ろしく感じた。

 同時に纏っていた白い雷が連なり、一条の電撃となって僕たちに向かってくる。

「ストーン・ゴーレム、僕たちを護れ!」

 ストーン・ゴーレムがその黒っぽい体を盾として、迫りくる白い雷を防ぐ。

 岩の壁の後ろにいても、余熱が伝わってくる。轟音が空気を振るわせて僕たちの肌を振動させる。

 だがストーン・ゴーレムの後ろにいた僕たちは無事だった。

「ズィーベンの時は、距離があっても溶けるどころか蒸発した部位さえあったのに」

 どうやら、ゼクスの白い雷はアプフェルの父のアメジスト・ライトニングほどの威力はないらしい。

 ゴーレムの盾に護られたことに、アプフェル達みんなが安心したのを感じる。

 みんなに勇気づけられて、僕は再度命じる。

「突撃しろ!」

 だが僕の命令に反し、ストーン・ゴーレムは微動だにしなかった。

「突撃だ! 突っ込め! ゼクスを踏みつぶせ!」

 だが、ストーン・ゴーレムは何度命令しても動かなかった。

 ストーン・ゴーレムの巨体に視界が遮られ、前の状況がわからない。焦りが生じてくるのが、魔法杖を振るうぎこちない手の動きに現れていた。

 僕は危険を感じながらも状況を確認するためにゆっくりとストーン・ゴーレムの横にまわりこむと、 信じられない、いや信じたくない光景がそこにあった。

 無事だったのは僕たちの側だけで、白い雷が直撃した前面は黒焦げになり、端は岩が溶けて変形していた。

 ゼクスは続けて畳みかけてくることもなく、僕たちを威嚇するように、嘲笑うように一鳴きした。

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