第十二話 1Fフロアボス戦 その3

 結論から言うと、八割がた成功したと言っていい。

 まず、小さい本は本棚の中に閉じ込める。

 これは正解。

 次に、大きい本を居残抜刀で殺す。

 これも正解。

 ただし。

 居残抜刀で殺しきる前に本が閉じてしまう。

 これが計算外。

 というわけで。

 後輩も死んだ。

「これは困りましたね。」

 この洋館の整理されているところが好きだったのだが、もう、自分で倒してしまった本棚と本が散乱している。

 正直、不快である。

 後輩の血と肉片が本に染み込んでしまっている。もう、読む気もしない。高価な本もあっただろうに、残念なことである。

 エレベーターから小さく音がする。

 そして。

 扉が開く。

「で。やったのかよ。」

「やりましたよ。」

「やったんじゃなくて、やらせたんじゃねぇのかよ。」

「やらせたんですよ。」

「なんでやらせたんだよ。」

「あれ、邪魔でしょう。」

 不良が首を触りながら鼻で笑う。

「殺すほど、ではあるけどよ。でも、もっと別のところで体よく殺すこともできたんじゃねぇの。」

「正直、計算外ではありました。ここで、死んでもらう予定ではなかったですが、結果的にはいつか殺す相手を今殺した、ということで。」

「あの村人の手先だったんだろ。後輩面してた、あのクソって。」

「今、思えば八つ子の自殺も裏で何かしていたのかもしれませんね。もう、分からないことですが。」

「良い能力だったよなぁ、居残抜刀って、罠系も直接でもいけるってチートだろ。」

「蝙蝠抜刀もチートでしょう。」

「あたしの蝙蝠抜刀は殺した相手の血や臓器、骨や肉を啜って蓄える能力だからな。日本刀を高性能にする方に使ってもいいし、自分の怪我のストックに使ってもいいし。あたしにしちゃあ、こんなすげぇ能力他にはねぇと思うけどな。」

 ただし。

 千人以上斬り殺さないと、そもそもその能力の恩恵も受けられない。

 つまり。

 不良は僕と共に行動する前には、もう千人以上は殺しているのである。

 能力なしの状態で、である。

 僕からすれば不良の長所は、その蝙蝠抜刀なのではない。

 不良の長所は最強であること。

 それ以外にはないのだ。

「あの、後輩ってよぉ、裏で何してたんだ。」

「中々ですよ。」

「なんだよ。」

「さっき荷物を探っていたら、見つけましたよ。」

「何をだよ。」

「高価ですよ、これは。」

「だからなんだよ。」

「シャンクスペテルズツエルリテ。」

「しゃ、しゃんく、ずつ。なんだ、そりゃ。」

「毒です。」

 不良が固まった。

「僕らが食べた、あのステーキに含まされていたみたいですね。」

「じゃあ。」

「近いうちに死ぬでしょうね。」

「その、しゃんく、とかなんとかっつう毒を解毒するには。」

「それができる能力者を探すほかないです。」

「じゃあ、探そうぜ。」

「できません。」

「何言ってんだよ。探そうぜ、あたしは大丈夫だけど、お前。」

「この洋館には村人を殺す目的で入っています。解毒を目的で入っていないので、この洋館は解毒のために必要な情報はくれません。」

「いやいや、フロアのクリア条件が、この洋館の外で何かをするだったら、外にワープする場合だって考えられるじゃねぇか。その時に、探せば。」

「つまり、解毒できるような能力者がいる場所にワープさせてもらえるかは運ということです。」

 この毒は、特定の場所でしか取れず、その近くに僕らがいたことはない。そう考えると、瓶に入れてから直ぐに使わないと効果がない毒なので、明らかにステーキに含まされていたことは分かる。

 誰かに渡されて、後輩はそれを使ったのか。

 もう、うかがい知ることはできない。

 しかし。

 本当にいい毒なのだ。

 何せ、前触れのない。

 突然死。

「いやだぞ、あたしは。絶対に。」

 ありがとう。

 ひとりでにカーペットが現れ、このフロアの奥に行くように導いてくる。

 おそらく。

 それがこのフロアのクリア条件を示しているのだろう。

 僕は歩き出す。

 不良は。

 地面に散乱した本棚や本を蹴とばしている。

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