第四十一話 時間旅行戦 その3

 時間旅行の能力には幾つか考えるべき点がある。

 その中でも、とりわけ重要なのが。

 この手下が死んだ際に、時間が戻る訳だがそれがどこまでなのかということである。

 この時間軸における点が重要となる。

 今のところ、僕と不良はこの手下を殺すことによって必ずエレベーターの中に戻されてしまう。そこからまた物語は進み、エレベーターが開いて、手下に出会う、そして、解毒薬の説明を聞く、手下が死ぬ。

 繰り返し。

 繰り返し。

 ということろである。

 つまりは、この戻ってしまう場所が必ずエレベーターの中であることを考えなければならない。

 また、そこから考えることのできる要素として、まずこの手下は自分の死によってどこまで巻き戻せるのかを決められないということが分かる。これは、同じ場所から手下にとって明らかに有利に交渉を進めることができたパターンもあったのに、エレベーターから降りて手下と話し始めた瞬間で、時間の巻き戻しが止まる、というようなことがなかったためである。

 常に、エレベーターの中。

 これは手下がこの時間旅行という能力の自由にできない部分と言える。

 もう一つ、付け入る隙がある。

 それは、この手下が時間が巻き戻ったことに気が付いていない点である。

 能力自体がチート過ぎるので、発動した側に記憶が残らないということで、リスクとリターンの天秤を合わせたのか。

 そのような大きな意思が介在しているように感じる。

 今のところは、事実だけを見るべきだ。

 この手下は何も覚えていない。

 自分の能力が発動したことすら覚えていないだろう。

 でも。

 何故。

 僕だけが時間の巻き戻しに気づいているのか。

 魔王というジョブだから、なのか。

 いや、どうにも腑に落ちない。

 この記憶の維持の回数が限られている可能性も高いが、この点は無視しよう。

 考えるだけ、今は無駄な気がする。

「時間が巻き戻りますね。」

「ははっ、その通り。何度だって巻き戻る、ははっ。」

 巻き戻る点の候補は二つ。

 一つ目は、手下を中心にして半径何メートル以内に入った瞬間。

 二つ目は、お互いが相手のことを認識した瞬間。

 一つ目について、考える。これはエレベーターの上下運動が単純にその手下を中心とした能力発動条件の距離の中に入った、ということ。

 単純な話である。

 二つ目について、考える。これはかなり抽象的だが、エレベーターが開き、手下が仏像を殺していた状況を発見して話しかける、ここがその点となる。実際、認識した瞬間というものは明確に存在している訳だが、もしも、これが条件となると、この能力は遥かに使い勝手の悪いものとなる。例えば、かなり昔にどこかで会っていて、また別の場所で出会った時に、その能力が発動すると最初に会った瞬間にまで時間が巻き戻ることになる。能力者である手下が、自分の能力の発動に気が付いていないのだから、どの出会いにまで戻るのかは選べない可能性が高い。

 そう考えれば、既定の距離内に入ってしまった瞬間に能力が発動するというのが一番考えやすい。

「斬り殺してやりてぇのによぉ。」

「斬り殺してください。」

「へっ。いっ、いいのか、その。あの。時間が巻き戻っちまうとか、その、なんかあるんだろ。」

「あっても結構です。景気よくお願いします。」

「ははっ、魔王君は過激なことを。」

 口から差し込まれた日本刀が首の骨を砕く音、後頭部から飛びだした血の色。

 それらを確認する。

「殺していいんだよな。」

「大丈夫です。」

 僕は微笑む。

「何度でも殺しましょう。」

 手下は笑顔だった。

 僕も笑顔だ。

 そして。

 エレベーターの中。

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