第24話 そうしよう

 翌日は振り替え休日ということもなく、いつもどおりに授業が行われる。廊下を歩いていると昨日の体育魔法際とダンスの話題で持ちきりだった。

 体育魔法際での活躍話に花が咲き、ダンスに関しては誰それとのダンスが良かったとか、ドレスが良かったとか、タキシード姿が格好良かったとか、そういった話がそこかしこから聞こえてくる。

 その中でも話題の中心はやはり、男子ではローデリヒだった。

 彼が見せた剣術の冴え、一抱えほどもある大木を真っ二つにしたときの興奮、試合後のアルベルト先輩との紳士的な態度など話題に事欠かない。

 女子の中には彼の話をしているだけで指を組んで虚空を見つめ、夢見心地になっている子さえいた。

 一方女子の話題の中心はやはりアプフェルで、彼女の氷魔法やドレス姿が話題に上っている。

「あの氷のドラゴン…… 美しかったです」

「同じ魔法使いとは思えないくらい!」

「やばくない?」

「それにドレスもすごくお綺麗で、おとぎの国から飛び出してきたみたいで」

「どこの職人に仕立ててもらったんだろう? 私たちとはまるで別物って感じだったよ」

「マジ紹介してほし~」

 女子の話題に昇るのはいいけれど、ロルフやライナーの話題が気になった。

「あのドレス、マジやばい」

「ああ、背中なんかむき出しでよ。誘ってんじゃねえかって思うくらいだったぜ」

「俺何度も触ろうとしたんだけどよ、使用人がさりげなく間に入って邪魔しやがった」

 アプフェルを食い物にするような感じの話で、聞いててすごく嫌な気分になり、僕は足早にその場を後にした。



 教室の扉を開けて、影のように静かに中に入る。

 教卓を中央にして席が階段状になった教室からは、入り口の様子がどの席からもよく見える。僕の姿を認めたクラスメイト達は一瞥すると、地に落ちた虫の死骸程度の注意しか向けず、すぐに雑談や自習に戻った。

 クラスでの僕の扱いなんてこんなものだ。

 ぼっちの僕は教室の自分の席にカバンを置き、腰を下ろす。

 すでに着席していたアプフェルと眼が合った。

 学園の制服に身を包んだアプフェルの姿に、昨晩のドレス姿が重なる。銀月の光を浴びて輝く髪、汗、僕にかけてくれた言葉。

 その後の粗相と、涙。

 その一つ一つがはっきりと思い出される。

 アプフェルと目があった。

「……っ、ごきげんよう、カペル」

 少しだけ間があったけど、僕と目を合わせる時間が前よりも少ないけれど、俯いた時にブロンドの髪の隙間から見える真っ白なうなじに今日は赤みが差しているけど、それ以外は特に変わった様子はない。

 ダンスの時にも思ったけど、彼女は昨日のことをなかったようにして振舞おうとしているのかもしれない。

 それなら、僕もそうしよう。

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