第四十二話 時間旅行戦 その4

 距離が確定すると。

 さて。

 どうしようもないということが分かる。

 例えば、話した少し前からであれば話さないという選択をとることで、この時間旅行の無限ループから抜け出すことができる。しかし、そのような条件ではないので考えても意味がない。

 結局のところ、僕たちが行わなければいけないのは。

 手下を殺さないこと。

 手下に死なれないこと。

 この二つである。

 手下を殺さないことは当然、僕らが手を下さなければいいということなので回避ができる。

 問題は死なれないこと、この部分である。

 死なれるかどうか、というのはまず手下の意思によるものであるし回避が難しい。交渉が上手くいかない場合に自殺をされてしまった場合は、自殺によって戻されるためそもそも交渉自体がなかった未来へと回避する必要がある。ただ、ここにも大きな問題がある。

 交渉自体が起きない未来というのは、すなわち稼働しているはずのエレベーターに誰も乗っていない状態を作る必要があるということである。

 手下がこの能力が発動しているのかどうかを感知できない時点で、視界に入りさえしなければ交渉が始まったと認識できるわけもない。

 当たり前のことだが。

 けれども、である。

 そうなると、無人のエレベーターを手下に見せることになる。

 さすがに、気が付くのではないか。

 自分の能力の射程距離内に入り、交渉自体を起こさないようにするために相手が気づかれないようにしている、ということくらいは察するのではないか。

 そうなれば。

 交渉失敗という事態にならなくとも、自殺をすることで時間を戻そうとすることが考えられる。

 もう百回近くは時間が戻っている。

 回数制限はないと考えるべきだ。

 幾らでも自殺してくることは間違いない。

「エレベーターの外にはなんとか出られるんですがね。」

「なんで、外に出るんだよ。」

「別に。」

 何度も何度も説明するのに疲れたので、不良のことは必要がない限り放置している。

 そこで、ふと思う。

 僕だけが記憶を維持し続けている意味である。

「時間が進まないからか。」

 というか、当たり前のことだった。

 そもそも、この能力は相手が時間が進んでいないことを自覚することにより、交渉の場に引きずりこむことを目的としている。

 別に、僕が特別な能力でこの時間旅行の効力をはねのけている訳ではないのだ。

 別に。

 その。

 何か嬉しかったということではないのだが、なんとなくがっかりした。

 ただ、がっかりしただけである。

 特に意味はない。

「時間を巻き戻す能力というのには、どんなイメージがありますか。」

「なんだよ、急に。時間を巻き戻す能力か。ロードローラー的じゃねぇの。」

「いえ、海面にやっと出てきたのに無理やり海中に引きずり込まれる的なものです。」

「あれ、面白いよな。」

「次の部の方が好きですね。個人的には。」

 決定的なことが一つ。

 あの手下を。

 僕らは殺せない。

 というか、殺すことで巻き戻るのだから、意味がない。

「最終手段に出ましょう。」

「なんだよ。」

「今、僕らはかなり大ピンチです。」

「えっ、なんで。」

「その発言ですら、何度も何度も聞いてしまっている状況が、ですよ。」

 僕は少しばかり長めに息を吐く。

 緊張。

 ほぐれるわけもない。

「代わりに、女神に殺させるしかありません。」

 クソ女。女神とのゴミのような会話が始まる。

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