第四十話 時間旅行戦 その2
対策としては何が考えられるのだろうか。
例えば、この手下をどこかに捕まえておく。
そうすれば、解毒薬も手に入るし、殺している訳ではないので時間旅行の能力は発動しない。
しかし。
しかし、なのだ。
手下はためらいなく舌を噛み切ることくらいはするだろうし、仮に猿轡をしたとして指先一つで体を拭き飛ばすくらいの爆弾を隠し持っていると考えられる。というか、それくらいのこともしていないなら、この能力を使いこなせているとは言えない。
自分の死を盾に少しでも有利にことを運ぼうとする。
殺す、殺されるということではない。
交渉において無類の強さを誇る。
時間旅行。
物理的な攻撃力など最早無意味である。
豪華客船の中で戦った視線抜刀よりも遥かにいやらしい能力。
「逆に気になる点があります。」
「ははっ、聞いてもいいよ。」
「それだけの能力をお持ちなら、村人を生け捕りにする以上の要求が可能なのではありませんか。その能力をちらつかせながら会話を進めて僕らをいいように操ることも考えられるのですが。」
「じゃあ何故、僕がそういうことをしないと思う。ははっ。」
「貴方はとても紳士的で性格が良い、からとか。」
「ははっ。」
「もしくは私たちが紳士的で性格が良いから、貴方としても譲歩してくれた、とか。」
「ははっ。」
「てめぇ、笑ってねぇでさっさと話し進めろや、この野郎。」
「ははっ。それはね、僕が君たちの敵ではないからさ。ははっ、ははっ。」
予想の回答の斜め上だった。
話が全く繋がらない。
「すみません。どういう意味でしょうか。」
「君らのバックには女神がいるんだよね、ははっ。」
女神。
女神の名前を出すか。
ここで。
僕らや不良をこの世界に転生させたクソ女。
クソ女神。
「女神がバックにいる以上、君らはどんな形であっても村人を殺すことにはなるんじゃないのかな。ははっ。」
「なるほど。つまり、村人を裏切ったのも、僕たちに女神がついていることを知ったから、と。」
「まぁ、他にも理由はあるんだけどさ。ははっ。早い話が、そういう女神と敵対して最後まで寿命を全うして逃げ切れるのなんて、村人以外いるわけないだろう。ははっ、僕みたいなただのチート能力者程度なら、女神は殺せるんじゃないのかな。」
「まぁ、間違いはねぇな。あの女、クソ強いし。」
「だろう。ははっ。だから、村人の仲間のままではいられないけれど、少なくとも解毒薬というアドバンテージがある状態で、生け捕りっていう交渉はしておこうと思ってね、ははっ。」
「女神に敵であるとか、障害であると思われない程度の要求を僕たちにすれば、そのあたりは目をつぶってくれるのではないか、と。」
「そういうことさ。ははっ。」
賢い判断だとは思う。
女神にとって邪魔だと判断されれば、どのような運命が待っているかなど分かったものではない。
ただし。
それは僕と不良も同じだということを分かっていない。
仮に、村人を殺せなかったとしたら、僕らでさえただ捨てられるだけなのだ。女神にとっては別に急を要するような問題ではないのだから、わざわざ肩入れするような意味もない。
死ねば次の魔王が現れる。
それだけだ。
「なるほど、よく分かりました。どうやら貴方とは。」
「貴方とは、なんだい、ははっ。次の言葉が気になるよ。ははっ。」
「仲良くさせていただいた方が良いみたいですね。」
解毒薬を奪って、こいつを殺す。
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