第31話 卑屈
「手伝おうか?」
足音の主は、ローデリヒだった。
僕の返事も聞かずに立てかけてあった鉈を取ると、いくつかある切り株に薪を載せて、割り始める。
その腰の入れ方、腕力ともに僕の比ではなく僕が数回鉈を打ち込んでやっと割っていた薪をわずか一、二回で割ってしまう。
しかも十本、二十本と割ってもペースが衰えない。
「カービング・ソード」
更に切れ味を強化する魔法まで使い始めたが、切り株ごと断ち割ってしまったので魔法を解除して続けた。
僕がやり残した薪割りをまたたく間に終えると、僕の隣の切り株に腰を下ろした。制服の上からでもわかる太い二の腕に、軽く引け目を感じる。
「気にしないでいい。薪割りは剣の修行の一環としてやっていた時もあったからね」
そうは言っても気にする。なんでさっきまで僕に当然のように命令していたのに、急に一緒になってやりだすのだろうか?
何か裏があってのことなのか?
あまり人間関係でいい思いをしたことがないので、つい邪推してしまう。そんな僕の視線をローデリヒはどのように受け取ったかはわからないけれど、空を仰いで呟いた。
「君の泥のゴーレムがあっという間に薪を集めたのが凄くてね。変な言い方だが、少し悔しくなったのさ。君があれだけのゴーレムを作れるとは意外だったよ。なぜ体育魔法祭では作らなかったんだい?」
ローデリヒの質問に、正直に答えるつもりはなかった。
僕を当然のように召使みたいに扱ったし、信頼しきれない人間に心の内を見せる気はない。しかしローデリヒのようにスクールカーストでも爵位でも上にいる人間の心証を悪くしても厄介だ。ある程度は手の内を明かしておく必要があるだろう。
「マッド・ゴーレムは巨大な物が作りやすいけど、その分脆いからね。薪みたいに軽くてかさばる物を運ばせるには向いているけど、体育魔法祭の時みたいに硬い木材みたいな密度の高いものを運ぶのは不向きなんだ。だから召喚しなかったんだよ」
本来はマッド、の名の通り泥のゴーレムだから水分を含んでいない土では創造しにくいのも理由なんだけど、そこまでいう必要もないしね。それにこの湖のマナがいい感じだったのも巨大なマッド・ゴーレムを作れた要因だろう。
「なるほど。君のことを少々侮っていたようだ。騎士の名にかけて、謝罪する」
そう言うとローデリヒは腰を追って深く頭を下げた。
「そんな、謝る必要なんかないよ」
僕は慌ててローデリヒを止める。
彼が僕に頭を下げてきたのは少し胸がスカッとしたけれど、伯爵家という僕より遥かに高い家柄の彼が、男爵の僕に頭を下げているところを誰かに見られたら厄介事の予感しかしない。
「いや」
彼は頭を上げる。
「そのようなことはない。カペル・フォン・ラッテ君。無礼な態度を取ってしまった。今までも、今日も。謝罪させてくれ」
再び謝罪の言葉を口にし、僕の目をを真っ向から見据えてくる。
騎士の家柄というにぴったりな、真っ直ぐな視線。
今まで散々馬鹿にされてきたり、からかわれたり、いじりという名のいじめを受けてきたからなんとなくわかる。
ローデリヒは、良くも悪くも真っ正直な性格なのだろう。
だから召使としか見ていない相手には何の疑問もなくそういう態度を取るけれど、自分が認めた相手には、頭を下げる。
他のクラスメイトより、多少は信頼できそうだ。
「わかった。僕の方こそ卑屈な態度でごめん」
そういって彼が差しだしてきた手を握り返した。
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