第30話 マッドゴーレム2
樫の魔法杖を湖近くの地面に向かって一振りすると、湿気を含んだ黒っぽい土が盛り上がっていく。
初め三角形の砂山の様な形をしていたそれは徐々に塊から四本の棒の様なものが伸び、二本は地面に付きもう二本は五本の指が生える。人間で言う肩の間が盛り上がり、頭部を形作っていく。
顔がない人の様な形をした、ゴーレムの完成だ。
ゴーレムは声は出さないけど、主人である僕に向かって両手を振り上げ、誕生の喜びを示すような仕草をした。こんな反応を示してもらえると、ゴーレム使い冥利に尽きるというものだ。
体育魔法祭のアース・ゴーレムより巨大なマッド・ゴーレムを生み出したので、クラスメイト達が少し驚いた顔をしている。
アース・ゴーレムはせいぜい僕の背丈ほどしかないが、マッド・ゴーレムはその倍くらいの背丈があり、腕も足も太い。マッド・ゴーレムの近くにいたクラスメイト達の顔色が少し青くなっていた気がしたのは、ゴーレムの影に彼らの顔と体がすっぽり覆われてしまったせいばかりではないだろう。
そのビビった顔をみると、少しだけ見返してやった言う気分になった。
少し離れたところにいたアプフェルも青くなったクラスメイト達を見て溜飲を下げている。
ローデリヒはビビってはいなかった。さすがに騎士の家系というべきか。でもマッド・ゴーレムを見上げながら感心したように何度か頷いており、ローデリヒほどの人物が感心したということに嬉しさがこみ上げてくる。
早速仕事に取り掛かろう。
僕はマッド・ゴーレムに命じて湖側の森の中に落ちている倒木や枯れ枝を拾い集めていく。
最近、雨が降っていなかったせいか乾燥している木々が多く、これならキャンプファイアーは問題なく行なえるだろう。
ただ、泥からできているマッド・ゴーレムが薪を持つと湿ってしまうため、細い薪の何本かは使えなくなりそうだ。
マッド・ゴーレムはその巨大さのため作業はスムーズに進み、太陽がまだ高いうちに十分な量の薪を集め終わったので湖の側、キャンプファイアーを行なうと言っていた場所に集積しておく。
大きすぎる薪は備え付けの鉈を借りて薪割りを行なっていくが、これが結構な重労働だった。ゴーレムには操作が細かすぎて不可能なため、僕が割っていくしかない。
台となる切り株の上に太い薪を置き、鉈を食いこませて割る、それを数十回も繰り返すと手にマメができてきた。
僕は鉈を持つ手を止めて、切り株に腰かけて一休みする。
割った薪を一時的に補完する薪小屋を眺める。雨よけの屋根と風が吹きやすい方向にのみ壁が取り付けられており、そこに元からあった形と大きさが統一された薪の束と、僕とゴーレムで作った不格好で不ぞろいな薪の束が同列に並んでいるのは妙な感じがした。
汗が垂れる頬に、湖からの涼しい風が心地いい。
しかし昼よりも湿り気が若干多い。風が涼しいというより冷たい感じがするし、風の吹きつける方向が変わってきた。明日は天気が崩れるかもしれないな。
そんなことを考えながら、まだまだある薪割りしなければならない薪の山を眺めていると、足音が近づいてくるのが聞こえた。
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