第47話 新しいゴーレム

 ゼクスの牙先に収束していた白い火花が僕に向かって真っすぐに伸びていく。

 幸いゴーレムの創造は成功したので、それを盾にする。

 僕の創ったゴーレムが雷撃に包まれ、あまりの眩しさに目を開けていられなくなった。

 先ほどと同じく、轟音が肌を振るわせ、熱の余波が肌を焼く。

「あ……」

 背後のアプフェル達が恐る恐る、といった感じで目を開けるのがゴーレムに映って見えた。

 だがゴーレムは、多少ひびが入っているものの、大きな損傷なくそこに立っていた。

 足元の地面は所々黒焦げになったり石が溶けているが。

 魔力が通っているのもちゃんと感じるし、今の一撃でも耐えられたらしい。

 僕は高く掲げた魔法杖を振り下ろし、ゴーレムに命じた。

「突撃」

 ゴーレムは一歩ごとに地を揺らしながら…… いや、揺れない。ストーン・ゴーレムに比べると大分質量が軽いようだ。

だがその分速い足取りで、ゼクスに向かって駆けていく。

 ゼクスは雷撃が通じないことに焦ったのか、距離を取るように後ずさったり、横に移動する。鈍重なゴーレムでは捕まえるのは難しいだろうが、木々がゼクスの動きを邪魔してくれた。

 ゼクスを大樹の前に追い詰める。ゴーレムの影が、ゼクスとその背後の木の色を黒くする。

 ゼクスは追い詰められ、文字通り猪突猛進にゴーレムに体当たりした。口元から突き出た牙をゴーレムの足に突き立てる。

 だが多少後ろにずれたものの、ゴーレムはゼクスを止めた。質量が軽くなったとはいえそれくらいのパワーはあるらしい。

ゼクスの牙もゴーレムの足に引っ掻いたような白い傷跡を残しただけで、ゴーレムの操作に支障はない。

「捕獲しろ」

 ゴーレムはゼクスの背中から腕を回し、持ちあげる。

 地面から足が離れ、踏ん張る支点がなくなったゼクスはじたばたともがく。

「ローデリヒ! 止めを」

 固唾をのんで戦いを見守っていたローデリヒに告げると、彼は目が覚めたように剣を構え直す。だがゼクスに近付くのをためらっていた。

「しかし、また雷撃が来ないか?」

「心配ない。どうやら、一度牙に白い火花を集める必要がある以上前にしか放てない。 ゴーレムが抱きかかえているから、後ろから切れば止めがさせるはず」

 剣を構えるローデリヒを見ながら僕は自嘲した。

 僕の魔法は欠陥だらけだ。突撃も雷撃も止めることができるのに、とどめ一つさせはしない。

 あれだけ大見栄を切ったのに、倒すっていったのに、結局大事なところは他人に任せるしかない。これだから僕は落ちこぼれの男爵なのだろう。

「絶妙剣!」

 ローデリヒの魔法でゼクスは尻から頭蓋骨まで真っ二つに裂かれ、断面から血が飛び散る。ゴーレムにも血しぶきがかかっていくのが、ゴーレムを後ろから操作していた僕にも見える。

 さっきまでゴーレム越しに向かい側の光景がぼやけて見えていたのに、もうゴーレムが血に染まり見えなくなった。

 雷撃を通さず、前の風景が透けて見えるゴーレム。

 ポケットの中の水晶を触媒に作り上げた新しいゴーレム。

 それが僕が今回作ったゴーレム、「クリスタル・ゴーレム」。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る