第十四話 赤色旅行戦 その1
真っ赤な嘘で、赤い鮮血飛び散らせ、気づけばあの世へ単独旅行。
そんな具合か。
赤色旅行。
「えぇと、視線抜刀を使う富豪に言われて乗船していると。へぇ、なるほどねぇ。まぁ、確かに空中浮遊をするような能力があれば、乗ることは難しくはないけども、だ。ヘイ、ジェントル。」
「何でしょうか。」
「お前。いや、ちょっと待ちな、もしかして、だ。」
そう言って警備員は押し黙った。
考えているのだろう。そのことは分かる。
いや。
こういう警備員は大好きだ。
仕事熱心であるし、真面目であることは分かる。
何より。
今。
ちょっと待ちな。
と言ったな。
そして。
押し黙ったな。
考えているな。
僕に質問する内容を考えているな。
お前が質問を考えている。ということは、どういうことか。
分からないと思ったか。
このバカが。
この赤色旅行という能力は確かに相手の嘘に反応して銃殺するというある意味、拷問に向いた無類の強さと有用性を兼ね備えたものであることは分かった。仮に、その説明が嘘であったとしても、もう別にいい。
何故。
考えた。
何故、質問を考えたのか。
普通に考えて。
質問しまくればいいではないか。
どうやってこの船に乗ったのか。
本当に視線抜刀の能力を持つ富豪と知り合いなのか。
本当に呼ばれているのか。
能力は直接攻撃系か。
能力は精神攻撃系か。
幾らでも質問すればいいのに、今、この警備員はちょっと待ってくれ、と言った上で質問内容を考えている。
つまり。
この赤色旅行。
質問回数に限界がある。
おそらくは、この警備員が向けている銃。
リボルバーというやつだが。
このリボルバーの限界装弾数がその回数であると考えられる。
六発。
これで間違いない。
この警備員は六回の質問で僕らが危害を加える存在かそうではないかを見極めなければならない。
根が真面目過ぎる。
明らかに真面目過ぎる。
その証拠に。
この警備員は不良の口の中に銃口を入れている。
間違いない。
不良を。
喋らせたくないのだ。
おそらく、質問を言ってから銃口を向けている相手である二人がそれぞれ答えてしまうと、それで二人に対して一回ずつ質問を使い切ったことになるのだろう。答えが同じだった場合は、一人に聞けば事足りるのに、一回分質問を無駄にすることになる。
その点。片方を喋れない状態にして、一人に質問をしてからもう片方に質問すれば間違いなく、一人六回ずつを二セット。計十二回新しい質問ができる。
真面目だ。
真面目過ぎる。
「僕からお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか。」
「いいぜ、ジェントル。」
「もし、視線抜刀を使う富豪のお友達であった場合、貴方はどうするのですか。」
「どういう意味だい。」
「ゲストに向かって何様だってことですよ。」
揺れろ。
心を揺らせ。
一介の警備員の立ち位置が高いわけもない。ここでの無礼が自分の身に後になって降り注ぐのではないか、と考えれば絶対に心は揺らぐ。とりあえず自分が付いていって会わせてみればいいか、そんな甘い考えを持ってくれるのであればなおよし。
その僕に聞ける六回の質問。
その回数が六回も質問できる、ではなく。
六回しか質問できない。
そちら側に思考を回せ。
そして。
二度と帰ってくるな。
「ジェントル。」
「何でしょう。」
「嘘をつく人間には、嘘つきしかいない。」
「それは、そうでしょう。」
「しかし正直なことを言う人間には、正直者も嘘つきもまぎれている。」
波の音が急に遠くなる。
代わりのように自分の心臓の鼓動が聞こえ始める。
「意味が分かるかい。嘘つきってのはね、嘘を使い分けられるから嘘つきなのさ。その時々で正直に答えた方が利益が大きいと判断すれば、嘘つきは正直な発言だって当たり前のようにする。」
「それは、確かに。」
「ジェントル。あんた、頭良いだろ。分かるぜ、何人も脳天に弾をぶち込んできたからな。そんでもって、俺っちの人生経験から言わせてもらえれば、賢い人間は往々にして嘘つきだ。」
僕は微笑んだ。
この警備員を。
舐めていた。
「お喋りをしようぜ、ジェントル。嘘つきは仲間外れの、とびきりのお喋りをな。」
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