第三十九話 時間旅行戦 その1
「要求はなんでしょうか。」
「村人の生け捕りだね。ははっ。」
「村人ってどんなもんなのか、分かってるんだろうな。お前。」
「もちろん。僕が一番よく分かっているよ、ははっ。本当にこの世界においては、最強だよね。ははっ。」
「それを生け捕りなんて、できる訳ねぇだろ、ボケ。殺す勢いでやんなきゃ終わりだぜ。こっちが殺される。」
「ははっ。じゃあ、この解毒薬は渡せない。」
「殺すぞ。」
「ループに閉じ込めるぞ。」
会話は前には進まない。
まず、手下の要求の難易度がかなり高いことは言わずもがな、である。
仮に、今現在発動中の八段旅行が成功したとして、生け捕りできるくらいにまでこちらの能力が上がるとは言えない。あくまで、倒す、殺す、という目的に焦点を当てているのだから致し方ない。
だが。
その点を、この手下は良しとしない。
毒薬も渡さない。
さて。
私の立場は今のところ決して良くはない。
前に毒を飲まされているのでどこかでそれを治す必要がある。八段旅行は最初の目的にのみ反応するものなので、このまま進めていたとして解毒薬に会えるかどうかの保証は全くない。
つまり。
ここが最初で最後のタイミングだと思った方が良い。
加えて、この毒を治さない限り村人を倒す前に必ずどこかで死ぬことになる。
「村人の生け捕りを要求する理由はなんでしょうか。」
「単純さ。君たちは村人が死ねばそれで終わりだと思っているんじゃないかな。ははっ。」
「まあな。そうすりゃ、あたしらは万々歳だ。女神も別に何もしてこねぇだろうし。」
「ははっ。でもね、その後の世界はどうなると思う。また、村人みたいな存在が現れたらどうしよう、なんて皆思うことになるのさ。ははっ。村人が生まれたメカニズム、そして、それを生むにあたって必要となるバグや、そのバグの発生条件。村人自身が自分にどのような永続魔法をかけていて、何を摂取し、何を摂取していないのか、筋肉は骨格は神経は、細胞は、分かるところはすべて調べておく必要があるのさ、ははっ。」
「調べてデータ化して、また村人のような存在が現れた時の参考資料として使い、対策を立てる。そういうことですね。」
「ははっ、僕は村人を倒すまでの話をしているんじゃない。村人を倒した後の未来の話をしているのさ。」
立派な考えではあると思う。
この世界の平和が瞬間的に訪れることは間違いないだろう。きっと、村人にも寿命はある訳で、時間と共に解決する問題であるとも考えられる。
だが、果たしてその平和が続くものなのか、と問われれば甚だ疑問なのである。
何かを成すよりも、成し続けることの方がはるかに難しく。
何かを成すよりも、成し続けることの方が評価が低い。
というような。
そんなクソのような哲学はどうでもいいわけで。
この手下。
裏がある。
どう考えても生け捕りをして欲しい理由はたった一つ。
ステータスの引継ぎである。
この世界では死ぬとその時の数値が固定化されるという現象がある。これはその後に攻撃力をプラスするアイテムというようなものを死体に使っても、そもそもアイテムの効果が発動しないようにするための設定と言える。これにより、ステータスに永続的に影響を与える希少なアイテムを無駄に使わないようにすることができている。
魔法で、仲間のステータスをもらい、自分を一時的にパワーアップさせるというものがある。これは本来は禁呪であるのだが、そのあたりの説明は割愛させてもらう。ただ、この魔法にも難点があり、それは生きている仲間にしか使えないのである。
そして、これもデバックアイテムの類ではあるのだが、テスト永続、というものがある。これを使った上で魔法を使うと、それがMPの消費に関係なく永続的に発動し続けるというものがある。
これを掛け合わせることで。
魔王のステータスを自分に付与し、なおかつ永続的にする。
ということが可能となる。
正直に言って。
村人の手下をやっているような人間が平和のために急に活動するわけもない。
ここまでは問題ない。
問題ないのだが。
だからと言って、時間旅行がある限り、その要求をのまないという選択肢は。
こちらにはない。
「ははっ、交渉さ。ははっ。」
これは交渉ではない、品の良い脅迫である。
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