第33話 離れた
すっかり日は落ちて、炎が周囲を照らしているとはいえ影になっている部分は真っ暗だ。足元すらほぼ見えない。
昼間の記憶と足元から伝わる感触を丁寧に擦り合わせながら慎重に歩を進め、キャンプファイアーから離れて、薪を積み上げていた場所まで来た。
少し開けた場所になっているので微かな星と月明かりで照らされ、夜でも辛うじて視界が効く。
僕は薪を割るのに使った切り株に腰を下ろすと、夜のせいか冷たくなった切り株からひんやりとした感触が伝わってきた。そして木々の隙間から見えるキャンプファイアーの火を鑑賞する。
近くでは火の粉が散って、騒ぐクラスメイト達が鬱陶しいけれど遠くから眺める分には悪くない。黒い夜の森を茜色の光で照らしだしているその光景は、幻想的でどこかこの世とは別の空間の様な気さえする。
そう考えるとクラスメイトが騒ぐのも当然なのだろうか。
僕が遠目に炎を見てその幻想的な美しさに浸るように、彼らも幻想的な空間に自分たちを浸らせて楽しんでいるのだろうか。
アプフェルも、炎を見つめながらいつもよりリラックスして笑っている感じだ。ああいう光景が見られるのなら、集団でキャンプファイアーも悪くないのかもしれない。
そう思っていると、誰かがこちらに近づいてくるのが足音でわかった。
濃紺の空の下に広がる暗闇に、土を踏みしめる音が遠くの喧騒に混じって聞こえてくる。
月明かりでもそれとわかる、ミルク色の月光を照らし返すアッシュブロンドの髪。肩口で綺麗に切りそろえられたそれは、微かなそよ風を受けて流麗になびく。
「ラッテ、君?」
声の主は、ツィトローネだった。
「座っても、いい?」
僕は軽く頷いて答える。
彼女とはあまり話したことはないけれど、遠目に見ている限り苦手なタイプというわけでもない。
彼女も僕が座っている物とは別の切り株に腰を下ろす。僕の斜め前当たりの切り株に座ると、身長差のためか切り株の高さは変わらないのに僕が彼女を自然と見下ろすような形になった。
「姿が、見えないと思ってたら、こんなところに来てたんだ」
こうして少し長く話すとわかったけど、彼女は一句一句丁寧に区切って話す癖がある。ポーレンは少し言葉が違うらしいし、発音に注意しているせいかもしれない。
「うん。男爵風情の僕には、あの華々しい雰囲気は似合わないし。それにちょっと、ああいうのは苦手で」
前半の建前の後、後半に本音が思いもかけず口をついて出る。
あまり話してもいないクラスメイトにこうして本音を明かしたのが自分でも不思議だった。ツィトローネの持つ静かな雰囲気のせいかもしれない。
僕の返答に彼女は安心したように、口元をほんの少しだけ緩める。よく注意していないと気がつかないほどの、わずかな表情の変化だった。
「私も、こういうの苦手で。だから離れた」
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