第十三話 視線抜刀
カーペットの先にあったものは回転扉であった。
しかし。
ガラスなどで向こう側が透けている。
というわけではない。
一つ一つの戸が黒く塗られている。
向こう側に何があるのかは分からない。
しかも。
それが本棚に食い込んでいる。
回転扉の外枠の部分に丁度ある本などは、まるで侵食されてしまっているかのようでも、回転扉と接合してしまっているかのようにも見える。
明らかにこの回転扉は無理矢理ここに作られた。のではなく、強制的に生み出された、もしくは召喚されたといってもいいだろう。
先ほどの巨大な本。
壊すことができたことで、条件が整い先に行けるようになった、と見るべきだろう。
「あの、魔王よぉ。さっきの話だけどよ、あたしは絶対にあきらめてねぇからな。」
「何がですか。」
「毒だよ、毒。その、死ぬかもしんねぇじゃん。」
「いつ、効果が出ると思いますか。」
「いや、その毒の効果が、かよ。えぇと、そうだな、三日とか、そんな感じか。」
「一か月です。」
「え。」
「結構猶予あるんですよ。この毒。」
不良が安堵のため息をついてから鬼の形相で僕の頭を叩いた。
激痛などではない。少し、熱い、という感覚に近かった。
僕は叩かれた部分を触る。
「てめぇ、焦らせんじゃねぇぞ。ぶっ殺すぞ。」
「いやいや、そういうつもりじゃなかったのに、どんどん深刻になるので言いづらかったんです。」
「心配するじゃねぇかよ。」
「すみません。」
もちろん。
嘘である。
おそらく今日を含めて五日。
このあたりが妥当だろう。
「それより、見ろよ、ここ。」
不良が回転扉の横にある案内板を指さす。
「なんか、書いてあるぜ。えぇと。」
「豪華客船に乗っている富豪から、村人の秘密を教えてもらう。」
「注意事項も書いてあるぜ。視線抜刀。取立抜刀。彼岸抜刀。水際旅行。硝煙旅行。血染百景。この能力を持つ者の中に、秘密を知っている人間がいる。おいおいおい。ちょっと待てよ、この八段旅行って能力。」
「ヒントしか与えてくれない。」
扱いにくい能力だとは聞いていたが、これ程とは。
「こんなんだったら、八段旅行なんか使わなきゃよかったぜ。」
「いや、使わなければ、そもそも富豪から聞き出すことで得られる情報が必要であるということも知らないままです。かなり、最短ルートに近いところを歩くことはできていると考えるべきです。」
「でもよぉ。」
「それに、十中八九、この視線抜刀の能力者が、知っているはずです。」
「え。」
この視線抜刀を使う能力者。
通称、安楽椅子の老人。
この男は。
「元々、村人の手下ですから。」
僕は回転扉に入っていく。
「おいっ、待てよ。」
不良も後からついてくる。
くぐり抜けた瞬間。
地震が起きて体のバランスを崩しそうになる。
いや。
そうではない。
地面が揺れている。
そして。
一定のタイミングで揺らされている。
何に。
決まっている。
波にだ。
いつの間にか固くなった床は木製になっており、場所は、ベージュ色の甲板。
白い手すりに囲まれ、その向こう側には青い海と、同じく青い空。
「へいへい、わりぃけど、大人しくしてれよな。ジェントルとレディさんよ。」
僕のこめかみに銃口。
後ろから来た不良の口の中に銃口。
二丁拳銃の男がその拳銃を突き出しながら顔を覗き込んでくる。
「一応、俺っち警備員なんだけどさ。えぇと、客じゃあないよね、あんたらさ。その服装も、その腰についてるやつも。」
「もし、客じゃないと言ったら。」
警備員はため息を一つ付くと、わずかばかり唸った。
「俺っちの能力は赤色旅行。安心してほしいのは、この銃に弾なんかこめられちゃいないってこと。そして、その弾はこれからこめられる可能性があるってこと。」
「僕たちがこめることになる、ということですか。」
「ジェントル。話が早くて助かるぜ。」
不良が何か叫んだが、よく聞こえない。
「この赤色旅行は、銃口を向けられた人間が俺っちの質問に根も葉もない真っ赤な嘘の回答をする。すると、その嘘に反応して弾が装填され、引き金が勝手にひかれるっていう寸法な訳だ。」
つまり。
拷問向き。
「視線抜刀を使われる方がこの船にはいらっしゃいますね。」
「あぁ、そうだが。それがなんだ。」
「僕らはその方に誘われてこの船に来た、飛び入りゲストなのですが。」
もう、ゲームは始まっている。
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