第三十八話 御仏百景 その3
「ジョブが魔王だから、ということですかね。」
「魔王、何言ってんだよ、てめぇ。目の前の敵に集中しろって。」
「十四回目。」
「何が、だよ。」
「いえ。」
「あそこで笑ってる男、御仏百景を使う仏像を殺したやつだろ、絶対、やべぇ奴に決まってる。」
「四十二回目。」
「だから、そのカウントなんだよ。」
「それは七回目。」
「だから、そういうのうぜぇからいいって。」
「エレベーターが開いて、仏像が壊されているのを見て、そこにあの男がいて、笑っていて、解毒薬をもらう。」
「は。」
「これは、何度やっても同じですね。
「何が、同じなんだよ。」
「今回は、交渉しましょう。」
「いやいや、解毒薬とか、なんだ。何の話だよ。」
僕が先にエレベーターを降り、その後ろを不良が付いてくる。
日本刀を抜こうとしたので、それを僕が片手で制する。
初めて会う男は。
いや、手下は。
解毒薬を持っていて、かつ、村人を殺してほしいと話してくる。
「ははっ。初めまして。」
白々しい。
「初めまして。僕は魔王です。こちらの女性は仲間。」
「ははっ、よろしくね。早速なんだけどさ。ははっ。」
「覚えていらっしゃらないのですか。」
「なんのことかな、ははっ。」
わざとなのか、それとも。
分からない。
「まず、貴方の能力の話をしませんか。」
「ははっ、話が早くて助かるよ、ははっ。ていうことは、もう何度かここに来てるんだね、ははっ。」
不良だけが首をかしげている。
「能力の説明を差し支えなければお願いできますか。」
「ははっ。いいよ。そこのアバズレ不良クソ女もよく聞いた方がいいね。ははっ。」
「なんだ、てめぇこの野郎。」
「余り、この手下を怒らせないでください。得たいがしれない。」
「手下って、なんだよ。誰の手下なんだよ、こいつ。ていうか、魔王はこいつと昔どっかで会ったことがあるのかよ。」
手下は大きな声で笑うと、近くにあった仏像の入っている立方体を引き倒して見せる。床の埃が舞うが、それが汚そうではなく、まるで神聖なベールのように見えた。
「ははっ、僕の能力は時間旅行。ある特定のアクションが身に降りかかると、それが確定した運命となる少し前の状態にまで時間を戻すことができる能力さ。そして。そこの魔王君が気が付いている通り、僕がこの時間旅行で指定した特定のアクションは死。つまり、僕が死ぬたびに、お二人が僕を殺す限り、物語は先に進まないのさ、ははっ。」
じゃあ、殺さなきゃいいじゃん。
ということには絶対にならない。
何故か。
手下はこのような説明をしたとしても問題ないと踏んでいる。
つまり。
納得のいく形でことが進まなければ、手下は自殺でもなんでもして、時間を戻せるのだろう。
他殺でも自殺でも死さえ選べば能力発動。
厄介ではないのか。
殺すとか、殺さないとか、そういう次元の話ではない。
もっと高尚な、次元の高い能力。
時間旅行。
運命に直接手を下すことのできる。
命の奪い合いではなく、時間の奪い合い、その後の未来の奪い合い、もっと言うのであれば現在の奪い合い。
「ただ村人を殺してほしいというだけではないのでしょう。解毒薬も所詮、話をスムーズに進めるためのただのギミックなんでしょうし。」
「ははっ、ははっ、いいね。すごくいいね、ははっ。ちゃんとお話のできる相手で助かったよ。ははっ。」
状況は決して、良くはない。
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